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(GL小説)風のゆくえには~光彩2-2

2015年02月26日 11時28分37秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 裁縫をしている綾さんの姿を見ているのが好きだった。
 手縫いでもミシン掛けでも、一心不乱・戦闘状態の綾さん……めちゃめちゃそそられる。

 たいてい我慢できなくて、後ろから抱きついたり、その手にキスしようとしたりして、
「…………刺すよ?」
と、本気で射しそうな目で睨まれるのがオチなんだけど、その中でもたまーに、本当にたまに応じてくれることがあって、そんな時は、そりゃもう激しい………


「先生! ママ連れてきたよ!」
「!」

 妄想中のご本人登場で、ハッと我に返る。いかんいかん。ここは学校。
 記憶の中の綾さんよりさらに艶やかになった綾さんが、娘さんの美咲と一緒に家庭科室に入ってきた。

「すみません、この2着を使って1着作っていただきたく……見本はこれです」
 多くは語らず、現物を見せると、頭の良い綾さんは一つ肯き、

「何分ありますか?」
「!」

 うわあああっ。ぞくぞくぞくっと来た。
 綾さん、戦闘モード! きたーーー!!

「17分……いえ、移動を考えると15分」
「わかりました。はさみください」
「は、はいっ」

 慌てて裁ちばさみを渡す。

「あのぉ、ミシン糸通し終わりましたぁ」

 家庭科の由衣先生がか細い声で言う。
 さっき、私が「家庭科室開けて!」と頼んだら「私、無理!直せません!」と半泣きになった由衣先生。まだ先生になって2年目の23歳。そういう女の子女の子したところ嫌いじゃない。というか、けっこう好き。というか、かなりタイプ。

 私は子供の頃からこういうフワフワした女の子が大好きだった。(唯一恋をした綾さんはまったくタイプが違うのだから不思議)

 で、昨年の歓送迎会の帰り、酔った勢いで思わず手を出してしまい……。職場恋愛は面倒だから、こっちは一晩限りと思ったのに、由衣先生の方はそうではなかったようで、その後もゴチャゴチャしていて、今も油断するとモーションかけられる。……という、いわくつきの同僚。

 でも、こうして、綾さんと由衣先生が並ぶと、私なんで由衣先生に手出しちゃったんだっけ?ハテナ?となる。やっぱり綾さんには誰もかなわない。
 昔からそうだった。綾さんと付き合っていたころも、ちょいちょいつまみ食いしていたけれど、綾さんに会うと、その女の子達が全部色褪せてしまって、綾さんの魅力を再認識させられていたのだった。
 じゃあ、綾さん一筋でいればいいじゃんってツッコミたいところだけど、それはまあクセというかなんというか………

「こっちから首元の花を5つ取っておいてください」
「は、はい」

 もう、裁断が終わっている。ミシンに移動しながら、綾さんがこちらに布を投げよこす。

 本当に、魔法の手だ。よどみなく、迷いもなく、2つの壊れたドレスから、1つの新たなドレスができようとしている。

 
(ああ……)

 うずうずする。あの手にしゃぶりつきたい。あの白いうなじに印をつけてやりたい。

(いかんいかん……)
 邪念を追い払い、由衣先生と協力して花を取り始める。

(………おっと)
 由衣先生がさりげなく膝を寄せてこようとするのを、すいっとやり過ごす。
 もう、由衣先生と関係を持つ気はない。
 と、いうか、3月に綾さんを発見してからは、誰とも寝てない。すごくない?私!

「あかねっ……先生」
「は、はい!」

 綾さんに呼ばれて、ドキッとして慌てて立ち上がる。
 いやいや、やましいことはないっ。私は何もしてないっ。

「な、なに?!」
「黄色い糸、針に通しておいてください」

 綾さんは一瞬だけ視線をこちらに向けたが、すぐに手元に戻した。もう仕上げに入るようだ。

「………由衣先生」
「はぁーい」

 由衣先生が裁縫箱から黄色の糸をだしている。
 思えば、あの当時の綾さんよりも今の由衣先生の方が年上だ。でも当時の綾さんの方が断然大人っぽい。色っぽい。そして今、年齢を重ねてさらに色っぽくなっている。

「花、5つ、取りました」
「ありがとうございます」

 ミシンの前から綾さんが戻ってきた。もうワンピースができている。片方の後ろ身ごろを前身ごろに作り直し、合体させたらしい。すごい。見本と全く変わらない。あとは首元に花をつけるだけだ。

「ママ………すごい」
 あっけにとられていた美咲がつぶやいた。鈴子もその横でお祈りのポーズをして肯いている。
 菜々美とさくらは先に会場に戻らせてある。万が一時間までに美咲と鈴子が戻ってこなかったら、他の先生に知らせてほしい、と頼んであるが、それも必要なさそうだ。
 子供たちが苦労してつけていた花を、綾さんはいとも簡単につけ終えてしまった。
 これで出来上がり。綾さんが家庭科室にきてから8分しかたっていない。

