中国が南シナ海で勝手に「九段線」と称する海域に領有権を主張し(下の地図に示す赤線)、さらに南沙諸島には人口島を造成して、周辺諸国および米国等と紛争になっている。中国は「はるか昔から、中國の漁民はこの海域で操業していた」と主張するが、フィリピンやベトナムなどの漁民も同様であり、国際裁判所が中国の主張を認めなかったのは当然である。

この牛の舌のようにダラリと垂れ下がった「九段線」の主張は、最近中国が力をつけてきたことで言い出したことではなく、90年以上前から存在していた。
「中国『国恥地図』の謎を解く」(譚路美著 新潮社 2021年10月刊)によれば、1933年に作成された「中華国恥図」(下図)には「九段線」と同様の中国の領域が赤線で示されていた。

「国恥図」は1929年から何回か作成されたが、1929年版には次の文言が記されている。<この図を見よ、無残この上ない。怨みは海のごとく深く、恥は山のごとく高い。・・・>。
つまり、現実の国境線の外側で赤線の内側にある部分は<諸外国の侵略によって失われた領域であり、今後努力して取り戻さなくてはならない>と国民を鼓舞するナショナリズム的メッセージを具体的に示すものだった。
1929~1933年当時は、この「国恥図」は、中国の過去の栄光と現実の落差を埋めて、慰めと癒しを与えてくれる「魔法の鏡」にすぎなかった。しかし、近年になって、中国の国力が増すつれ、南シナ海の「九段線」は中国の「核心的利益」と位置付けられ、武力に訴えてでも取り戻すべき領域に格上げされた。
では、南シナ海以外の赤線はなにを示すか。大陸側の赤線は昔の朝貢国を囲んでいるものの、中國が “昔の朝貢国を領土に組み入れよう“と考えるのはあまりにも非現実的である。
しかし、海洋部分では、違う認識があるのではないか。赤線の内側にある台湾に武力侵攻する構えを見せているからには、赤線の内側のすぐそばに位置する沖縄も中国からすれば「他国の侵略によって失われた部分」という認識ではないだろうか。
つまり、台湾の次の標的は沖縄であると考えておくべきである。