東京電力福島第一原発の汚染水を浄化した処理水は、2年後から沖合1キロの海中に放出されるが、東電の発表によれば「放射線が周辺の住民や環境に与える影響は極めて軽微」である。(11月18日付読売新聞)
問題点は、<福島海域で漁獲される魚介類が市場において、2年後以降、適正な価格で取引されるか>という風評被害の問題と韓国・中国などの非難である。
“なんとなく気味が悪いから、福島産の魚は敬遠しておこう”という考え方は、いくらデータを示しても、<穢れ>忌避の傾向がある日本人にはある程度やむを得ない。
過去に人身事故があった物件は、永久にその事実を買い手に伝えなくてはならないという規則があるために、買い叩かれるという不動産業界の商習慣によく似ている。だから、福島県の漁業関係者が処理水排出に反対する気持ちは理解できる。ではどうしたらいいか。
読売新聞によれば、「処理水は多核種除去設備(ALPS)でトリチウムを除く大半の放射性物質を浄化済み。放出前に海水で100倍以上に希釈し、1リットル当たりに含まれるトリチウムの濃度を国の排出基準(6万ベクレル)の40分の1程度である1500ベクレル未満に薄めて排水するとしている」とあるが、消費者にはよく分からないのではないか(少なくとも、私にはよくわからない)。
さて、他の稼働中の原発(福井県の高浜原発、佐賀県の玄海原発、鹿児島県の川内原発など)も同様な処理水を排出しているはずである。そのトリチウム濃度を福島第一原発のタンクに蓄積された処理水に含まれるトリチウム濃度と同じ基準で比較できないものか。
福島第一原発の処理水に含まれるトリチウム濃度が他の原発のトリチウム濃度と同等もしくは少ないのであれば、消費者は知らず知らずの内に、同じ条件の水産物をすでに日常的に口にしていることになるから、福島産の水産物を差別する理由はなくなる。
なぜ、マスコミは福島第一原発に蓄積された処理水のトリチウム濃度と他の原発のそれとの比較を報じないのか。ことによって、福井県産、佐賀県産、鹿児島県産の水産物にも風評被害が発生すると懸念しているのか。そうであれば、魚は県境に関係なく回遊しているのだから、西日本の近海物はほとんど全部駄目ということになるが、日本人がそれほど阿呆だとは思えない。
要するに、福島産の水産物に対する風評被害をなくすには、そのトリチウム濃度を他の原発から排出される処理水のトリチウム濃度と比較すればいい。
韓国や中国からの理不尽な非難も、その原発から排出される処理水と福島から排出される処理水を比較するデータを公表すれば解決すると考える。