「はい。これでどうでしょう?」
「か………完璧です!!」

 抱きつきたい気持ちをぐっとこらえてワンピースを受け取ると、
「はい、美咲さん」
 パサッと美咲に着せてやる。ピッタリだ。

「うん。かわいいかわいい。花の精みたい」
「ホントに?!」
 嬉しそうに美咲が声を弾ませる。

「で、こっちは鈴子さんね」
 見本のワンピースを鈴子に着させる。
「よし。こちらもオッケー! かわいい!」

 よかった。これで無事に二人とも参加できる。

「じゃ、二人とも、急いで行って!」 
「はーい」

 キャッキャッとはしゃぎながら二人が走っていく。
 やれやれだ。ホッと一息つく。

「じゃ、由衣先生、申し訳ないんですけど、片付けと戸締りお願いしていいでしょうか? 2年生の演目に間に合わなくなってしまうので……」
「はーい。わかりましたー」

 つまらなそうな由衣先生。いやいや、構っていられません。
 綾さんを促し、早々に家庭科室を出る。

 誰もいない廊下。聞こえてくる歓声。

「綾さん……昔よりもさらにスピード上がってるよね? 今も何かやってるの?」
「やってるというか……」

 綾さんは肯くと、

「古着のリメイクのボランティアをしてるの」
「なるほど……」
 通りで洋服を崩すのも手馴れていたわけだ。

 階段の踊り場にきたところで、綾さんが急に立ち止まった。

「あの、一之瀬先生」
「はい?」

 口調があらたまっている。綾さんは心配そうな顔をしてこちらを見上げた。

「美咲はイジメられてるんでしょうか? あんな風に衣装を切られてしまうなんて……」
「あ……いや……」

 おそらく、ターゲットは鈴子一人。見本の一着を美咲が着るよう仕組むために、美咲の衣装も切ったのだろう、という推測を話すと、

「そんな……」
 綾さんは両手でこめかみのあたりをおさえてうつむいた。

「美咲が首謀者なんでしょうか……?」
「たぶん違うと思います。美咲さんはのせられてしまっているというか……」
「そう…………」

 大きくため息をつく綾さん。すっかりお母さんなんだなあ……。

「『自分の大切な人に胸を張って言える行動かどうか考えなさい』」
「え?」

 聞き覚えのあるセリフ。私が子供たちにいった言葉だ。
 綾さんが独り言のようにつぶやく。

「その言葉、美咲の心に響いていたようだったのに……」
「それは……」

 難しいところなのだ。

「例えば……こう言われたらどうでしょう? 『鈴子ちゃんはダンスが下手。あの子がいると迷惑。だから出ないほうがみんなのため。でも、出ないでなんていえない。だったら衣装が壊れたことにしてしまえば誰も傷つかない。鈴子ちゃんだって恥をかかずにすんで感謝するに違いない』」
「そんな……」

 おそらく、彼女たちの中ではそういう話になっているのだろうと容易に想像がつく。

「中学生の正義なんてそんなものです。だから今後、美咲さんに矛先がむくかもしれない……」
「え?」

 綾さんが眉を寄せた。
 そうなのだ。私が考えなしだった。
 途中で気がついたのだが、時間がなくて気がつかなかったフリをしてしまった。

「もしそうなってしまったら、本当に申し訳ないです」
 深々と頭を下げる。
「全力で美咲さんのことは守りますので……」

「え、ちょっと、待ってください。美咲に矛先がむくって?」
「今回の計画、美咲さんのお母さんのせいで失敗に終わったってことになりますから……」
「ああ……そういうこと」

 綾さんが軽く首を振った。

「それはしょうがないです。鈴子ちゃんがダンスに参加できなくなる方が、大人になって思い出したときに必ず後悔するに違いないし」
「…………」
「そんな後悔をするくらいなら、矛先向けられた方がマシです。それにあの子、そんな矛先へし折るくらいの強さはあるから」
「…………」

 綾さんの意思の強い目。本当に変わっていない。
 ああ、今すぐ抱きしめたい……。

「あ、前の競技終わったみたいですね。音楽が退場の……」
「……綾さん」

 我慢できなくて、踊り場の小さな窓から外をのぞいた綾さんを、後ろからそっと抱きしめた。
 ああ、しっくりとくるこの感触……。幸せ……。

 抵抗するかと思いきや、綾さんはジッと立ち尽くしていたが……

「由衣先生が今の彼女?」
「え?!」

 いきなりとんでもないことを言われて、パッと手を離す。

「な、なんでっ」
「あかね、好きでしょ?ああいう子。昔っからそうよね」

 ここここ怖いっ。

「いやいや、由衣先生とは前にちょっとその……、でも、今は何もっ」
「彼女のほうはそうでもなさそうだったけどね」
「…………」

 さ、さっきの、やっぱり見られてたんだっ。

「いやいや、本当に彼女とはもうなんでもなくてっ。ていうか、3月に綾さんを見つけてからは、全員手を切って、本当に、今は誰とも何も……っ」
「どうして?」
「!」

 綾さんの目。……何? どうしてこんなに、冷たい……。

「……綾さん?」
「あかねが誰と何をしようと、私には関係のない話よ? 私達、もう付き合ってるわけでもないんだし」
「…………」
「それに」

 綾さん、怖いくらいの無表情……。

「付き合ってたころだって、あなたは散々遊んでたものね? それなのに、今さらそんな……」
「綾さん……」
「………………」

 ふいっと綾さんは背を向け、階段を降りていってしまった。
 残された私は、二年生のダンスの音楽がかかるまで、その場に立ちすくんでいた。



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とりあえず、あかね視点終了。
次回から再び綾さん視点。

また来週、3月2日(月)に更新しまーす。

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