大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校演劇の基礎2ー演出

2016-03-07 12:05:20 | 高校演劇基礎練習
高校演劇の基礎2-演出      初出 2011-07-01 11:55:50

【演出】演出の仕事は、演劇を上演するにあたり、まず台本を研究し、演出プランを作り、配役を行い、舞台装置・照明・小道具・衣装・効果・音楽・舞台監督・などの演出スタッフを編成し、上演のための全参加者に演出方針を伝え、一つの芸術的目標に向かって協力させていくかとである……と、演劇辞典(演劇小辞典抜粋)には書いてあります。その通りだと思うのですが、小規模演劇部にはむつかしいですね。

【実際的な演出の問題】創作、既成に関わらず、本が決まったら、台本に穴が開くほど読んでください。できることなら普段から本を読み、プランを持っていて欲しいものです。  蜷川幸夫という名演出家は、世間の注目を浴びる前に、何本もの本の演出プランを持っていました。蜷川さんは知らない人が多いですね。 ジブリの宮崎駿を始め、監督をつとめた人は、日頃から、何本もプランを持っています。「紅の豚」というアニメをご存じでしょうか? 「カッコイイとはこういうことさ」がテーマでした。この本のアイデアが決まるまでに数年を要しています。マニアならご存じでしょうが「豚の虎」というアイデアもありました。宮崎さんは、モデルになるドイツの老人にも会ってこられました。でも、これはダメだと思うとあっさり捨てました。監督=演出というのは、かほどに難しいものなのです。

 なんだか脅かしのようですね、気楽にいきましょう。とにかく読み込んで、今読んでいるところが全体では、どこにあたるのか、どんな意味があるのかまで分かるように読み込んでください。 例えて言うと、今の学校に入学したときの頃を思い出してください。右も左も分かりませんよね。それがどうですか、三年生にもなると学校の様子はほとんど分かっていますね。中には、先生の目をかすめて校外に抜けられる抜け道まで知っている人もいます。 そこまでいかずとも、この先生は「こういう人だ」と知っていますよね。この先生は、静かにさえしていればいい。また、ある先生は、こそっと携帯をいじっていても気づかないフリをしてくれるとか、あの非常階段は、ワルのたまり場になっっていて寄りつかないほうがいいとか、食堂のメニューは何がイチオシだとか……そういうレベルまで本を読み込んでください。 例えを続けます。転任の先生が「今度の耐寒訓練にはフルマラソンをやろう!」などと言い出したら、どうでしょう? 「そんなのムリ~!」と、思うでしょ。自分の学校をよく知っているから判断がつくんです。台本も同じです。「この表現は、うちの演劇部にはムリ~!」と、分かったら、他の表現にかえればいいんです。「フルマラソンは無理です。せめて、学校の外を10周にしましょう」という提案をするようなものです。「そのかわりショボクレちゃいけないので、スタートの時は花火をあげましょう! ゴールした子には食堂のうどんの券をあげましょう!」……これ、わたしが現役の教師だったころ、耐寒訓練を縮小したときに実際やったことです。大いに盛り上がりました。 これが演出なんです。少し分かってもらえたでしょうか。

 自分たちの力、個性をよくつかんで、力の中で、個性の範囲で一番光るように持っていくのです。たとえ話を続けます。学校でこれは無駄、または無理と思っていることはありませんか? 使いもしない守衛室。だれもこない同窓会館。なにやってんだかよく分からない総合学習の時間。などなど……そういうものは、廃止するか、縮小すればいいんです。具体例を二つほど……かつて学校では宿泊学習が流行った時期がありました。一年の四月の終わり頃にやっていました。あれ、準備と、お金が大変なんです。延べ二十人くらいの先生達が、延べ何千時間という時間を、忙しく大事な学年始めにとられます「そんなことをやる暇があったら、もっと生徒と接触してやろう」と、主張して、三年がかりで廃止にしました。今、やっている学校はほとんどありません。また女子の体育の時間のブルマ、今はほとんど絶滅してハーパンに替わっています。これも現職時代に、女子から「せめて、体育祭の時ぐらいジャージにして欲しい」という声がもとで変わりました。 演出も同じです。これは「うちのクラブでは無理」と分かったら、止めるか、他のものに置き換えます。

