日本のかつての大衆文芸は、凄まじいエネルギーを持っていたものと思う。
子母沢寛、大佛次郎、池波正太郎など、錚々たる人間山脈がそこにはある。
しかし、その中でも松本清張は抜きんでている。
かつて、ある評者が松本を日本のバルザックと称したことがある。
その、カバーする分野、筆量、執筆数、いずれをとっても並々ならぬエネルギーで、バルザックに比されるのは当然ともいえる。
しかし、松本自身は、必ず一日、八時間の睡眠をとり、深酒もせず、極めて節制した、規則正しい生活を送っていたという。
「怪物」とは、案外、抑制された、自己管理の行き届いた人物が称せられるのかもしれない。
それには、松本の前半生の不遇も十分、影響しているとは思うが・・・
神楽坂夕景映える夏どなり 素閑
まったくも動かぬ山稜夏近し 素閑
京伝といふも夏への隣ばへ 素閑
夕暮れて夏近き寺作務の僧 素閑
鉄塔の湾曲の列夏近し 素閑
鬼が棲む林に分け入り夏近し 素閑
単線の波濤の想ひ夏近し 素閑
船べりに釣り糸重く夏近し 素閑
母恋ひし鹿の子に聞けや夏近し 素閑
畔で捕る籠の小鳥や夏近し 素閑
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