登場人物
渋谷南……高校3年生。兄の恋を影となり日向となり応援している。
天野千夏……高校生3年生。南の中学時代からの親友で同人誌作りの仲間。通称天野っち。
渋谷慶……浪人一年目。南の兄。超美形。
桜井浩介……大学一年生。慶の親友兼恋人。
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『風のゆくえには~南の決意』
「南ちんのお兄さん……色っぽくなったよね」
中学からの親友・天野っちが、うっとりと言うのを「ほえ?」と聞き返す。
「そうかね?」
「そうだよ~~半端ない色気ですぞ?」
えー……と唸ってしまう。色気……かあ……。
「これはやはり愛されている証拠では?」
「うーん……」
唸りながらも、心当たりは多いにある。
「まあさあ……愛されてるのは確かだよね。だって、私達がプレゼントしたあの潤滑ジェル使い終わったっていうんだから、そのくらいの回数は確実にヤって………」
「やめれっ!さっき実物の二人見たばっかだから、想像できすぎて鼻血ふくっ」
うはは、と笑った天野っちに、イヒヒと返す。
「いや~~もしかしたら今ごろ、隣の部屋でいたしているかもしれないよ~~?」
今、渋谷家は両親不在。私の部屋に私と天野っち。そして壁を挟んで隣の兄の部屋には、兄とその彼氏である浩介さんがいる。
浩介さんは、一応、受験生である兄に勉強を教えにきてることになっているけど……狭い部屋に二人きりで長時間いて、変な気を起こさない可能性の方が少ない気がする!
「うお~~もしそうだとしたら……」
「見たい……よね」
「…………」
「…………」
顔を見合わせ、にや~~っと笑う。
「なんと、こちらのこのベランダ、兄の部屋の前まで続いております!」
「マジですか!」
キラキラ目になった天野っちと、グッと拳を突き合わせる。
「行きますか」
「行かれますか!」
こうして、私と天野っちは、10月の爽やかな秋空の下、兄の部屋を覗き見るために、こーっそりとベランダを忍び足で歩きはじめたのである。
**
「ずっと勉強してますなあ……」
「……ね」
つまらん……。本当に勉強してる……。
せっかくレースのカーテンの隙間からバッチリ中の様子が見えるというのに、待てど暮らせど、二人は真面目に勉強し続けている……。
でも、「もう、戻ろうか」と言いかけた、その時だった。
「南ちん!」
ハッとしたような天野っちの言葉に部屋の中を覗き見ると……
(おおお!?)
兄が立ち上がり、ベッドに腰かけた。続いて浩介さんも立ち上がり、兄の頭をくしゃくしゃと撫で……
「うひゃ……」
「マジで……」
思わず天野っちと手を取り合った、のだが。
(え!?)
スーっと浩介さんがこちらにやってきて………
(ヤバ……っ)
見つかった! と思いきや……
「え?」
浩介さん、私と天野っちにニッコリと笑いかけると、
「あ」
ザーッと厚手のカーテンを引いてしまった……これじゃ見えんがな!!
……って、ちょっと待て。
カーテン引いた。こんな真っ昼間からカーテン引いた。最後に目に入ったのは、ベッドに横になった兄の姿。
と、いうことは? ……と、いうことは!?
「み……南ちんっ」
「と、とりあえず戻ろう……」
小さい声で言い合い、来たとき同様、コッソリとベランダを歩き、部屋に入った途端、はああああっと二人で大きく息をはいた。
「南ちん……」
「くそー……見たい……」
でもあれでは絶対に見えない……
壁一枚挟んだ先でこんなおいしいことが起きているというのに見えないなんてー!!
「壁から声だけでも……」
天野っちがピッタリと壁にへばりついたけれど、何も聞こえないらしく首を振った。
壁が無理なら……
「ドア越しなら聞こえるかね……」
「よしっ行ってみよう!」
おー!と二人で再びコッソリとドアを開け、廊下に出たのだけれども………
「え?」
私達が出たのと同時に兄の部屋のドアが開き………
「浩介さ……」
「シーッ」
人差し指を口に当てた浩介さんが立っていた……。
***
「慶が眠くなっちゃったって言うから、一時間したら起こす約束で寝かせたんだよ」
と、浩介さんがニッコリといった。さよですか……。
「いつから気が付いてた? 私達がいたこと」
「んー、カーテン閉める少し前かな。慶は気がついてないよ」
知ったらものすごく怒るだろうから、内緒にしておくね?
