大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・高安女子高生物語・37〈有馬離婚旅行随伴記・2〉

2017-11-08 06:36:43 | 小説・2
高安女子高生物語・37
〈有馬離婚旅行随伴記・2〉
        


「明菜のお母さんて、稲垣明子やってんなあ!」

 そう言いながら露天風呂に飛び込んだ。
 一つは寒いので、早うお湯に浸かりたかった。
 もう一つは、人気(ひとけ)のない露天風呂で、明菜からいろいろ聞きたかったさかい。

「キャ! もう、明日香は!」

 悠長に掛かり湯をしていた明菜に盛大にしぶきがかかって、明菜は悲鳴と非難の声を同時にあげた。
「明菜、プロポーション、ようなったなあ!」
 もう他のことに興味がいってしもてる。我ながらアホ。
「そんなことないよ。明日香かて……」
 そう言いながら、明菜の視線は一瞬で、うちの裸を値踏みしよった。
「……捨てたもん、ちゃうよ」
「あ、いま自分の裸と比べたやろ!?」
「あ……うん」
 なんとも憎めない正直さやった。
「まあ、浸かり。温もったら鏡で比べあいっこしよや!」
「アハハ、中学の修学旅行以来やね」
 このへんのクッタクの無さも、明菜のええとこ。
「せや、お母さん、女優やってんなあ!」
「知らんかった?」
「うん。さっきのお父さんのドッキリのリアクションで分かった」
「まあ、オンとオフの使い分けのうまい人やから」
「ひょっとして、そのへんのことが離婚の理由やったりする?」
「ちょっと、そんな近寄ってきたら熱いて」

 あたしは、興味津々やったんで、思わず肌が触れあうとこまで接近した。

「あ、ごめん(うちは熱い風呂は平気)。なんちゅうのん、仮面夫婦いうんかなあ……お互い、相手の前では、ええ夫や妻を演じてしまう。それに疲れてしもた……みたいな?」
「うん……飽きてきたんやと思う」
「飽きてきた?」
「十八年も夫婦やってたら、もうパターン使い尽くして刺激が無くなってきたんちゃうかと思う」
 字面では平気そうやけど、声には娘としての寂しさと不安が現れてる。よう見たら、お湯の中でも明菜は膝をくっつけ、手をトスを上げるときのようにその上で組んでる。
「明菜、辛いんやろなあ……」
「うん……気持ち分かってくれるのは嬉しいけど、その姿勢はないんちゃう」
「え……」
 あたしは、明菜に寄り添いながら、大股開きでお湯に浸かっている自分に気が付いた。どうも、物事に熱中すると、行儀もヘッタクレものうなってしまう。
「明日香みたいな自然体になれたら、お父さんもお母さんも問題ないねんやろけどなあ」
 そう言われると、開いた足を閉じかねる。
「さっきみたいな刺激的なドッキリを、お互いにやっても冷めてるしなあ……」

 しばしの沈黙になった。

「あたしは、娘役ちごて、ほんまもんの娘や……ここでエンドマーク出されたらかなわんわ」
「よーし、温もってきたし、一回あがって比べあいっこしよか!」
「うん!」

 中学生に戻ったように、二人は脱衣場の鏡の前に立った。

「あんた、ムダに発育してるなあ」
 うちは、遠慮無しに言うた。どう見ても明菜の体は、もう立派な大人の女や。
「明日香て、遠慮無いなあ……うちは、持て余してんねん。呑気に体だけが先いってるようで……明日香のスリーサイズ言うたろか」
「見て分かんのん?」
「バスト 80cm ウエスト 62cm ヒップ 85cm 。どないや?」
「胸は、もうちょっとある……」
「ハハ、あかん息吸うたら」
「明菜、下の毛え濃いなあ……」
「そ、そんなことないよ。明日香の変態!」

 明日香は、そそくさと前を隠して露天風呂に戻った。今の今まで素っ裸で鏡に映しっこしてスリーサイズまで言っておきながら、あの恥ずかしがりよう。ちょっと置いてけぼり的な気いになった。中学の時も同じようなことを言ってじゃれあってたんで、戸惑うてしもた。