【実例】一昨年から去年、わたしは、ある高校の演劇部のコーチをやっていました。たまたまそのクラブがわたしの本を演ってくれることと、顧問の先生とのクサレエンで、そういうことになりました。「パリーホッタと賢者の石」という芝居で、コメディーです。なかなかコメディーにはなりませんでした。なんとか芝居らしくしてコンクールに臨みました。案の定、予選落ちでした。で、次の年は「ノラ」というSFロボットコメディーを演りはじめました。途中から、「これは無理だ」と思いました。6人という大人数の芝居にクラブが慣れていないのです。また、ロボット的コミカルさが出てきません。そのうち欠席者が増え、主役級の役者が、役が出来ずに落ち込んでしまいました。 そこで景気づけに名古屋音大のミュージカルコースの学生さんたちが演ってくれた「すみれの花さくころ」という芝居のDVDを見せました。「こんなんできたら、ええやろなあ~」と、ため息と憧れの両方を見せてくれました。 「ほんなら、これでいこか!?」ということで「すみれの花さくころ」をやることになりました。登場人物はほとんど2人、女子高生役で一人出ますが男に書き換え、3週間ほどで仕上げました。ロボット的コミカルさで悩んでいた男子は吉本的気楽な役で、いわばハマリ役でした。三人とも唄うことがすきだったので、気づけば挿入曲が6曲にまで増えていました。あとは、舞台上でのリアリティーにこだわって(あとで述べます) 部分によっては状況だけ説明して、役者たちに自由にさせたところもあります。バイトがあったり、兼業部員が多いこともあって、道具は大幅に簡略化しました。そしてコンクール。予選では全員個人演技賞と最優秀賞をいただきました。アマチュアやプロの人相手に芝居を作ってきたので、我ながら、うまく欠点を隠し、長所を引き出せ、高校演劇としては一級品に仕上がったと思いました。本選では、審査員の演劇的主観に合わず選外になりましたが。作品としては一級で、協力いただいた大学の先生も喜んで下さいました。本論に戻ります。演出とは、自分のクラブの個性を知り、本の個性を知り、マッチさせていく仕事で、ザックリ言って、出来ないもの、苦手なものを見極め、理想と現実の間に折り合いをつける仕事です。

 お気づきの方もいるかもしれませんが、わたしは演出とプロディユーサー、舞台監督の仕事をごっちゃにしています。少人数のクラブでは、それらを分けることは、無理だし、無意味でもあります。当然顧問の先生のアドバイス(主に励ますこと、今の子はノルのも早いですが、落ち込むのも早いです)が必要なことは当然です。

【高校演劇の基礎練習としての演出】役者に必要なように、演出にも基礎練習が必要です。沢山書いては混乱するだけなので、少なくまとめます。静物画の用意をするように、物を並べます。お店のショ-ウィンドウの飾り付けをやっているつもりでやればいいでしょう。それをシャメに撮って品評会をやりましょう。役者は商品です。いかにお店のコンセプトに合わせてきれいに見せるかが大事です。この舞台上での役者の配置をミザンセーネといいます。一番になったシャメを今度は絵にしましょう。演出とは舞台という額縁(本当にそうよびます)に絵を描く仕事なんです。出来た絵をさらに品評会にかけましょう。同じシャメを見ても、描く絵は様々です。 役者を花に見立てて、人間生け花をやってみましょう。これは役者の訓練にもなります。最近の子は、あまり花の名前を知りません。具体的な花でなくてもかまいません。「赤くて、大きくてゴージャスな花」ぐらいでけっこうです。むろん図書室へいき、植物図鑑を見て決めてもかまいません。 部員全員を使って飛行機をつくってみましょう。むろん役者の体を使ってです。役者には、飛行機のどの部分をやっているか自覚させて、できるだけ大きな飛行機にします。できたら、離陸から着陸までやってみましょう。

 演出は、各場面ごとに絵コンテを描きましょう。稽古場に臨むまえに描いておき自分の中に明確なイメージを持っておきましょう。むろんそれは固定されたものではありません。稽古では何が飛び出してくるか分かりません。いいと思ったら、こだわらずに替えればいいのです。ただ、演出が最初からイメージを持っていないことはいけません。

 稽古場のモチベーションの源になるのは演出です。絶えず前向きに明るくあってください。むろん他の役者やスタッフもそうでなければなりませんが。中心は演出です。

 あと、できたら、いろんな芝居を観て目を肥やしていてください。芝居が無理なら、映画、DVD,小説、マンガでもかまいません。物を見る目を研ぎ澄ませてください。

【次回予告】道具と照明につぃて語りたいと思います。おそらく、みなさんの常識を外れたものになると思います。

          大橋 むつお(劇作家、劇団大阪小劇場代表)

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』          青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!  お申込は、最寄書店などでお取り寄せいただくか、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。 青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。 送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。 大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』  高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。  60分劇5編入り 定価1365円(本体1300円+税)送料無料。 お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。 青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351 大橋むつお戯曲集『自由の翼』戯曲5本入り 1050円(税込み)  門土社 横浜市南区宮元町3-44 ℡045-714-1471   
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