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風のゆくえには~現実的な話をします 9 +おまけはBL

2017年04月07日 18時40分11秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【溝部視点】


2017年1月9日(月)


 昨日からの雨で、少年野球の練習が中止になったという陽太と鈴木を連れて、渋谷と桜井のマンションに遊びにいった。
 いや、遊びではない。陽太が作文の宿題をみてもらいたい、というので、現役教師である桜井にみてもらいにきたのだ。おれはあいにく理系頭なので、文才はない。そして、母親である鈴木はライターという文章のプロなんだけれども……

「本職の鈴木さんを差し置いて、おれなんかがみていいの?」

 桜井のもっともな質問に「いいんだよ」と手を振ってみせる。

「先生に、親には当日まで見せちゃダメって言われてるんだってさ」
「あ、そうなんだ」

「二分の一成人式ってやつで冊子にして配るらしい」
「ああ……二分の一成人式か……」

 なぜか桜井は、ふっと遠い目をして……、それからすっと陽太に目を合わせた。

「陽太君。半成人、おめでとう」

 そう言って陽太に笑いかけた桜井の顔は、おれ達に見せる天然桜井からはかけ離れた、『先生』の顔をしていた。


***


 いつもは開けっ放しにしている仕切りをピッタリ閉めきって、リビング続きの洋間にこもってしまった陽太と桜井。
 残されたオレと鈴木と渋谷の3人で、ダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら終わるのを待つことにした。

「お前、二分の一成人式って知ってた?」
「知ってる」

 渋谷は軽く肯きながら、鈴木が持ってきたクッキーをボリボリ食べている。

「でも、一般的になったのって最近だよな? 姉貴の娘……今度24歳だったかな……の時は無かった気がする。妹の娘の時はあったんだけど」
「妹の娘っていくつ?」
「高1」
「うわ、現役JK? かわいい?」
「まあ……あ、正月に撮った写真あるけど見るか?」
「見る見る……おおっ」

 渋谷が差し出してきたスマホをみて歓声をあげてしまう。なんだこの文化系メガネ女子!激カワ!
 つーか、写ってる女子みんな、顔面偏差値やたら高いんですけど!! それに……

「なんか渋谷の家、女子率高くね?」
「あ、ホントだね」

 横からのぞきこんでいた鈴木もうんうん肯く。

「お姉さんと妹さんがいて、その子供も娘さんで……」
「あーそうだな。えーと、これが姉貴で、その娘の桜ちゃん。と、その娘の葵ちゃん」
「孫?!うわすげー若いバアちゃんだな」
「まあな……、で、こっちが妹。その娘の西子ちゃん。それから息子の守君」
「………え?」

 息子? 写っている男はどうみてもアラサーってところなんだけど……

 オレと鈴木がキョトンとしていることに気が付いた渋谷が、「ああ」と言葉を継いだ。

「妹の旦那の連れ子」
「あ、そうなんだ……」

 だよな……どう考えても計算が合わない。

「仲良いんだね。いまだに実家にくるってすごくない?」
「ああ、結婚した時はもう中学生だったんだけど、うちの親にもすぐなついてくれて、ちょくちょく遊びにきてたらしくて。おれも大学の途中から全然家帰ってなかったから、親的には嬉しかったみたい」
「へえ………」
「この日も仕事終わりに寄ってくれて、妹たち連れて帰ってくれて……」
「………」

 うわ、これ、いい話聞いた。というか、聞かせた!

 ほら、鈴木、聞いたか? 連れ子再婚でもうまくやってるって!

 って、言いたいところを、ぐっと我慢する。また何か投げられたりしたらたまらない。

 うずうずしながら横目で鈴木を見ていたら、鈴木が大きくため息をついた。

「家族って、色々な形があるよね……」
「………?」

 なんだ? そんな……

「鈴木……?」
「ちょっと休憩~~~」

 突然、仕切りがガラッと開き、桜井が陽太と一緒に部屋から出てきた。

「しばらく文章寝かせる~~」
「ありがとね、桜井君。陽太、どう? 書けた?」
「うん」

 コックリとうなずく陽太。手応えあり、という顔をしている。

「気晴らしに散歩でも行く? と思って」
「おお、いいな」
「ケーキ屋さん行こうよ。ほらあの……」
「ああ、あそこな。あのチーズケーキがおいしいところだろ?」
「そうそう」