 うちは、ゆっくりと湯船に戻った。今度は明菜のほうから寄り添うてきた。

「ごめん明日香。あたし、心も体も持て余してんねん……あたしの親は、見かけだけであたしが大人になった思てんねん。うまいこと言われへんけど、寂しいて、もどかしい……」
「なあ、明菜……」

 そこまで言いかけて、芝垣の向こうの木の上から覗き見している男に気づいた。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・36〈有馬離婚旅行随伴記・1〉

2017-11-07 06:25:09 | 小説・2

高安女子高生物語・36
〈有馬離婚旅行随伴記・1〉
        


「ちょっと冷えそうだな」

 明菜のお父さんは、ブルッと身震いし、ジャケットを掴んで助手席から車を降りた。
 仲居さんや番頭さんたちが、案内や荷物運びのために車の周りに集まった。

「あ、タバコ切らしたから買ってくるわ」
「タバコやったら、うちのフロントに言うてもろたら……」
「ありがとう。おれのは、特別の銘柄だから。なあに、店はとっくに調べてあるから。じゃ、ちょっと」
「すみませんね、お寒い中、お待たせしちゃって」
 お母さんが恐縮す
る。
「お日さん出て温いよって、ちょっと庭とか見ててよろしい?」
「ええ、いいわよ。この玉美屋さんの庭はちょっと見ものよ。そうだ、あたしもいっしょに行こう」
「ほなら、お荷物ロビーに運ばせてもろときます」
 仲居さん達は甲斐甲斐しく荷物を運ぶだけとちごて、何人かは、お父さんとあたしらを玄関前で待ってくれてる。客商売とは言え、なかなかの気配りや。
「やあ、ほんま、きれいなお庭」
「回遊式庭園では有馬で一番よ」

 梅が満開。寒椿なんかも咲いてて、ほんまにきれい。まだ春浅いのに庭の苔は青々としてた。
 ほんのりと温泉の匂い。

「そこの芝垣の向こうが露天風呂になってます」
「じゃ、そこの岩の上に上ったら覗けるかもね」
「ホホ、身長三メートルぐらいないと、岩に上っても見えしまへんやろな」
 と、お付きの仲居さん。
「見えそうで見えないところが、情緒あっていいのよね」
 明菜のお母さんは面白がっていた。

 パン パン パン

 わりと近くで、車がパンクするような音がした……おかしい、三回も。こんな立て続けにパンクが起こる訳がない。

「えらいこっちゃ、人が撃たれた!」

 どこかのオッサンの声がして、あたしらも、声のする旅館前の道路に行ってみた。

「キャー! お、お父さん!」
 明菜が悲鳴をあげた。明菜のお父さんが胸を朱に染めて倒れていた。
「え、えらいこっちゃ。さ、殺人事件や。け、警察! 救急車!」
 旅館の人たちも出てきて大騒ぎになった。

「みなさん、落ち着いてください!」

 お母さんは、つかつかとお父さんに近寄ると、お父さんの横腹を蹴り上げた。
「痛いなあ、怪我するやろ」
 ぶつぶつ言いながら、血染めのお父さんが立ち上がった。

「え……」

 女子高生二人を含める周りの者が、あっけにとられた。

「こんな弾着の仕掛けで、あたしがおたつくとでも思ったの。しかし、あなたもマメね。いまどき潤滑剤の付いてないコンドームなんて、なかなか手に入らないわよ」
 お母さんがめくると、お父さんの上着の裏には、破裂したコンドームがジャケットを真っ赤にしてぶら下がっていた。
「おーい、失敗。カミサンに見抜かれてた」

 向こうの自販機の横から、いかにも業界人らしいオッサンがカメラを抱えて現れた。

「これ、年末のドッキリ失敗ビデオに使わせてもらえるかなあ」
「やっぱ、杉下さん。あなたの弾着って、クセがあるのよね」
「アキちゃんにかかっちゃ、かなわないなあ」

 そのときの、お母さんの横顔で思い出した。梅竹映画によう出てる稲垣明子や!

