渋谷慶……大学一年。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……大学二年。身長177センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。
上岡武史……大学二年。身長180センチ。高校の同級生で浩介と同じバスケ部。慶とは中学も同じでバスケ部のチームメイトだった。
☆前回までのあらすじ☆
高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
慶は一年間の浪人生活を終え、無事に医大生になり、部活とバイトと浩介漬けの日々を送っている。
浩介は、慶がバイト先でモテモテなことにイライラモヤモヤ中。
4月末の日曜日。
待ち合わせ場所にいる慶を遠くから眺めて、うっとりしていた浩介だが、突然、横から声をかけられビックリして振り向く。するとそこには高校の同級生で同じバスケ部だった上岡武史が立っていた。
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「わあ、久しぶり」
「おお。久しぶり」
卒業後、一緒に夏合宿に遊びに行ったとき以来だから、上岡に会うのは8ヶ月ぶりだ。いつもの尖った感じがなかったので、一瞬誰だか分からなかった。
(あ、背、抜かされたかも)
高校一年で出会ったときは、おれより少し低いくらいだったけれども、途中で並ばれ、今はおれより高い気がする。
(慶もこんな感じだったのかな……)
上岡と慶は同じ中学で同じバスケ部で、入部当時、二人の背は同じくらいだったけれど、中2になってから上岡だけがどんどん大きくなっていったそうだ。中学時代はレギュラー争いが激しく、二人はものすごく仲が悪かったそうで、高校入学後も途中までは微妙な関係が続いていた。
「待ち合わせか?」
「あ、うん」
「って………、相手、渋谷かよっ」
少し離れたところにいる慶の姿を見つけ、ぎょっとしたように言う上岡。
「ちょ、ちょっと、渋谷つれて早くどっか行ってくれっ」
「え?」
ずいぶん慌ててる。なんだなんだ?
「オレのツレが………あああっ」
「え? え?」
何か言いかけた上岡が、あちゃーっと言いながら顔を覆った。なんなんだ……? と、慶の方を見ると……
「あれ……」
慶に話しかけている女の子がいる。知っている子らしく慶もにこやかに対応している。
「上岡のツレってあの子? 慶も知ってる子?」
「ああ、同じ中学の1コ下でバスケ部だったから……」
上岡、ムッとした表情作ってるけど、顔、赤い。ってことは!
「彼女?」
「え!? あ、いや、まあ………なんだ」
照れてる………。こんな上岡、初めて見た。上岡は高校の時も彼女がいたことはあったけど、その時はこんな顔しなかったのに。
「いつから付き合ってるの?」
「……え?」
二人の様子をジッと見ていた上岡が、上の空で振り返った。なんだか上岡、様子が変……。
「どうかした……」
「たーけーちゃーん!」
言いかけたのを、女の子の甲高い声に遮られた。上岡が再び顔を覆う。
「こっちこっち!渋谷先輩がいたー!」
「あー……」
上岡がその女の子に軽く手を挙げてから歩きだしたので、おれも慌ててついていく。
「あれ、浩介。一緒だったのかー?」
「あ、うん。そこで会った」
ニコニコで手を振ってくれた慶に、おれも手を挙げる。上岡はなんだか気まずそうに慶を見た。
「よお……久しぶり」
「おお」
慶は上岡に軽く肯くと、隣の女の子をさしながらおれの方に向き直った。
「この子、同じ中学のバスケ部だったミコちゃん」
「こんにちはー」
紹介された『ミコちゃん』が嬉しそうに笑ってくれる。慶よりも少し小さい、ショートカットの可愛らしい子だ。
「こんにちは。上岡の彼女さん」
「きゃー彼女だって!たけちゃん!」
「痛い痛い痛いっ」
バシバシ背中を叩かれて、上岡が悲鳴をあげる。
慶がびっくりしたように目を丸くした。
「え、武史とミコちゃんって付き合ってるの?」
「そうでーす!もう1ヶ月!」
「も……っ」
1ヶ月で『もう』!?と、笑ってしまう。
(うちは……2年と4ヶ月、だね)
慶を見ると、慶もたぶん同じこと考えたのか苦笑気味におれを見返した。
そんなおれ達にミコちゃんは嬉しそうに言葉を続けた。
「でも、たけちゃんは、小学生の時、あたしのこと好きだったんだって」
「へええええっ」
小学生! ってことは、もしかして、初恋とか、そういう感じ? だから高校時代の彼女の時と雰囲気違うのかな?
「ミコト!」
上岡が慌てたように遮ろうとしたけれど、ミコちゃんは構わずにこにこと続ける。
「高校になって会わなくなっちゃったけど、去年、家庭教師してもらうために会うようになって、それで……」
「家庭教師?」
「ミコト、余計なこと言うなっ」
でも、ミコちゃんの言葉は止まらない。
「あたしとたけちゃん、うち近所で、母親同士仲良いから」
「あ、そういえば、そんなこと言ってたよね」
慶がポンと手を打った。
「まだミコちゃんが小学生の時によく試合見にきてたから、なんで?って聞いたら……」
「そうそう!そうです!」
ミコちゃんがはしゃいだように言う。
「でも、あの時はあたし、渋谷先輩のこと好きだったから、誤解されたくなくて必死に……」
「え?」
好き?
「え?」
「え?!」
「ミコト!」
とうとう上岡が強制的にミコちゃんの口をふさいで止めた。
「お前、その話は二度とするなって言っただろっ」
「あ……そうだった。ごめんね」
ミコちゃんは悪びれもせず、ペロッと舌を出すと、
「忘れてくださーい」
「え……あ、うん」
いや……忘れてと言われても……すごいこと聞いちゃった……。それで上岡、慶とミコちゃんが話しているところを睨むようにして見ていたわけか……
「行くぞ」
上岡は仏頂面のまま、まだ話したそうなミコちゃんの肩を強引に抱くと、おれに視線を向けた。
「桜井、また夏合宿でな」
「うん」
そして、慶にも何か言いかけるように口を開きかけ……結局、何も言わず雑踏の中に消えていってしまった。
上岡にあんな一面があったなんて……
「………」
「………」
慶と顔を見合わせ目をパチパチさせていたのだけれども……
「………………あっ!」
ものすごいことに気がついて叫んでしまった。びっくりした顔の慶に畳みかける。
「もしかして、中学の時に上岡が慶に嫌がらせしてたのって、レギュラー争いのことだけじゃなくて、ミコちゃんのことがあったからなんじゃないの?」
「…………なんだそりゃ」
こめかみのあたりを押さえた慶……
そうだ。絶対そうに違いない。
実は、レギュラー争いで嫌がらせって話、高校生の上岡からは想像できなくて不思議に思っていたのだ。上岡は自分の腕に自信を持っている。そんな彼がレギュラーを取るために嫌がらせなんて……。でも、好きな女の子が慶のことを好きで、その嫉妬から嫌がらせした、ということなら納得できる……。
『なあ……、渋谷、本当にもうバスケやらないつもりなのかな?』
ふいに、高校一年生の夏合宿の帰り道に上岡に言われたことを思いだした。
『オレ、もう一回渋谷とバスケやりたいんだけどな』
あれは心からの望みだったのだろう。子供じみた嫉妬で仲たがいをしたまま別れてしまったチームメイトへの後悔……
その後、高二の時の体育の授業で、2人は同じチームになり、上岡の望みは果たされる。
中学時代のゴールデンコンビ(慶と上岡はプライベートでは仲が悪かったけれど、コートの中では良いコンビだった)は、二年以上のブランクをものともせず、2人で点を入れまくり……
『お前まだまだ現役いけるじゃん。やっぱバスケ部入れよ』
『やなこった。お前がいるから入んねーよっ』
『なんでだよー!』
試合終了直後、上岡が慶の頭をくしゃくしゃっとして、慶が笑って………
(あ、思いだしたら、腹立ってきた)
あの時おれは、嫉妬心でどうしようもなくなって、みんなの前で叫んだんだよな……
あの試合のおかげで、慶と上岡のわだかまりはなくなったようだけれども……
「………」
「わ、なんだよ?」
ムッとしながら、慶の頭をくしゃくしゃくにしていたら、慶が笑いだした。そして、少し声をひそめておれに問いかけてきた。
「どうする? 食ってからいく? 買って向こうで食う?」
「買ってく……」
これからホテルに行く約束をしているのだ。早く行きたい。どこかで食事なんて悠長なことはしていられない。
「慶……」
耳元に唇を寄せてささやく。
「早く二人きりになりたい」
「……っ」
カーッと真っ赤になった慶。
通りすがりの女子高生の群れが、慶を見ながらきゃあきゃあ言っている。慶は本当に目立つ。慶は本当に綺麗。
見せびらかしたい気持ちが、誰にも見せたくない気持ちに上書きされて、苦しくなってきた。
「……みんなして慶をみてる。慶はおれのものなのに……」
「うるせーよっわかったから黙れっ」
ブツブツ言っていたら、普通に蹴られた。
わかった、って言うけど、慶は全然わかってない。おれは不安で不安でしょうがない。
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お読みくださりありがとうございました!
上岡武史の話は、ずっと前から書きたかったけど、書きそびれていて、結局今になってしまいました。
ミコちゃんの本名は『小川美琴』です。ザ・妹キャラな女の子です。
上岡君、高校生になって同じクラスの女子やバスケ部の女子と付き合ったりしてましたが、いずれも長続きせず……。まわりまわって初恋が叶って良かったね、ということでした。
中学時代、武史にとって慶はムカつく対象でしかありませんでした。入部当時は同じ背格好だったためよく比べられていて(しかも、慶はミニバス経験者でしたが、武史は中学になってから本格的にバスケをはじめたため、慶の方が上手だった)、その上、初恋のミコトは自分の応援のために試合に来たはずが、慶のファンになってしまうし……。
でも、2年の終わり頃からは『緑中ゴールデンコンビ』といわれるくらい、コートの中では良いコンビになって、
3年生の夏には、ようやく慶のことを認められる!って思えたのに、慶が怪我のため一足先に引退……その後もバスケ部には顔を出さず……
もやもやしたまま高校生になり……、という感じでした。
武史のここらへんの事情はいつか書いておきたかったので(実は『逢遭』の「もう一回渋谷とバスケやりたい」発言の頃から、書きたいなあと思いつつ、本筋と離れるため書けなかったのです)、書けてよかった……とすみません。自己満足です。
次回もよろしければどうぞよろしくお願いいたします。
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