魔法少女マヂカ・157
ペチャペチャと舐められる感触で意識が戻った。
わ!?
不覚にも驚いてしまった。
視野いっぱいの獣の顔だ。顔の半分は涎の垂れた舌で、危うく、その舌に絡めとられそうになったところを、体を捻って立ち上がった。
ん……!?
目の前に居るのは友里とツンだ。
「よかったあ、やっと気がついた!」
ワン!
「おまえたち……」
「一人でお城に入って行ったかと思うと、突然の大爆発で、ほら、周りを見て」
「周り……これは?」
それは、東京ドーム二杯分はあろうかというほどのレゴブロックの山だ。赤と白が大半で、僅かに透明と黒が混ざっている。数億個、いや数十兆個もあるかもしれない。
「こいつは……ひょっとして、東京タワーは、このレゴブロックで出来ていたのか?」
「よく分からないけど、そんな感じ。崩れたブロックの山からうめき声が聞こえたんで、ツンといっしょに山をかき分けたんだよ」
「そうか……春日部では鉄塔の妖が出てきたんで、東京タワーも鉄製のの本物だと思ったんだ。鉄だという先入観があったから、山のような鉄骨が崩れてきたら、もうお終いと思ってしまったんだ。プラスチックのレゴだと分かっていたら、簡単に撥ね退けていたのに。思い込みとは恐ろしいものだなあ」
「こんなのもあるよ」
友里が指の先ほどの小さな戦車を摘まみ上げる。
「これは……食玩か?」
「しょくがん?」
「ああ、ガムやキャラメルのおまけに付いているやつだ。有名なのはグリコのおまけだとかだ……ああ、こいつが戦車の正体か」
「戦車が出てきたの?」
「幻だ、思い込みで、こんな食玩を本物と思い込んでしまったんだ」
「そうなんだ……でも、東京タワーで良かったわね」
「なぜだ?」
「東京タワーって、鉄骨のトラス構造で隙間とか多いから、崩れやすかったんだと思うよ」
「ああ、そうだな。鉄製の本物だったら厄介……厄介と思い込んできりきり舞いをしていたんだな」
「そうだよ、ブロックというのは隙間なく結合させると、けっこう頑丈なものになるんだよ」
そう言いながら、友里はブロックを小気味よく結合している。
「子どものころ、そうやって遊んだのか?」
「そうだよ、こうやって、こうやって……こうこうこうこうこう……」
「友里……」
「こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう……」
「分かった、もういい……」
「こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう……」
「友里、止めろ!」
手で払おうとすると、友里の体が、ポリゴンのように、いや、ブロックで作ったオブジェのようにカクカクとして、他のブロックといっしょに結合していく。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
爆ぜるような音をさせ、加速度的に結合していくブロックは友里とツンも呑み込んで、わたしの四方八方を取り囲んでいこうとする! 友里もツンもブロックの妖か!?
グオーーーーッ!!
風切丸を抜きながら、閉じようとしている結合の頂点を突き破る!
バチバチバチバチバチバチバチバチーーーン!
あと二三センチという結合の間隙を突き破り、振り返りもしないで、灌木林の向こうに着地する。
着地すると、灌木林の向こうはマージャンパイをミキサーでかき混ぜるような音が続いている。どうやら、灌木林が結界のようで、こちら側には来る気配がない。
橋の欄干の根元に、友里とツンが伸びている。
危ないところだった。
しばらく観察して、ブロックの妖でなければ起こして出発することにする。