そういってくれる浩介さん。あいかわらず優しい。
浩介さんは首をかしげて言葉を継いだ。
「それにしても、何でのぞいてたの?」
「え、そりゃ理由は一つでしょ」
何を言ってるんだ。
「二人がナニしてるところを見学させていただこうかと思いまして」
「ナニって?」
きょとんとした浩介さんに指をつきつける。
「ナニはナニでしょ。なにカマトトぶってるの。やることやってるくせに」
「カマ……ッ」
浩介さん、ぷっと吹き出すと、手をぱたぱた振った。
「今日は勉強のために来たんだから、勉強以外しないよー」
「えー!!健康的な10代男子にあるまじき発言!」
ソーダソーダ!と天野っちも加勢してくれる。でも浩介さんは手を振り続け、
「だいたい、隣に妹さんとその友達来てるのにやるわけないじゃん」
「えーそこは遠慮なさらずに」
「私達に構わずやってください」
「やらないやらないっ」
あはははは、と笑う浩介さんにたたみかける。
「じゃあ、私達がいなくなったらやる?」
「お邪魔なら出てますから!」
でも、浩介さん、首を横に振った。
「やらないよー。いつ帰ってくるかと思うと落ちつかなくて嫌だもん」
「えー……」
天野っちと二人で口を尖らせる。
「じゃあ、2人いつもどこでやってんのー?」
「どこでって……」
浩介さんは頬をポリポリかいて誤魔化そうとしたけれど、天野っちと一緒に「どこでどこでっ」としつこく言い続けたら、観念したように白状した。
「ラブホテル、だよ」
「ラブホテル!」
おおおっと天野っちと手を取り合う。
「男同士で行っても大丈夫なもんなの?!」
「それ専用のホテルがあるとか?!」
「いやいやいや」
浩介さん苦笑い。
「大丈夫だよ。清算も機械でしてくれるとこに行ってるから誰にも会わないし」
「おおおおっ」
そんな便利機能が! 後学のために我々も今度行ってみよう!
二人で盛り上がっていたら、浩介さんがいやいや、と止めてきた。
「二人ともまだ高校生でしょ。高校生がそういうとこ行くのどうかと思うよ。しかも南ちゃん、早生まれなんだからまだ17でしょ」
「えー……」
つまらん。
ナニするところも見れなければ、ナニする場所の見学もできないなんて。
お兄ちゃんはただ寝てるだけだし……、と、そうだ。
「ねえねえ、おはようのキスする?」
「え」
困ったように笑った浩介さんに更に詰め寄る。
「するよね? そのくらいはするよね?」
「南ちゃん……」
「そのくらい見せてくれてもいいよね?!」
「いいですよねっ?!」
いやいやいやいや……と再び手を振った浩介さん。でも許さないっ。
「あのジェル、2本目使ってるんだよねえ?」
「え、いや、その」
「南ちんのお兄さん、すっかり色っぽくなったですもん。これは誰のおかげかな、と」
「それは浩介さんのおかげ、ひいてはジェルをあげた私達のおかげ!」
「ソーダソーダ!」
「いやいやいや……」
その後、「無理無理」「無理じゃない!」の押し問答の末、浩介さんがようやく首を縦にふった。
そうこなくっちゃ!!
