くノ一その一今のうち
「今から国王に会ってもらう」
車寄せでバスを降りると、トヨタを下りた王女が待ち構えて告げる。
遠足で目的地に着いて、先生が、取りあえずの注意をしている感じでおかしい。
「謁見の形式なので、身なりには気を付けてもらう。特段に着替える必要はないが、ネクタイはまっすぐ、ボタンは上まで止めて、上着のボタンも締めて欲しい。基本的に、聞かれたことのみ応えて、発問は控えてもらう。その後は王妃と会食。二時間ほどはかかる。途中トイレにはいけないから、10分間のトイレ休憩にする」
ほんとうに引率の先生だ(^_^;)
トイレ休憩が終わって、いよいよ謁見。帝国ホテルの結婚式場か(行ったことないけど)と思うくらいに高級感漂う広さと豪華さ。
二段高くなった、その上にクッションで脇と背中をサポートされた玉座に王様が座っている。脇に控えているのは、おそらくはドクターだろう。
「父上、日本より『バトル オブ ハイランド』の撮影隊の方々が来られましたので、お連れいたしました」
「うん、ごくろう。みなさん、はるばる日本からお越しいただき、まことにありがとう。国王のアデノシン・サンリンサンです。高原の国を代表して歓迎いたします」
王女の目配せを受けて、まず徳川社長が挨拶し、みながそれに倣ってまあやの番になる。
「鈴木まあやです、縁あって、今回主演を務めさせていただきます」
「鈴木とは……」
「あ、はい、日本で一番ありふれた苗字です(^_^;)」
「……苗字はそうでしょうが、身にまとわれた雰囲気は尋常なものではない。まあやさん、今少し顔を上げて目を合わせてはくださらんか」
「は、はひ(#'∀'#)」
アセアセで顔を上げたまあやに王様は目を丸くされた。
「おお、似ている。若いころの母にそっくりだ、今少し近くでお顔を見せて下さらんか」
「は、はい……」
三歩ほど前に出ると、控えのドクターが――そこまで――という目配せをして、まあやは足を止めた。
「アデリア」
「はい」
「まあやさんの横に並んでみなさい」
「はい」
「……ここには、撮影隊の方々の他にはドクターのホイヘンスしかおらん。ホイヘンスはおまえの侍医でもある、サングラスをとりなさい」
「はい……」
ゆっくりとサングラスを外す王女。
「わたしの顔だけを見てどうする、みなさんにも顔を見ていただきなさい」
「そ、それは……」
「王命である」
「はい!」
わ!?
おずおずと振り向いた顔に息を呑んだ!
め、めちゃめちゃ可愛い!!
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女