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風のゆくえには~現実的な話をします 11-1

2017年04月14日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2017年2月8日(水)


 今日は息子の通う学校で『二分の一成人式』が行われる。

 二分の一成人式とは、ここ数年で一般的になってきた小学校行事で、小学校4年生の子供達が、10才の誓いを述べる式である。半成人式、10才式、ともいう。

 この学校では、音楽チームと運動チームに分かれての発表(陽太は運動チームらしい)、将来の夢の発表、全体合唱、というプログラムで行われるそうだ。一昨年までは、式に出席した保護者に子供が直接手紙やプレゼントを渡すというプログラムもあったそうだけれども、保護者が来られない児童への配慮から、それは中止になったそうだ。


「お母さん、これ」

 一週間前、招待状、と書かれた手作りのカードを渡された。招待できる保護者は2名まで。以前、一族揃って出席して大騒ぎした保護者がいたそうで、それ以来、人数規制されたらしい。来られない家庭もあれば、来すぎて迷惑をかける家庭もある……世の中色々だ。

 陽太は、ぶっきらぼうに差し出しながらも、

「水曜日だけど、仕事大丈夫?」
「もちろん。前から予定空けてあるよ」

 うなずくと、ちょっと笑顔になった。
 こういうところが、かっこつけててもまだまだ子供でかわいいな、と思う。……と、

「あと一人は、溝部でよろしく」
「は!?」 

 続いた言葉にそんなほんわりした思いも吹き飛んだ。

「なんで溝部!?」
「来たいって言ってたから」
「…………」

 溝部……余計なことを……。
 ため息を隠しながら陽太に告げる。

「溝部は家族でもなんでもないからダメでしょ。お母さんはおばあちゃん誘うつもりだったんだけど?」

 それとも、お父さん誘う?
 聞くと、陽太はふっと小さく笑った。

「おばあちゃんもお父さんも、別に来たくないだろ」
「そんなこと……」

 詰まってしまう。陽太、そんな風に思ってるんだ……。孫に、子供に、そう思わせてしまう母も元夫も最悪だ。でも、陽太は何でもないことのように続けた。

「だったら来たいって騒いでた溝部が来た方がいいじゃん?」
「…………」

 そう言われると………

「それに、先生に聞いたら、別に家族じゃなくてもいいって言ってたよ」
「え!? 先生になんて言って聞いたのよ!?」

 慌てた私に、陽太はニヤリと、

「野球のコーチよんでもいいかって」
「コーチ……?」
「オレ、『プロ野球選手になります』って言うから、それ聞かせたいって言ったら、『いいんじゃなーい?』ってかーるくオッケーくれたよ。でもお母さんがいいって言ったら、だってさ」
「…………なるほど」

 誰に似たんだ。この口の上手さ。って、父親に似たんだろうな……。

「でもさあ、溝部、今、仕事忙しいんだよな? 全然ゲームできないって書いてあった」
「書いてあった?何に?」
「フレンドのコメントのとこ」
「?」

 なんだろうそれ……。っていうか、君たち「フレンド」なの? とか諸々聞きたい気もするけれども、面倒なのでやめた。

 確かに、溝部はここ数日、仕事が鬼のように忙しいらしい。それなのに、一日一回は必ずラインをしてくるマメさは尊敬に値する……。


 こうして、本番当日を迎えたわけだけれども……

「よー、なんか久しぶり」
「うん。久しぶり……」

 溝部、疲れた顔してるな……

 仕事はまだまだ忙しいらしく、今日も「具合が悪いから病院に行ってくる」と言って、抜け出してきたそうだ。

(あの人はそんなこと一度もしてくれたことない……)

 父親なのに。
 別に、会社をサボってほしかったわけではない。ただ、もう少し、陽太に関心を持ってほしかった。

 少しボーッとしている溝部を見返す。

(父親でもないのに、こんな疲れきった顔しながらでも来てくれるなんて……)

 ちょっと嬉しい……、かもしれない。


 体育館入り口で、持参したスリッパを渡す。

「これ履いて。靴はこのビニール袋に入れて?」
「おお、サンキュー………、あ、何それ。お前のやつ、なんかかわいい。……ってか、お母さん達、みんなそういうの履いてるな……」

 かかと付きの携帯用スリッパのことだ。私の履いているものは、幼稚園の役員をやったときに、クラスの保護者の方々から「役員お疲れ様でした」とプレゼントしていただいたものなので、自分では絶対に買わないであろう、リボンのついた可愛らしい仕様になっている。

「ああ、室内履きだよ」
「いいなあ。歩きやすそう。オレもそういうの欲しい」
「欲しいって、もう履く機会ないでしょ」
「あるだろ。授業参観とか学芸会とか。卒業式は2年後だしな」
「はあ?なんであんたがくるのよ?今日は陽太が……、あ」

 いいかけて、今日はこちらがお願いして来てもらってる、ということに気がつき、言葉を止める。

「あー……、今日はお忙しい中、来てくださりありがとうございます……」
「なんだよそれ」

 溝部は小さく笑うと、体育館の中を見渡し「よし」とうなずいた。

「お前、前の方座っていいぞ。オレ一番後ろ座るから」

 体育館の真ん中にパイプ椅子が並んでいる。4年生約120人の保護者(2人しか招待できないので、最大240人だ)しかいないので、席取り合戦にはなっていない。

「なんで一番後ろ?」
「前だと引きの絵がとれないからな。この並びなら、一番後ろで立ちで撮るのがベストとみた。望遠きくから、この距離なら大丈夫だ」

 溝部、真剣そのものだ。

『今までさんざん、友達の結婚式で流すビデオとか、結婚式当日のビデオ撮ってきたからな』

 だからビデオは任せておけ、とお誘いのラインの返事でも書いてくれていた。

「お前は近くで見とけ」
「うん……ありがとう」

 溝部はさっさと後ろの席に行くと、3脚を立てている数人の男性陣と何か話しながら、同じように3脚を立てはじめた。

(馴染んでる……)

 そうしていると、親バカな父親の1人にしか見えない。



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お読みくださりありがとうございました!
終わらなかった……終わらないので諦めて、キリの良さそうなところまで載せさせていただきます。
次に書くことになるであろうシーンが、この物語の中で一番はじめに見えたシーンだったので、ちゃんと書きたいなーと思っていたら………(っていいながらも、そこのシーンまでも行きつけていないのですが^^;)

ひたすら真面目な話にも関わらず、クリックしてくださる方読んでくださる方には本当に感謝感謝感謝でございます。
次回は4月18日火曜日、よろしければ、どうぞお願いいたします!

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コメント (6)
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