日本が1945年の終戦時に朝鮮半島に所有していた財産は、すべて占領軍に接収され、その後、韓国政府と北朝鮮政府に無償で引き渡された。約70万人の日本人(軍関係者35万人を除く)は早急に半島から退去するよう命じられ、手ぶらで帰国する羽目になった。その時に、日本政府・企業・個人が半島に残した財産はどのくらいあったのだろうか。そして、どのように処分されたのか。
この疑問に答えるのが「帰属財産研究―韓国に埋もれた日本資産の真実」(文芸春秋社 2021年10月刊)である(以下、本書)。著者は韓国の経済学者、李大根氏(1939年~)で、「韓日経済共同研究会」(当時)のメンバー。「帰属資産」という用語は、残された日本の財産に対して米軍政が名付けたVested Propertyの訳語である。
本書は「帰属財産」が形成された過程、「帰属財産」の米軍政による管理の実態、「帰属財産」の韓国政府による管理の実態、戦後の韓国経済と「帰属財産」の関係、について詳細に述べているが、本稿では、「帰属資産」の金額だけに焦点を当てる(青字)。
戦後、日本政府と米国側(Civil Property Custodian-民間財産管理局)が実施した調査によれば、1945年8月に日本が朝鮮半島に残した総財産のドルベース評価額は52億4,600万ドルだった(同書313ページ)。但し、CPCの意向により、日本政府がまとめた金額はかなり圧縮されたので、実際にはこれより多かった。
「帰属財産」を政府財産、民間企業財産、個人財産の三つに分けると、それぞれ19.0%、67.6%、13.4%である。
上記の52.46億ドルの「帰属財産」は、北朝鮮に29.7億ドル(56.6%)、韓国に22.8億ドル(43.4%)存在した。
国の財産はともかく、民間企業が所有していた財産と個人が所有していた財産すなわち私有財産、の没収は国際法違反であるから、日本政府は韓国政府に「帰属財産」を返却するよう要求する権利がある。
しかし、現実問題として、「帰属財産」の金額を査定することは不可能である。その理由は、今となってはそれぞれの物件を特定できないし、物価上昇率や為替レートをどう反映させるかという問題もある。
1965年の日韓基本条約により、日本は韓国に無償3億ドル、有償2億ドルを提供することに合意したが、「帰属財産」の金額はその5億ドルよりもはるかに大きかったと思われる。
本書の著者も<「帰属財産」は規模において、韓国の国富の80~85%を占めていたから、国の経済自体がこの帰属財産の塊で成り立っていた>(本書31ページ)と述べている。そして、韓国は「帰属財産」のお蔭で1948年の出発時点で、アジアでは日本に次ぐ経済大国だったのである。
韓国人は「親日清算」のスローガンのもとに、日本が韓国に残したレガシーを消し去ろうと躍起になっている。その一方で、「過去を忘れた民族に未来はない」と日本を批判するが、その言葉はまさに彼ら自身に向けられるべきである。本書から核心部分を引用する。(赤字)
自分たちの歴史を丸ごと否定するとか、それを誇張したり矮小化したりする間違った韓国社会の知的風土を、いまからでも正すべきである。特に、日本の植民地時代の歴史に対する韓国人の誤解と偏見を正すためには、帰属財産の実態に関する正しい理解を何よりも優先すべきであろう。(本書37ページ)。
すべての韓国人が本書を熟読することを切望する。