<登場人物・あらすじ>
渋谷慶……浪人一年目。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……大学一年。身長176センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。
安倍康彦……大学一年。身長172センチ。慶の高一の時の同級生。ずっと直子に片想いしている。
石川直子……短大一年。身長159センチ。慶の高一の時の同級生。ずっと慶に片想いしている。
高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
その関係を隠したまま高校は卒業し、卒業後、慶の友人安倍康彦(通称:ヤス)にだけはカミングアウトする。ヤスはそのことを石川直子に告げるが、直子は信じてくれず……。慶視点でお送りします。
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『風のゆくえには~キスで証明』
薄暗いカラオケボックスの中、隣に並んで座っている浩介に、ふいに身を引き寄せられた。
「慶」
「え……」
愛しい瞳が近づいてきて、かあっと身体が火照ってくる。
「浩……ちょ、待……」
「待てない」
「ヤス達がきたら……」
これから高校時代の同級生の安倍康彦と石川直子さんも来ることになっているのだ。それなのにこんな……
「大丈夫だよ。30分遅れるって言ってたよ」
「でも……っ」
耳を咥えられ、ぞくぞくぞくっと快感が走り、思わず浩介に縋りつく。するとここぞとばかりに浩介が腰に回した手に力をこめ、首筋に唇を落としてきた。
「浩……っ」
「慶……」
マズイ。キス以上のことはほとんどしなかった高校在学中とは違って、卒業後、何回か体を重ねる経験をした今は、以前よりもずっと反応が良くなってしまっていて……耳元で囁かれて腰が砕けてしまう。
「キスだけ。いいでしょ?」
「ダメだろ……って、んんんっ」
カラオケボックスは歌を歌うところです。そういうことしちゃダメです。
って分かってるのに、理性が流される……っ
(ダメだって……っ)
頭で思いながらも、貪るように求めてくる浩介のキスに、我慢できず応戦してしまう。
ソファーの上に膝立ちになり、背もたれに手を着いて、座っている浩介に覆いかぶさるような形で、唇を合わせる。舌を侵入させ絡めとる……
(これ以上したら、マジでとまんねえ……っ)
思いながらも、止まらず、唇を吸い取り、軽く噛みつく。差し出してきた舌を舐めて、そして……
と、その時。
「もういいぞ!」
「!?」
声と共にいきなりドアが開いた。驚いて浩介から飛び離れる。振り向いた先には、30分遅れると言っていたというヤスが顔をのぞかせていて……
「時間になっても戻らなかったら帰っていいから! サンキューな!」
そう叫ぶと、再びドアを閉めて行ってしまい……
「………」
「………」
振り返ると、浩介が気まずそうに天井を見上げていて……
「浩介……」
「……はい」
い、の口をしたまま、浩介はこちらに顔を向け……、えへ、と笑った。
「えへ、じゃねえよ!」
可愛い子ぶっても無駄だ!!
「どういうことだ!!」
「えーっと……あのー………」
頬を指でかきながら、浩介が言い出したのは、頭が痛くなるような話だった……
***
安倍康彦、通称ヤス。
高校一年生で同じクラスになって以来、気があってなんだかんだとつるんでいる。在学中は同じ帰宅部だから行動も共にしやすかった。
学校帰りに一緒に区民プールに泳ぎに行ったり(ヤスは中学の時に水泳部だったそうで、いい勝負になるから面白い)、バイトを一緒にしたりと、浩介がバスケ部の練習でいない間はヤスと一緒にいることが多かった気がする。
そのヤスが、ずっと片想いをしているのが、石川直子という高一の時に同じクラスだった女子。
一般的にいって、可愛い部類に入る容姿をしていて、本人もそれを自覚して最大限に発揮しようとしている感じがする。
その女女したところがおれは苦手だったんだけれども、彼女はなぜかおれのことを気に入っているらしく、3年連続でバレンタインを渡されそうになった。
「ごめん、誰からも受け取らないことにしてるから」
一年の時から、そうキッパリハッキリ断っているのに、効果がない。
表向きは、女の子に興味ない・付き合ったりするの面倒くさい、としながらも、本当は高2のクリスマス後からは『彼氏』(彼氏?)がいたわけで、騙しているようで申し訳ないというか何というか……
でも、高2の時に文化祭実行委員を一緒にやった鈴木真弓先輩によると、
「あれは『振り向いてくれない彼を思い続ける私、健気で可愛い』って自分に酔ってるってとこでしょ」
だから、気にすることないんじゃないの? と……
…………。
手厳しいというか何というか………。おれも何言われてるのか分かんないな……。
***
結局、ヤスは一時間しても帰ってこなかった。歌を歌う趣味のないおれ達は、しょうがないので一時間勉強していた。そうでもしないと、色々したくなって困るからだ。(いやまあ、軽いキスとか、必要以上に体を密着させるとかくらいはしたけど……)
店から出るとちょうどヤスがこちらに向かって歩いてくるところに出くわした。
「おー、変なこと頼んで悪かったなあー」
「…………」
本当だよ……。まんまと巻き込まれた……。
卒業後、ヤスにはおれ達の関係を告白した。
ヤスはおれに「彼女を作れ」と、ことあるごとに言ってきていて(石川さんにおれを諦めさせるためだ)、在学中は「興味ない」で押しとおしてきたけれど、もういい加減、それも限界だと判断したからだ。
でも話すことにはかなりの勇気がいった。「本当のことを言って、疎遠になるならなるでしょうがない」と、浩介には強がって言っていたけれど、心の中では「どうか理解して友達を続けて欲しい」と願わずにはいられなかった。せっかくのこんなに気の合う友達、できれば失いたくない。
4月中旬、ヤスにおれのうちに来てもらった。かなり緊張しながら、おれと浩介が高2の冬からつき合っている、ということを話したのだけれども……
ヤスは目をまん丸くして、「え? マジで? マジで? マジで?」と「マジで?」を連呼した後に、
「もっと早く教えろよーーー!!」
と、絶叫した。それから「石川さんにも言っていいよな?!いいよな?!」と言ってきて………予想と違う反応に戸惑ってしまう。
「お前……それだけ?」
「は? 何が?」
思わず聞くと、ヤスがはて?と首をかしげた。何がって……
「いや……その、おれ達のこと、気持ち悪いとか……」
「は? 何で? んなことより、石川さんにっ」
「………」
浩介を見上げると、浩介も苦笑気味に肯いたので、ヤスに手を広げてみせる。
「好きにしてくれ」
「おうっ。サンキュー! うちの大学、石川さんの大学と一緒のサークル結構あってさ。石川さん、テニスサークル入るっていってるから、オレも同じところに入ろうと思ってて。よし。じゃあ今度会った時に……」
「………」
思わず……石川さんに感謝してしまいたくなった。石川さんへの思いの強さのおかげで、ヤスはおれと浩介の関係に嫌悪感を抱くことがなかったのではないか、と思う……。
でも、それから3ヶ月以上たった今でも、石川さんはまったく信じてくれないそうだ。それで、今日、一芝居うたされた、というわけだ……
石川さんをカラオケボックスに遅れて誘導し、『イチャイチャしているおれたち』を目撃させる、という作戦……。おれに本当のことを言うと協力を拒否されると思って、浩介だけに頼んでいたそうだ。まんまと乗せられて『イチャイチャ』してしまったおれ……情けないというかなんというか。
「石川さんは?」
「帰った」
「で? 納得してくれたのか?」
「んー……芝居だってバレてた」
「え」
いや、あのキス自体は芝居じゃないんだけど……。
「『あんな演技をするくらい、諦めさせたいってことなのね』って、すっげーショック受けてた」
「なんだそりゃ」
いつもながら石川さんの思考回路は理解できない……。
でも、ヤスはグッとガッツポーズを作ると、
「まあ作戦は成功だ。これはチャンスだ」
「………」
ヤス、前向き……
「と、いうことで、協力サンキューな」
「あ……いや」
なんだかよくわからないけど、まあいいか。
頭を下げてきたヤスに、浩介と揃って手をブンブン振ると、
「あー……そうだよなあ……」
なぜかヤスはあらたまったようにおれ達二人をジロジロとみて、あごをなでながらシミジミとつぶやいた。
「お前ら、本当に付き合ってんだよなあ。目の前でイチャイチャ見せつけられてようやく本当のことだってわかった気がする」
「え………」
あ、そうだ……あのキスを石川さんだけじゃなく、ヤスも見たってことだもんな……
あごをなでながら、そうだよなあ……と言い続けているヤス……。それは、男同士のラブシーンなんてやっぱり気持ち悪いとかそういう……?
(まあ、普通はそうだよな……)
内心、ちょっと落ち込みながらヤスの次の言葉を待っていたのだけれども……
「くそーーー!!うらやましい!!」
「!」
いきなり拳を振り上げて叫ばれ、ビクッとなってしまった。
「な、なに……」
「おれもがんばろー。これからサークルの合宿もあるし!ガンガン行くぞガンガン!それでお前らに自慢し返してやる!」
「…………」
ヤスの張りきった発言に、浩介と二人顔を見合わせ笑ってしまう。
どうかヤスのこの一途な思いが届く日がきてくれますように……
その日の帰り、いつも通り、うちの近所の川べりの土手に寄った。
「安倍って良い奴だよね」
「まあ……そうだな」
浩介がボソッというのに、慎重に肯く。浩介が本当はおれとヤスが仲良いのを快く思っていないことは知っている。まあ、単なる焼きもちで、可愛いからいいんだけど。
浩介はそっとおれの手を掴むと、下を向きながらつぶやいた。
「安倍は大丈夫だったけど………もし、他の友達にバレて……『男と付き合ってるような奴とは友達続けられない』って言われたら……」
「…………」
「慶………どうする?」
「…………」
震える浩介の手をぎゅっと握り返す。
「別にどうもしねえよ。友達やめればいいだけの話だろ」
「…………でも」
うつむき続ける浩介の手を、ぎゅっぎゅっぎゅっと握り続ける。
「おれはお前がいてくれればそれでいい。友達とかどーでもいい」
「慶……」
「あ、それにさ」
泣きそうな浩介に、ニッと笑いかける。
「おれ達、『親友兼恋人』、だろ? 友達間に合ってんじゃん」
「慶………」
浩介が泣き笑いの顔で、おれの手の甲に唇を落とした。
そう、おれ達は『親友兼恋人』。そりゃあ友達も大切だけど、浩介以上に大切なものなんてこの世には存在しない。
***
夏休み明け、再びのカラオケボックスの中。
ヤスから、無事に石川さんと付き合うことになったと報告を受けた。
「それで、もう一回証明頼むよ」
「証明?」
何の話だ? と聞いたおれに、ヤスは真面目な顔をして言った。
「キス。キスで証明。これから石川さん来たら、目の前でガッツリしてやって」
「…………」
あほかっ!
「誰がするかっ」
「え、いいじゃん!」
怒鳴ったおれの横で浩介がはしゃいだように言う。
「するする!全然する!」
「しねーよ!」
抱きついてこようとする浩介をグリグリと押し返す。
「どうせまた演技だって思われるのがオチだろっ」
「演技だと思われないくらい濃厚なものを……」
「ばかっあほっ離せっ」
わたわたとしているところへ、石川さんがやってきた。
やっぱりおれ達の関係はどうしても信じてくれないけれども……
「でももう私、渋谷君のこと好きじゃないから!」
彼女はおれに向かってキッパリハッキリ言いきると、
「これが証拠!」
そう言って、ヤスの頬にキスをした。
「石川さん……」
真っ赤になったヤス。そのヤスににっこりとほほ笑みかける石川さん。
「………」
「………」
幸せそうな二人の姿に感化され、思わずおれたちも見つめ合い……一瞬だけ唇を合わせた。
「慶」
大好きだよ、と耳元で囁いてくれる浩介。
幸せなキス。幸せの証明。これからもずっと続きますように……
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お読みくださりありがとうございました!
年表をみて穴埋めをしております。
久しぶりなのにこんなまったりした話でいいのかしら……と、ドキドキしてます……
でも書きたかったんだもん。自分が読みたいからいいんだもん。…と自分を励ましているところです。
すみません、今後もこんな感じで、
「あの人どうなったの?」とか「あの時何してたの?」とか、年表の穴埋めをしていきたいと思っております。
よろしければお付き合いいただきたく……今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
更新していないのにも関わらず、見に来てくださった方、クリックしてくださった方、
本当に本当にありがとうございます! お優しい(涙)(涙)
せめて週一くらいは何かしら発信したいなあと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
本当に本当にありがとうございました!


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