 当惑を通り越して、憮然としてる明菜には悪いけど、うちはワクワクしてきた。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・35〔なんで付いていかなあかんのん!?〕

2017-11-06 06:27:39 | 小説・2

高安女子高生物語・35
〔なんで付いていかなあかんのん!?〕
         



 なんで付いていかなあかんのん!?

 思わずダイレクトに聞き返した。
 明菜が、離婚旅行に付いてこいと言うてきた。

 明菜のええとこは、人に接するのが前向きなこと。

 普通メールで済ますことでも、ちゃんと電話してくる。

 せやけど、この距離の取り方と、とんでもない切り口から切り出すのは、人によってはどん引きされる。
 一昨日の「ナポレオンの結婚式の日やから合お」なんか、あとの話聞くとウィットやけど、人によったら「ケッタイなヤっちゃなあ」で、敬遠される。せやから、明菜には友達が少ない……なんや、流行りのラノベのタイトルみたいや。

 ほんで、結局は、いっしょに付いていくことになった。うちも変わり者ではある。

 まあ、アゴアシドヤ代持ってくれる言うんやから、離婚旅行の付き添いいうことを除けばええ話や。
 目的地はハワイ……とまではいかへんけど、有馬温泉。
 明菜のお父さんのセダン……左ハンドルやから外車やいうのは分かるけど、メーカーまでは分からへん。革張りのシートにサンルーフ。後部座席には専用のテレビに、バーセットまで付いてる。なんでか、うちの日常では見慣れたリアワイパーは付いてなかった。

「ああ、リアワイパーが無いのが不思議なんだね?」

 お父さんが、うちの不思議を見破って、すぐに聞いてくれはった。アクセントは関西弁やけど、言葉は標準語。純粋の河内のネエチャンであるうちには、これだけで違和感。

「なんで付いてないんですか?」
 かいらしく素直に聞いておく。
「国産のワンボックスなんかだと、車のお尻とリアウィンドウが近くて、泥が付きやすいんでね。セダンはお尻が長いから付いてなんだ」
「そうなんですか」
 と感心してたら、前走ってる日産のセダンには付いてた。
「フフ、分かり易いけど、知ったかぶりでしょ」
 お母さんが、鼻先であしろうた。
「僕のは一般論だよ。むろん例外はある。日本人にとっては、バックブザーと同じく親切というか行き届いていることのシンボルなんだね。ま、民族性といってもいい」
 お父さんは、構わずに話をまとめた。

「前の車、邪魔ね。80制限の道を80で走るなんて、ばかげてる」

 サービスエリアで、休憩したあと、運転をお母さんが替わって、第一声が、これだった。
「始末するか……」
 ゴミを片づけるような調子で、お母さんが呟くと、ウィーンと機械音がした。明菜もなんだろうって顔をしている。

 地獄へ堕ちろぅお!

 スパイ映画の主人公みたいなことを言うと、いきなり機関銃の発射音と、衝撃、そしてスモークが車内に満ちた。お母さん以外の三人はぶったまげた。

 で、前を走っていた車は……あたふたと道を譲った。
「おまえ、おれの車いじったのか?」
「離婚記念にね。大丈夫、映画用のエフェクトだから弾は出ないわ。ここ押すとね、車内だけのエフェクトになって、外には聞こえないわ。今のは若いニイチャン二人だったから、ちょっとイタズラ。まちがってもヤクザさんの車相手にやっちゃいけません」
「こういうバカっぽいとこ、好きだな」
「こんなことで、離婚考え直そうなんて、無しよ」
「それと、これとは別」
「だったら、結構」
「おかげで、時間通りに着けそうだな」

 お父さんは時間を気にしているようだった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・34〔ナポレオンの結婚記念日〕

