手紙事件から二ヶ月近く経った。階下の男とはあれ以来一度も顔を合わせていない。あんな夢を見てしまって少々バツも悪いので、会わなくなって安心している。
夫はあれ以来どうもよそよそしい。でもなぜか最近、SEXが少し上手くなった。感じてしまうこともある。そんなとき「感じちゃダメ!」と何かが静止をかける。夫に感じることは、彼への裏切りな気がした。
…………裏切り?
我ながらおかしなことを思う。私の夫は夫の方なのに……。
「来週、旅行に行ってていないからね」
言うと、彼は「えー」っと口をとがらせた。
「夫の実家に顔出しに行くのよ。たまには行かないとね」
本当は日曜出発にしたかったのだけれど、夫の仕事の都合で、土曜の午後の新幹線に乗ることになってしまったのだ。
「実家ってどこ?」
「仙台」
「ふーん……じゃ、お土産買ってきてね」
しゃがみ込んでこちらを見上げる彼は、たまらなくかわいらしい。
「お土産? 何がいい?」
「最中。仙台って有名な最中屋さんあるよね」
「も、もなか?」
に、似合わない………。
「ボク、最中大好きなんだ~」
「そうなの? 意外……」
言うと、彼は目を丸めた。
「そう? じゃ、何が好きそう?」
「うーん……固形物食べる感じがしない」
「何それ。いったいどういうイメージなの、お姉さんにとってのボクって?」
おかしそうに笑う彼。月の光の奇跡みたいに整った顔。
「うーん……月の……妖精」
「何それ?!」
ケタケタと手を打つ彼。そう笑われると、確かに妖精ではない気がする。
「んー……じゃ、月の、王子」
「王子?いいねえ、王子」
そっと左手に唇を寄せられた。
「じゃ、お姉さんは王女様だね」
「王女様って歳かなあ」
「大丈夫大丈夫」
今度は額にキスされた。その唇が瞼、鼻、頬、と降りてくる。軽く触れるだけの優しいキス。夢心地のまま、月を見上げた。この情事は月がくれた夢。私が私でいられる唯一の時間。永遠に続いて欲しいと強く強く願う。
夫はあれ以来どうもよそよそしい。でもなぜか最近、SEXが少し上手くなった。感じてしまうこともある。そんなとき「感じちゃダメ!」と何かが静止をかける。夫に感じることは、彼への裏切りな気がした。
…………裏切り?
我ながらおかしなことを思う。私の夫は夫の方なのに……。
「来週、旅行に行ってていないからね」
言うと、彼は「えー」っと口をとがらせた。
「夫の実家に顔出しに行くのよ。たまには行かないとね」
本当は日曜出発にしたかったのだけれど、夫の仕事の都合で、土曜の午後の新幹線に乗ることになってしまったのだ。
「実家ってどこ?」
「仙台」
「ふーん……じゃ、お土産買ってきてね」
しゃがみ込んでこちらを見上げる彼は、たまらなくかわいらしい。
「お土産? 何がいい?」
「最中。仙台って有名な最中屋さんあるよね」
「も、もなか?」
に、似合わない………。
「ボク、最中大好きなんだ~」
「そうなの? 意外……」
言うと、彼は目を丸めた。
「そう? じゃ、何が好きそう?」
「うーん……固形物食べる感じがしない」
「何それ。いったいどういうイメージなの、お姉さんにとってのボクって?」
おかしそうに笑う彼。月の光の奇跡みたいに整った顔。
「うーん……月の……妖精」
「何それ?!」
ケタケタと手を打つ彼。そう笑われると、確かに妖精ではない気がする。
「んー……じゃ、月の、王子」
「王子?いいねえ、王子」
そっと左手に唇を寄せられた。
「じゃ、お姉さんは王女様だね」
「王女様って歳かなあ」
「大丈夫大丈夫」
今度は額にキスされた。その唇が瞼、鼻、頬、と降りてくる。軽く触れるだけの優しいキス。夢心地のまま、月を見上げた。この情事は月がくれた夢。私が私でいられる唯一の時間。永遠に続いて欲しいと強く強く願う。