KAORU♪の「気ままなダイアリー」

KAORU♪が見つけたステキな風景、出会ったおもしろいできごと、おいしい料理などを“気が向いた時”にご紹介します。

★NYで“あの日のわらびもち”

2021年07月11日 | Kaoru ♪の【New York 的スローライフ】
夏のスィーツ「わらび餅」を手作り♪

ジャパニーズスーパーマーケットで
「わらび餅セット」なるものを見つけて
迷わず即買い。

大福やみたらし団子、ロールケーキに
チーズ蒸しパン、プリンアラモードに
杏仁豆腐にカステラ、どら焼きなど、

日本のコンビニの冷蔵コーナーに並ぶ
スィーツたちはここではほぼ手に入る。

その日も見るとはなく棚を眺めていると
乾物コーナーの一角で見つけた
「セット」というフレーズと
「すぐ」「かんたん」の言葉に
グググっと吸い寄せられた。






そうだった、大好きなわらび餅を
しばらく食べてない。

これはスィーツ売り場で見かけたことが
あるような気がするのだが、
たぶんだいたいが日本からの
冷凍輸入なのでわらび餅も
解凍品なのでは?と思ってしまい
それってどうなんだろう
おいしいのかな?…と用心する
気持ちから買う気にならない。

私が若い頃まで東京は「くずもち」が
主流だった。
それに対して関西は「わらびもち」

幼い頃は夏になると
新幹線「ひかり号」に乗り大阪城の
すぐ近くにあった祖母といとこの家で
過ごすのが、毎年の家族で過ごす夏休みだった。

今から50年も前の話である。

いとこたちとラジオ体操に行ったり
近くの神社の境内で遊んだり
虫取りをしたり。迷路のような狭い小道を
探検するのもワクワクとして
楽しかった記憶がよみがえる。

そして、暑い夏の日の午後になると
チリンチリン、という涼やかな
音色とともにリヤカーがやってくる。

みんなで急いで玄関を出て、

「わらびもち ください〜!」というと
経木で作られた舟形の器に水の中から
すくった色とりどりのわらび餅を
綺麗に並べ、きな粉をのせて
それぞれの小さな手に乗せてくれる。

ひっくり返さないようにそぉっと歩き
ちゃぶ台までたどり着くと
待ちきれずひとつを口にほうり込む。
そのツルンとした食感ときな粉の
ほんのりとした甘さが夏の午後の
おやつの楽しみだった。

ある年のこと、ふと麦わら帽子を
まぶかにかぶったわらびもち売りの
おじさんの顔を見て、息をのんだ。

顔半分が黒くただれていたのだ。

子ども心に見てはいけないものを見てしまったようで、
何も言わずに家に入り大人たちに
「おじさん、どうしたの?」と聞くと

「広島の原爆でね、
けがをしてしまったのよ」と
静かに教えてくれた。

まだ東京の上野公園あたりも軍服姿の
ケガをした元兵隊さんたちが、
アコーディオンを弾いたり
子どもだったからなんて書いてあるのか
読むことができなかったが
紙いっぱいに墨で書かれた文字を並べ
その脇にはかならず
お金を入れる箱が置いてあった。

高度成長期を迎えていた昭和40年代半ば。

日本は活気づく経済に向かって
勢いを増す一方で、まだまだ戦争の爪跡が
残っていた時代である。

夏になると
あのリヤカーわらび餅を思い出す。
美味しいのに、少し悲しくなる。

今でこそ、どこでもスーパーマーケットや
コンビニで手に入るようになったが、
東京に定着し始めたのは
私が大人になってから。

近所の店頭に並びはじめた時は
本当に嬉しかったのを覚えている。

時おり、四角く切られてきな粉が
まんべんなくまぶしてある
高級わらび餅を和菓子屋さんや
催事コーナーで売られているのだが
あれはわらび餅じたいも甘くて
あれはあれで好きだけど私的にはまた別モノ。

透明な丸いのに、きな粉を
“あと乗せ”するタイプ派。

関西で食べた時はきな粉だけだった記憶だが、
東京に入ってきてから“黒みつ”を
添えられるようになったという話を
耳にしたことがある。
半透明のプルプルにきな粉と黒みつをたっぷりと。

ムッシーなのがあまり得意ではない
リオはきっと食べないだろうけど、
これは大丈夫、全部ひとりで平らげられる。

ちなみに“ムッシー mushy ”とは、
ドロドロ、ふやけた、という意味だそうで
バナナも完熟すぎるとムッシーだと言う。

さっそく“セット”の袋を開けてみると
わらび餅用の粉と、きな粉、黒みつの
小袋。セットをわざわざ買わなくても
きな粉と黒みつはうちにあったのに

「すぐ」「かんたん」のキャッチコピーにくすぐられてしまった。

でも。

こんなにも作りたてが美味しかったなんて。
水を入れて火にかけかき混ぜるだけ。






ドロドロの透明になったら火を止め
スプーンですくって氷水に落とす。






だからあのリヤカーのわらび餅は
水の中に入っていたのか。
そんなことを思いながらひとつづつ。

形はまん丸には出来ず、
不恰好ではあるけれど器に盛り付け
以前いただいた「うぐいすきな粉」と
ボトルの黒みつを。

そしてひと口、口にするとなんと
あのリヤカーの味に今までで一番近い!
感動ひとしおで、ジーンとしてしまった。

おじさんは出来たてを
売りに来ていたのだ。

たぶん朝から作って午後に
売りに来ていた、そんな気がするのである。

戦争の傷を抱えながら
わらび餅のベルを鳴らし町を歩く。

あの当時の“おじさん”の年齢を今の私は
もうとっくに越えているのだろう。

日本にいたら買った方が早いから、
きっと一生作ることもなかった気がするけれど

長い年月をかけて、この国で
“あの味”に再び出会える不思議さを思う。

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