2017-11-05 06:14:26 | 小説・2

高安女子高生物語・34
〔ナポレオンの結婚記念日〕
        


 今日は、ナポレオンの結婚記念日。

 なんで、そんなこと知ってるか……明菜が電話してきたから。
 なんで、明菜が電話してきたら、ナポレオンの結婚記念日と分かるか。

「ナポレオンの結婚記念日やさかいに、会わへん?」

 と、明菜が言うたから。
 なんで、明菜が、こんなケッタイナ誘いかたしてきたか言うと、明菜とは、しばらく疎遠やったさかい。

 明菜は中学の同級生。

  高校はうちと同じOGHやった。で、ほどほどの友達やった……けど、明菜は一学期で、学校辞めてしもた。

 ウワサでは、先生(誰とは分からへんけど)と適わへんかったから。高校では、クラスも違うたし、話す機会も無かったんで、それっきり。絵に描いたような『去る者は日々に疎し』やった。
 その明菜が電話してきて「会うて話がしたいねんけど……」うちは、なんの気なしに「なんで?」と聞いた。ほんなら、その答が「ナポレオンの結婚記念日やさかい」やった。
 ネットで調べたら、ホンマにナポレオンの結婚記念日やったからビックリした。もともと勉強できる子ぉやったけど、とっさに、そんなんが出てくるのは、さすが明菜やと思た。

「なあ、なんで明菜会いたがってんねやろ?」

 馬場さんの明日香に聞いても、お雛さんに聞いても、本のアンネに聞いても答えてくれへん。やっぱり、この三人が、喋ったり動いたりするのんは、特別の日いだけみたいや。

 明菜の家は、近鉄挟んだ反対の西側にある。

 近鉄の西側は、むかし近鉄が百坪分譲やってたときのお屋敷が多い。明菜の家も、その一つ。一回だけ遊びに行ったことがあるけど、敷地だけでうちの四倍以上。お家も、それに見合うた豪勢さ。庭だけでもうちの家の敷地ぐらいあった。

 明菜との疎遠は、この豪勢さにある。

 うちとこは、もうそのころは両親共々仕事辞めて、定期収入が無くなってた。お父さんは「明日香は作家の娘やねんぞ」なんて言うけど。収入が無かったら、経済的には無職と同じ。
 そんなんで気後れして、うちの方から連絡することは無かった。

 せやさかい、明菜が学校をOGHに決めたときは、ビックリした。あの子の内申と偏差値やったら、もっとええ高校行けたはずや……。

「ボチボチの天気やなあ」
「せやなあ」

 ほぼ一年ぶりに会うた友達の会話としては、なんともたよんない。
 しばらくは、黙って玉串川のほとりをを黙って歩いた。

「もう、半月もしたら、桜も咲いてええのになあ」

 うちの何気ない一言が明菜を傷つけた。           
 明菜は、唇を噛みしめたかと思うとポロポロと涙を流した。

「ごめん。うち、なんか悪いこと言うたかな……」
「ううん、明日香は、なんにも悪ない。うちが、よう切り出せへんよって……」
「……ちょっと、座ろか」

 山本球場あたりの川辺の四阿(あずまや)に入った。

「うちの親、離婚するねん」
「え……」
「事情は、うちにもよう分かれへん。ケンカしたわけでもないし、浮気でもあれへん。なんや、発展的な離婚やいうて、お父さんも、お母さんも涼しい顔してる。そんで、気楽に『明菜はどっちに付いていく?』ごっついケッタイで、あたしのこと置き去りにして……バカにしてるわ!」

 最後の一言が大きい声やったんで、川の鯉がビックリしてポチャンと跳ねた。

「どっちに付いていっても、あの家は出ていかならあけへんねん……うち、せっかく天王寺高校とおったのに」

 うちは、複雑に驚いた。明菜は、天王寺行けるほど頭良かったんや。ほんで、羨ましいことに関根先輩と同じ学校。なんで、去年は格下のOGHなんか受けたんやろ。ほんで、なんで、学校辞めたんやろ。なんで、うちなんかに相談するんやろ……。

「うち、一番気い合うたんは明日香やねん。うち友達少ないよって、相談できるんは明日香しかおらへんねん」

 うちは、もっかいビックリした。こんなに恵まれて、ベッピンで、勉強もでけて、ほんで友達がうち?

 うちは、自分のことが、よう分からへん。馬場さんが、うちをモデルに絵ぇ描いたんよりもびっくりや。

「明日から、うちの家族……もう家族て言えるようなもんやないけど。離婚旅行に行くねん」
「り、離婚旅行!?」

 頭のテッペンから声が出てしもた……。

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