創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

月の王子(6/12)

2008年03月05日 10時20分50秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
 翌日の夕方、郵便受けの中にA4サイズの紙が一枚入っていた。それにはワープロ文字で紙の中央に小さく字が書かれていた。
『奥さんの様子がおかしいです。注意してみてあげてください』
「何だこれ……」
 夫が眉間にシワを寄せる。
「嫌ねえ。変なイタズラ」
 いいながらも少しドキリとする。でも大丈夫、と自分に言い聞かせる。彼とのことがバレるはずはない。
「お前、心当たりないよな?まさか、変なアルバイトとかしてないよな?」
「やだ、してないわよ」
 食卓にデパ地下で購入してきたトンカツを並べながら答える。
夫と私は食事の好みがとても似ている。それはとても重要なことだと思う。結婚を決意した理由の一つでもある。
「なあ、もちろん、まさか、浮気、なんてことはないよな?」
「何それ」
 ぷっと吹き出してみせる。
「だって最近、お前妙にキレイになったし……妙に機嫌もいいし……」
「そう?仕事が順調だからかなあ?」
 不信気にこちらを見ている夫に肩をすくめてみせる。
「だいたい、今、仕事忙しいから、浮気する暇なんて……何?」
 いきなり怖い顔で腕をつかまれた。
「どういう意味だよ?」
「な、何が?」
「浮気する暇があったら浮気するのかよ?」
「そんな……」
 揚げ足取り……と、言い返す前に、冷たいリビングの床に押し倒された。
 失敗した。内心ため息をつく。
 キレイになったのはあなたのおかげで幸せだからよ。浮気なんて、愛するあなたがいるのにするわけないじゃない。
 ……とか答えればよかった。失敗した。
 そう考えているうちに、スカートをはぎ取られた。
「え、今、ここでするの?」
 夫は無言で私の肩を上から押さえたまま、ブラウスのボタンを外してくる。
「ね、電気消させて」
「見られて困る跡でもついてるのか?」
 一瞬答えにつまる。素早く昨日の情事を思い出す。そんなに激しいことはしていないはず。大丈夫だ。
「なんの跡?どういう意味?」
 夫は無言のまま、裸になった私の体を上から下まで目を細めて眺めている。こんなに明るい電気の下だとさすがに恥ずかしい。
「ねえ、やっぱり電気……痛っ」
 いきなり、なんの前戯もなく挿入された。夫が素早くズボンを膝まで下ろし、膝立ちの状態で私の腰を抱え込んだのだ。痛さにあえぎ声の演技さえできない。でも夫は興奮したように激しく腰を振ってくる。
 されるまま揺すぶられていたが、ふと、電話台の下に埃が溜まっていることに気が付いた。明日、台を動かして掃除機をかけようかしら。でも明後日締め切りの仕事があるから、それが終わってからにしようかな。
 そんなことを考えているうちに、夫が勝手に果てた。引き抜かれると、ボタッとリビングの床に白い液体が落ちた。
「……ごめん」
 しゅんとしたように夫が言う。それは何に対する謝罪の言葉なんだろうか? 床を汚したこと? 無理矢理SEXをしたこと?
「大丈夫」
 わからないまま答えた。なぜか夫のことがものすごく可哀想に思えてきた。
 それはそれで、夫を愛している証拠のような気もする。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする