勤務先の高校で、3年生の修学旅行が行われた。私は担任ではないが、運悪く引率者の一人となってしまい、朝4時に起床して羽田空港へ向かった。
修学旅行の引率は、ほとんどの教員が嫌がる仕事だ。長時間勤務に加えて、スケジュールの管理に神経を尖らせ、生徒の安全確保に気をつかう割に、報酬らしきものはない。単に疲れて帰ってくるだけの大仕事である。
目的地の沖縄は梅雨入りしており、ただでさえ雨が多いのに、小型台風も迫っている。しかし、飛行機の運航に支障はないようだ。
「手荷物にハサミやカッターが入っている人はいませんか? 手荷物検査で没収されますので、今のうちに出してください!」
集合場所では、添乗員が声を枯らして、危険物の回収に努めている。初めて飛行機に乗る生徒も多く、添乗員の手には、あっという間に10個ほどのハサミが集まった。
「携帯電話は手荷物の中に入れ、ペットボトルは出しておいてください」
素直にいうことを聞くのは、ウチの生徒の可愛いところである。スムーズに搭乗口まで進み、飛行機に乗り込んだ。
機内では、「スカイショップ」のカタログを見るのが好きだ。今回は掘り出し物があった。
「バンダイ 1/48 メガサイズモテルガンダム ANAオリジナルカラーVer.」
なにこれ、すごいすごい!!
ガンダム狂の私はすっかり興奮してしまい、「絶対買う!」と誓った。ANAの青が主体のガンダムも、妙に様になっている。いいアイデアだ。
注文には、「ガンプラ専用お申し込みハガキ」なるものを客室乗務員から受け取り、自分で投函するらしい。もし、これが手に入ったら、「引率をしてよかった」と心から思うだろう。
「こちら、人気商品でございますので、売り切れの節はご容赦ください」
あまりにも私の目が期待で輝いていたせいか、客室乗務員のお姉さんから軽く釘を刺された……。
那覇空港から、まずは南部に移動し、ガマ、ひめゆりの塔、平和祈念公園などを見る。初日は平和学習である。
台風のおかげで海も荒れており、沖縄という雰囲気ではない。
「暑ッ!」
東京と大きく違う点は、湿度の高さだ。せっかくセットしてきた髪も、ジトッとした気候で台無しになる。特に、下がってきた前髪がうっとうしくて、切りたくなった。
ホテルに戻って夕食を終えると、添乗員が回収したハサミを返却していた。
「最後の1個だけ、誰も取りに来ないんですよ。困りました」
忘れっぽいのは、ウチの生徒の悪いところである。おそらく、他人事だと思っているのだろう。
すかさず、私の頭が計算高さを発揮する。
「じゃあ、私が預かりますよ。遺失物の担当ですから」
添乗員に手を出すと、彼はホッとしたようにハサミを渡した。
部屋に戻り、そのハサミを借りて、前髪をカットしたのは言うまでもない……。
翌日は、美ら海水族館である。ここは、大きなジンベイザメが見どころのひとつだ。
上部には、コバンザメも乗っている。コバンザメは頭部に吸盤状のものがついているので、ひっくり返ってへばりついている。すました様子がおかしくて、クスッと口角が上がった。
イナバウアーか!?
美ら海水族館のあとは、少人数に分かれて、沖縄そばや黒糖作り、マリンスポーツなどの体験学習となった。私はシーサー作りの班だったのだが、詳細については別ブログ「シンメトリーなシーサー」をご覧いただきたい。
最終日は、大好きな首里城を見たあと、国際通りで自由行動となる。
私はちゃっかり、現地に住んでいる女友達と事前に連絡を取り、この時間に会う約束をしていた。
一緒にランチをして、共通の友人の話で盛り上がる。実に12年ぶりの再会なので、話題が切れてしまうのではと心配していたが、一日中でもおしゃべりできそうだった。
再び、「来てよかった」と実感した。
あとは、飛行機に乗って帰るだけだ。病人や怪我人もなく、また喫煙や飲酒などの問題行動もなく、修学旅行が終わろうとしていた。
搭乗前に、手荷物検査を受ける。係員が渋い顔をして、「もう一度通しますので、少々お待ち下さい」と言った。再度チェックしたあと、彼女は「ハサミが入っているんじゃないですか」と尋ねてきた。
そういえば。
初日に、前髪を切ったあと、「あとから生徒が取りにくるかも」と思って手荷物に入れておいたのだった。結局、誰も現れず、私はハサミの存在すら忘れていた。
バッグの中を探すと、案の定それが出てきた。隣にいた生徒が、驚きの声を上げる。
「先生~、ダメじゃん!」
「ちゃんと、添乗員さんに出さないと」
私は、頭をかいて苦笑するしかなかった。
いやあ、面目ない……。
東京に戻ってすぐ、「ガンプラ専用お申し込みハガキ」をポストに投函した。
あわただしい2泊3日だったが、終わってみれば楽しかったことばかりを思い出す。
ANA限定色のガンダムが買えれば、さらにいいんだけどな。
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
修学旅行の引率は、ほとんどの教員が嫌がる仕事だ。長時間勤務に加えて、スケジュールの管理に神経を尖らせ、生徒の安全確保に気をつかう割に、報酬らしきものはない。単に疲れて帰ってくるだけの大仕事である。
目的地の沖縄は梅雨入りしており、ただでさえ雨が多いのに、小型台風も迫っている。しかし、飛行機の運航に支障はないようだ。
「手荷物にハサミやカッターが入っている人はいませんか? 手荷物検査で没収されますので、今のうちに出してください!」
集合場所では、添乗員が声を枯らして、危険物の回収に努めている。初めて飛行機に乗る生徒も多く、添乗員の手には、あっという間に10個ほどのハサミが集まった。
「携帯電話は手荷物の中に入れ、ペットボトルは出しておいてください」
素直にいうことを聞くのは、ウチの生徒の可愛いところである。スムーズに搭乗口まで進み、飛行機に乗り込んだ。
機内では、「スカイショップ」のカタログを見るのが好きだ。今回は掘り出し物があった。
「バンダイ 1/48 メガサイズモテルガンダム ANAオリジナルカラーVer.」
なにこれ、すごいすごい!!
