朝、出勤すると、机の上に大きな封筒がある。「何だろう」と中を見ると、管理職試験の申請用紙だった。おそらく、副校長が置いていったのだろう。
「うーん……」と私は顔をしかめた。
試験に合格すれば、いずれは副校長となるわけだが、この仕事は多忙を極める。ひと癖も、ふた癖もある教員たちをまとめ、校長との板ばさみになることもままある。外部から苦情があれば飛んでいき、矢面に立つことも珍しくない。朝は7時に出勤し、帰るのは夜の10時、土日も場合によっては出勤となるのも道理である。「あと1時間遅ければ、セブンイレブンだね~」などと笑ってはいられない。
ブログの更新をはじめ、趣味の時間をことごとく奪われ、仕事オンリーの生活になってしまいそうだ。
しかし、副校長の次は校長というポストが待っている。校長になれば、教員を直接指導することはなくなるし、現場の煩雑な仕事からは解放される。反面、指導力や判断力、リーダーシップなどが要求されるものの、組織の頂点に立つことを、誰でも一度は夢見るものだろう。
つまり、管理職試験を受けるのであれば、副校長止まりではなく、校長を目指さなくてはならないのだ。今の私に、そこまでの覚悟があるかと聞かれれば、自信を持って「ない」と答えられる。
封筒ごとゴミ箱に捨てようとして、ふと手が止まった。
そういえば、ノガワが去年、管理職試験に受かったんだっけ……。
ノガワというのは2歳下のボンクラで、仕事ができない割には上昇志向が強く、ゴマスリだけが取り柄の男だ。役に立たない人材が、自分の上を行くのは面白くない。
もし、ノガワの下で働くことになったらどうしよう……。
それは、かなりの屈辱だ……。
ノガワと同じ職場にいた頃は、お互いウマが合わず、和やかに会話したことなどない。いまでも、外部で顔を合わせれば、仏頂面で最低限の挨拶を交わすだけの、いわゆる犬猿の仲である。確率からいえば、同じ学校になる可能性は低いけれども、イヤなヤツとは不思議と縁があるものだ。
副校長としての、ヤツの勝ち誇った顔を想像し、対抗意識がムクムクと膨らんできた。
やっぱり、捨てないでおこう!
しかし、副校長から校長に昇進するのは、思ったよりも難しいらしい。
東京都の場合、校長になるには、校長試験に合格しなければならない。合格しても、空きがなければ副校長のまま待機する。しかも、2年経過すると、再度校長試験を受け直さなければならない。
やっと空いたと思いきや、僻地だったり、誰も行きたがらない教育困難校だったりという場合もあるようだ。
先日、お世話になった他校の副校長と話す機会があったので、管理職試験について聞いてみた。
「私はね、お世話になった先生から勧められて、受けることにしたんです」
彼は、当時を振り返るように、ポツポツと自分のことを話しはじめた。上昇志向は、さほど強くないようだ。
中には、副校長で定年を迎える人もいる。彼も副校長歴が長いので、欲がないのだと勝手に思い込み、余計な質問をした。
「先生は、校長試験を受けないのですか」
副校長は一瞬沈黙し、声を震わせて答えた。
「受けてますよ。毎年受けているのに、いつもダメなんです……」
「そ、そうだったんですか、失礼しました……」
突如として床が抜け、肥溜めに落ちた気分だった。フォローのしようがない。
なんという失言!!
とりあえず、管理職試験を受けて、笹木校長を夢見るか。
はたまた、ノガワの下で働くか。
どっちもイヤだ……。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「うーん……」と私は顔をしかめた。
試験に合格すれば、いずれは副校長となるわけだが、この仕事は多忙を極める。ひと癖も、ふた癖もある教員たちをまとめ、校長との板ばさみになることもままある。外部から苦情があれば飛んでいき、矢面に立つことも珍しくない。朝は7時に出勤し、帰るのは夜の10時、土日も場合によっては出勤となるのも道理である。「あと1時間遅ければ、セブンイレブンだね~」などと笑ってはいられない。
ブログの更新をはじめ、趣味の時間をことごとく奪われ、仕事オンリーの生活になってしまいそうだ。
しかし、副校長の次は校長というポストが待っている。校長になれば、教員を直接指導することはなくなるし、現場の煩雑な仕事からは解放される。反面、指導力や判断力、リーダーシップなどが要求されるものの、組織の頂点に立つことを、誰でも一度は夢見るものだろう。
つまり、管理職試験を受けるのであれば、副校長止まりではなく、校長を目指さなくてはならないのだ。今の私に、そこまでの覚悟があるかと聞かれれば、自信を持って「ない」と答えられる。
封筒ごとゴミ箱に捨てようとして、ふと手が止まった。
そういえば、ノガワが去年、管理職試験に受かったんだっけ……。
ノガワというのは2歳下のボンクラで、仕事ができない割には上昇志向が強く、ゴマスリだけが取り柄の男だ。役に立たない人材が、自分の上を行くのは面白くない。
もし、ノガワの下で働くことになったらどうしよう……。
それは、かなりの屈辱だ……。
ノガワと同じ職場にいた頃は、お互いウマが合わず、和やかに会話したことなどない。いまでも、外部で顔を合わせれば、仏頂面で最低限の挨拶を交わすだけの、いわゆる犬猿の仲である。確率からいえば、同じ学校になる可能性は低いけれども、イヤなヤツとは不思議と縁があるものだ。
副校長としての、ヤツの勝ち誇った顔を想像し、対抗意識がムクムクと膨らんできた。
やっぱり、捨てないでおこう!
しかし、副校長から校長に昇進するのは、思ったよりも難しいらしい。
東京都の場合、校長になるには、校長試験に合格しなければならない。合格しても、空きがなければ副校長のまま待機する。しかも、2年経過すると、再度校長試験を受け直さなければならない。
やっと空いたと思いきや、僻地だったり、誰も行きたがらない教育困難校だったりという場合もあるようだ。
先日、お世話になった他校の副校長と話す機会があったので、管理職試験について聞いてみた。
「私はね、お世話になった先生から勧められて、受けることにしたんです」
彼は、当時を振り返るように、ポツポツと自分のことを話しはじめた。上昇志向は、さほど強くないようだ。
中には、副校長で定年を迎える人もいる。彼も副校長歴が長いので、欲がないのだと勝手に思い込み、余計な質問をした。
「先生は、校長試験を受けないのですか」
副校長は一瞬沈黙し、声を震わせて答えた。
「受けてますよ。毎年受けているのに、いつもダメなんです……」
「そ、そうだったんですか、失礼しました……」
突如として床が抜け、肥溜めに落ちた気分だった。フォローのしようがない。
なんという失言!!
とりあえず、管理職試験を受けて、笹木校長を夢見るか。
はたまた、ノガワの下で働くか。
どっちもイヤだ……。
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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)