**
と、いうことで。
兄の部屋のドアを開けっぱなしにしてもらい、天野っちと二人で少し顔をだした。
兄の枕元に立った浩介さんは、一回こちらを振り返り、苦笑いを浮かべてから、そっと兄に顔を寄せた。
(うにゃーっっ)
角度的に盛り上がった布団が邪魔で、あんまり見えないんだけどーーっっ
反対側の天野っちも同様のようで、つま先立ちしたりソワソワしてる。
そんな感じで結局、キスはちゃんとは見えなかったんだけど……
「慶……一時間たったよ?」
(うわっ)
お兄ちゃんの耳元でささやくように言う浩介さんの声が、いつもより少し低くてドキッとする。
(二人きりの時はこんな声で喋ってんのー? うひゃーいいもの聞いたーっ)
思わず天野っちを見ると、天野っちも手をお祈りするみたいに組んでうんうん肯いている。
浩介さん、引き続きベッドに腰かけて、お兄ちゃんの顔の横に手をつき、耳元で囁いている。
「慶? 大丈夫?」
「………ん」
兄が身じろぎをした。そして……
「浩介」
(うおっ)
兄の白い両腕が伸ばされ、浩介さんの首の後ろに巻きついた。引き寄せられ、お兄ちゃんにのしかかるみたいになった浩介さん。あわてたようにワタワタとしている。
「ちょ、慶っ」
「あと5分ー一緒に寝よーぜー」
「わわわわわっちょっとちょっと!離してってばっ」
「なんでだよ」
「ごめん、ドア開けっ放し! 閉めてくるから!」
「ん」
解放された浩介さん、さささっとドアのところまでくると、
『ごめんね』
と、苦笑いで声もださずに私と天野っちに言って、
「あ」
パタン、と無情にドアを閉めてしまった。
「…………」
「…………」
私と天野っち、一瞬顔を見合わせた後、速攻で揃ってドアに耳をつける。
……が、何も聞こえない……。
辛抱強く5分ほど待ち続けた後、
「慶、5分たったよ」
「んー……起きる。起きる。起きる」
普通の会話が聞こえてきた。くそーっと思った次の瞬間だった!
「……んんっ」
「慶……気持ちいい?」
(?!)
天野っちも目を瞠ってる。こ、これは?!
「ん……そこ、いい」
「ここ?」
「ん……あ、んんっ」
うそうそうそうそ!! ちょ、ちょっと!!
浩介さんの嘘つき! うちではしないっていったじゃん!
あ、いや、違う。嘘つき結構! してくれ! おおいにしてくれ!
つか、見せてくれー!!
「………」
「………」
天野っちと顔を見合わせコクコク肯き合うと、2人でドアノブに手をかけ、そーっと扉を開いた……。
……が。
「………何やってるの?」
そこで私達の目に入ってきたのは……ベッドの上にうつぶせになってるお兄ちゃん。その足元でお兄ちゃんの足を持っている浩介さん……。
浩介さんは私達にニッコリと笑いかけると、
「足つぼマッサージ。頭がシャキッとするよ? こことか……」
「うおおおおっそこは痛いっギブギブっ」
「あーここねえ、胃腸が弱ってるってことだよ?」
「胃腸ー?」
「………」
「………」
ですよね……そうですよね……そういうオチですよね……。
くそーーーっ期待させるだけさせておいてーーー!!
ってか、浩介さんわざとじゃないの!? わざとでしょ?! 絶対そう!!
ジトーッと睨みつけると、浩介さんは再びニッコリとして、
「南ちゃんもする?」
「………結構です」
そのニッコリに確信した。やっぱりわざとだ!! からかわれた!!!
「くそー……」
天野っちと顔を見合わせ肯き合う。そのうち絶対にのぞき見てやるっ。
決意を新たに、私達は拳を握りしめたのであった。
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お読みくださりありがとうございました!
「南ちゃん目線の話を」との嬉しいお言葉をいただき、書かせていただきました。
南ちゃん主人公だと何も考えずサクサク話が進む進む……
南が高校生ということは、まだ90年前半。「BL」という言葉も「腐女子」という言葉もなかった時代でございます。
あ、ちなみに南も天野っちも推薦で短大に進学するため、ガツガツ受験勉強とかはしてません。
そして現在は二人とも結婚して子供もいますが、あいかわらず腐っております。
そんな感じで。アホなお話失礼いたしましたっ。
次回は、バスケ部で一緒だった上岡武史が出てくるお話をお送りします。どうぞよろしくお願いいたします。
更新していないのにも関わらず、見に来てくださった方、クリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます!
亀更新続きますが、よろしければお見捨てなきよう今後ともよろしくお願いいたします。
本当に本当にありがとうございました!
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