ガンダム狂の私はすっかり興奮してしまい、「絶対買う!」と誓った。ANAの青が主体のガンダムも、妙に様になっている。いいアイデアだ。
注文には、「ガンプラ専用お申し込みハガキ」なるものを客室乗務員から受け取り、自分で投函するらしい。もし、これが手に入ったら、「引率をしてよかった」と心から思うだろう。
「こちら、人気商品でございますので、売り切れの節はご容赦ください」
あまりにも私の目が期待で輝いていたせいか、客室乗務員のお姉さんから軽く釘を刺された……。
那覇空港から、まずは南部に移動し、ガマ、ひめゆりの塔、平和祈念公園などを見る。初日は平和学習である。
台風のおかげで海も荒れており、沖縄という雰囲気ではない。
「暑ッ!」
東京と大きく違う点は、湿度の高さだ。せっかくセットしてきた髪も、ジトッとした気候で台無しになる。特に、下がってきた前髪がうっとうしくて、切りたくなった。
ホテルに戻って夕食を終えると、添乗員が回収したハサミを返却していた。
「最後の1個だけ、誰も取りに来ないんですよ。困りました」
忘れっぽいのは、ウチの生徒の悪いところである。おそらく、他人事だと思っているのだろう。
すかさず、私の頭が計算高さを発揮する。
「じゃあ、私が預かりますよ。遺失物の担当ですから」
添乗員に手を出すと、彼はホッとしたようにハサミを渡した。
部屋に戻り、そのハサミを借りて、前髪をカットしたのは言うまでもない……。
翌日は、美ら海水族館である。ここは、大きなジンベイザメが見どころのひとつだ。
上部には、コバンザメも乗っている。コバンザメは頭部に吸盤状のものがついているので、ひっくり返ってへばりついている。すました様子がおかしくて、クスッと口角が上がった。
イナバウアーか!?
美ら海水族館のあとは、少人数に分かれて、沖縄そばや黒糖作り、マリンスポーツなどの体験学習となった。私はシーサー作りの班だったのだが、詳細については別ブログ「シンメトリーなシーサー」をご覧いただきたい。
最終日は、大好きな首里城を見たあと、国際通りで自由行動となる。
私はちゃっかり、現地に住んでいる女友達と事前に連絡を取り、この時間に会う約束をしていた。
一緒にランチをして、共通の友人の話で盛り上がる。実に12年ぶりの再会なので、話題が切れてしまうのではと心配していたが、一日中でもおしゃべりできそうだった。
再び、「来てよかった」と実感した。
あとは、飛行機に乗って帰るだけだ。病人や怪我人もなく、また喫煙や飲酒などの問題行動もなく、修学旅行が終わろうとしていた。
搭乗前に、手荷物検査を受ける。係員が渋い顔をして、「もう一度通しますので、少々お待ち下さい」と言った。再度チェックしたあと、彼女は「ハサミが入っているんじゃないですか」と尋ねてきた。
そういえば。
初日に、前髪を切ったあと、「あとから生徒が取りにくるかも」と思って手荷物に入れておいたのだった。結局、誰も現れず、私はハサミの存在すら忘れていた。
バッグの中を探すと、案の定それが出てきた。隣にいた生徒が、驚きの声を上げる。
「先生~、ダメじゃん!」
「ちゃんと、添乗員さんに出さないと」
私は、頭をかいて苦笑するしかなかった。
いやあ、面目ない……。
東京に戻ってすぐ、「ガンプラ専用お申し込みハガキ」をポストに投函した。
あわただしい2泊3日だったが、終わってみれば楽しかったことばかりを思い出す。
ANA限定色のガンダムが買えれば、さらにいいんだけどな。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)