RE・かの世界この世界
あ………
中臣先輩は息をのんだ。
切り揃えた前髪で眉が隠れ表情が読めない。
中臣先輩は表情の核心が眉、特に眉頭に現れる人なんだ。ピクリとしたかと思うと前髪で隠れてしまった。
眉を見せてください……とも言えずに志村先輩に目を向ける。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。
次の任務は、さらに大変そうだ。
モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。
二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。
ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって―― 失礼な奴! ――お互いに思う。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。
「ミッチャンの思ってる通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンとぶつかるの」
「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」
「ラブコメではないと思うぞ。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」
「そう、フラグなのよ……」
志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……屋並みの向こうに学校が見えてくる。
「この学校が舞台なんですか?」
「これは小学校……見て、屋上のフラグ……」
「あ」
それは、前の任務でも見た『白丸』だ。
「この『白丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」
「えと……旗を付け替えるとかじゃダメ……なんですよね(^_^;)?」
「この世界全てが当たり前に日の丸を掲げていなければだめだろ、白丸になっているというのは、歴史のどこかが狂ってしまった証拠だからな」
「じょ、冗談です(-_-;)」
中臣先輩が言うのは、もっとシビアだった。
「でも、それは、このステージの任務ではないと思う」
「そうだな」
「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思うわ。白丸に関わるのは、まだ先のような気がする。時美、設定画面を出して」
カチ
志村先輩がクリックすると、わたしの全身像が現れた。
「どうする、初期設定はリアルのままだけど」
「これでいいです、キャラクリしてもアビリティーは変わらないでしょうから」
「アビリティーは……HP50 MP50……それだけみたいだな」
「あ、あっさりしてますねえ(;'∀')」
「他に、なにかないの!?」
気の毒に思った中臣先輩が手を伸ばすと、アバターがすごい速さで切り替わっていく。
勇者 魔導士 錬金術師 剣士 弓兵 僧兵 妖精 鍛冶職人 スライム クリーチャー
アバターの下には、HP、MP以外にもいろいろ出てくるんだけど、早すぎて読めない。
「あわわ(;#'∀'#)」
「美空、手を離せ!」
「ご、ごめんなさい!」
「……と、これでよし!」
志村先輩が、なんとか元に戻すと、設定画面自体が点滅し始めた。
「時間が迫ってる。時実、ダブルクリック!」
「おお!」
志村先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え……え? 女装男子!?
「時間よ、みっちゃん飛んで!」
「は、はい!」
返事すると同時にホワイトアウト、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった……
☆ 主な登場人物
- 寺井光子 二年生
- 二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
- 中臣美空 三年生、セミロングの『かの世部』部長
- 志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長