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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・20(日替わりエロイムエッサイム)

2019-04-04 07:03:47 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・20

 (日替わりエロイムエッサイム)
 

 

 とりあえず、都内の大型ショッピングモールのイベントステージを借りることにした。
 

 都内のホールやイベントスペースは、どこも予約が入っていて、おいそれとは借りられない。ショッピングモールも全てがイベントステージを持ってるわけではなく、とにかく会場の確保が最大の問題だった。
 日本の芸能史上でも、一週間足らずで、ここまで人気の出たアーティストはいない。急激な需要に、真由の供給が追い付かない格好だ。

 大江戸テレビには、正月早々スポンサーの申し込みが相次いだ。大概が中規模企業の相乗りスポンサーで、真由の番組やイベントを支えて行こうというのだ。
 

「正月番組の使い残しのセットで仕上げたとは思えないわね」

 山田プロディユーサーは、本日の会場であるプラズマモールの舞台の仕上がりを見て大きく頷いた。

「スクラップの買い取りでしたから、並の半分の費用でいけましたよ」

 美術さんは、鼻高々だった。
 

 しかし、いかんせんショッピングモールのイベントスペースなので、正規のキャパは200ほど。椅子を取っ払い、二階のギャラリーも観客席に見立て、なんとか500は確保できた。

 当然テレビ中継もしているので、テレビでも動画サイトでも観られるが、やはりライブで観たいというのが人間の心理である。

「真由ちゃん、悪いけど予定変更。30分のステージを8回でやる」

「え、8回ですか!?」

「うん、最寄りの駅の情報やら、ブログのアクセス数から、そのくらいやらないと収まらない予想なのよ」

「……いいですよ。みんなあたしの歌を聞きに来てくださるんだから、喜んでやります!」

 元気のいい返事だったが、一瞬の躊躇があった。8回で、延べ40曲を歌う。自分の喉がもつか心配だったのである。
 

 開場前から並んだ観客は1000人を超えた。そしてお年寄りの数が二割ほどと多く、急きょ前列に高齢者席……では失礼なので『人生のベテラン席』を設けた。

 局の制作部も負けてはいない。スポンサーになってくれた某信金のマスコット人形が真由に似ているので、別のスポンサーが販促用に大量に持っていたギターのミニチュアをくっつけて500限定で真由のマスコットを作った。そして、これは二回目の公演で完売。なんせ原価はタダ。売価は800円(税込)にしたが、お釣りの百円玉が足りなくなると「1000円で釣りはいらない」というお客さんが増え、その日のうちにプレミアが付き、ヤフオクで5000円の値段がつくようになった。
 

 不思議なミニコンサートだった。

 下はお母さんに連れられた保育園児から、老人ホームからやってきたような80代のお年寄りまで、観客層は多彩だ。

「ありがとうございます。あたし事務所もライターさんもいないので歌える歌は、著作権にかからない昔の小学唱歌しかないんです。好きだってこともあるんですけど、こんなにたくさんの人たちが来てくださって、とても嬉しいです。ファンというのはおこがましいので、仲間のみなさんと呼ばせてもらいます。仲間のみなさん、ほんとうにありがとうございます」

 二回目までは、この挨拶ですんでいたが、三回目になると名残惜しい仲間のみなさんから声がかかった。

「最後に一曲!」

「ほ、蛍の光がいいわ」

 元学校の先生だったお婆ちゃんが言った。現役のころ、卒業式で歌い、歌わせかったが、現場はそんな雰囲気ではなく、学校ではほとんど歌ったことが無かった。

「それ、いいですね。この曲は、スコットランドのオールド・ラング・サインという曲が原曲なんです。もとはお別れの歌じゃなくて二人の友情の歌なんです。では、原曲の後で、一番と二番を唄います。みなさんもご一緒にどうぞ」
 

 真美が前奏の後で静かに原曲を歌った。
 

 Should auld acquaintance be forgot,  and never brought to mind ?

 Should auld acquaintance be forgot,   and days of auld lang syne ?

 CHORUS:  For auld lang syne, my dear,  for auld lang syne,

 we'll tak a cup o' kindness yet,  for auld lang syne.

「それ、NHKの朝の連ドラで歌ってたよ!」

「懐かしい!」  

 で、日本語バージョンになると、開場は大合唱になった。
 

 孫悟嬢が、観客に紛れて来ていたのは、ウズメしか気づかなかった……。


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