あたしのあした09
九月も下旬になろうかというのに、まだプールで泳いでいる者がいる。
水泳の授業をサボリまくっていた者たちだ。
理由のほとんどは「生理中」だ。ひどいときは半分近くがプールサイドで見学している。
「なんで、こんなに生理中が多いんだ!」
体育の水野先生が吠えた。水野先生はオッカナイから、みんな俯く。
「いいか、規定の回数泳がなかったら単位認定しないからな!」
そう言いながら、先生はプールサイドの見学組を睨み据える。
「だって、ほんとなんだもん……なんなら使用済みのナプキン見せましょうか?」
横田智満子が大胆なことを言う。さすがの水野先生も言う言葉が無い。
こういう要領を心得ているから、智満子はボスでいられた。
で、けっきょくは、九月のこんな時期になって補講で泳がされている。浅はかなんだけど、当人たちはトレンドだと思っている。
その智満子は、おとつい完膚なきまでに凹ませてやったので、この三日間学校を休んでいる。
で、サボリ女子たちは大人しくプールの補講を受けているんだけど。こんな事件が起こった。
あたしは、授業の後れを取り戻すために図書室で勉強していた。
「ごめんなさい、今日は、これで図書室は閉館です。直ぐに荷物を片付けて退出してください」
司書の猪瀬さんが済まなさそうに宣言した。
「あのう……なんで閉館なんですか? 五時十五分までは開館じゃないんですか?」
調子が乗って来たところだったので、思わず質問してしまった。
「ごめんなさいね、子どもが熱を出したので、保育所にお迎えにいかなきゃならないのよ」
猪瀬さんは、眉をヘタレ八の字にして手を合わせた。
だったら、他の図書部の先生が部屋番してくれればいいのに、と思ったけど。言ったら、猪瀬さんが困りそうなので、大人しく図書室を出た。
キャーーーーー!!
覗き魔ああああああああ!!!
下足室を出ると、プールの更衣室の方から悲鳴が聞こえた。
とっさに更衣室の方へ駆け出すと、プールに隣接している通用門(普段は閉じられている)を乗り越えて逃げていく男の後姿が見えた。
ブロン ブロロロローーーーー!!
通用門の外に停めてあったのだろう、バイクが急発進して遠ざかっていく音がした。
そして、問題は、これだけでは済まなかった。
覗き魔は数枚の下着を盗んでいたのだ。
「あんちくしょー! 許せない!」
補講女子たちは、そう息巻く……と思ったら。
「「「「「怖くって、プール入れませ~ん( ノД`)シクシク…」」」」」
合法的なサボリの口実にしてしまった。
水野先生は渋い顔をしたが、サボリ女子の後押しをするように、覗き魔は隠し撮りした動画をアップロードしていた。