 桜井と渋谷が二人で盛り上がって、行き先が決定した。なんでも二人が時々行くおいしいケーキ屋があるらしい。

 来る度に思うけれど、洒落た家の建ち並んだ道に、街路樹やベンチが整備されていて、なんだかおしゃれな街だ。

 雨上がりの匂いの中、5人で歩いていたのだけれども、渋谷と桜井が気を使ってくれたのか、陽太を連れてどんどんどんどん先を歩いてくれて、必然的におれと鈴木が並んであるくことになり……。でも、嬉しいとかテンション上がるとか、そういう気分にはなれなかった。

(さっきのあの顔……)

 その抱えているもの……その一端だけでもオレに支えさせてくれないだろうか。

(あの時と同じだ……)

 高校の後夜祭……一人で涙を流していた鈴木……

「あのさあ」
「え!?」

 ふいに声をかけられ、必要以上にビックリしてしまう。

「な、なんだ!?」
「………………」

 なにそんなビックリしてんの……と小さく言ってから、鈴木が続けた。

「溝部ってなんで結婚してないの?」
「は?」

 それをお前が言うか? という言葉は押しとどめて、適当に言葉を濁そうとしたのだけれども……

「私のせいだって、桜井君が言ってたけどホント?」
「!!」

 ズバリ言われてギョッとする。さくらいー!!

「あの、それは……っ」
「詳しいことは教えてもらえなかったんだけど………どういうこと?」
「……………」

 どういうこともこういうことも………

 先を歩く陽太のはしゃいだ声を聞きながら、しばらく無言で歩いていたのだけれども……

「呪縛だよ。呪縛」

 心を決めて告白する。

「鈴木呪縛」
「呪縛……? なにそれ……」

 当然きょとんとした鈴木に苦笑気味に続ける。

「オレさあ、どんな女の子のことも、どうしても鈴木と比べちゃってさあ……」
「……え」

「別に鈴木の方がいいとか悪いとかじゃなくてさ。単純に、ここが鈴木と違う。ここは同じ。みたいに」
「なに……それ」
「ほんと、なにそれ、だろ?」

 自分で言ってておかしくなる。

「学生の時に付き合ってた彼女にさ、『誰と比べてんの? 最低!』ってグーで殴られて、本格的にそのことに気が付いたんだけど……」
「え………」
「それからは出来る限りそういうことないようにしてきたんだけど……やっぱ分かるもんなのかなあ。なんなのかな。長続きしないんだよ、オレ」
「…………」
「最長で2年。それも最後の方はグダグダだったし」
「…………そんなの」

 鈴木は戸惑ったように首を振った。

「そんな、長続きしないのは私のせいじゃないでしょ……」
「いや、お前のせいだな」
「なんでよっ自分のせいでしょっ」
「いーや、お前のせいだ」
「はあ? バカじゃないの?」
「…………」

 ああ、これだなあ。と思う。これぞ本家本元。打てば響く子はいくらでもいるんだけど、鈴木みたいにオレの心臓のあたりにサクッサクッと響きをくれる子なんて今まで一人もいなかった。

 だから……

「だからお前、責任とってオレと結婚しろ」

 そうすれば全部解決だ。

 そう言ってから、攻撃に備えてぐっと身を構えたのだけれども………

「……鈴木?」

 一向に何もしてくる気配がないので、振り返った。すると……

「…………バカじゃないの?」

 鈴木は、怒るような、泣くような顔をして……笑っていた。




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お読みくださりありがとうございました!
大遅刻、大変失礼いたしました。もう夕方ですらないっ。

続きまして今日のオマケ☆
(実はオマケは先に書き終わっていたのでしたっ)

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☆今日のオマケ・浩介視点


 今は多くの小学校で『二分の一成人式』というものを行っている。

 数年前、その話をはじめて聞いたときには「今の時代に生まれなくて良かった」とつくづく思った。

 生まれてから10歳までの自分史を作ったり、両親への感謝の手紙を読んだり……想像するだけで、気を失いそうだ……

 10歳の時の自分……
 父に対してはひたすら恐怖心しかなかった。母の束縛から逃れることもできず、毎日毎日母と共に勉強机に向かっていた。学校にも馴染めず、家にも安らげる居場所はなく、唯一、本の世界だけが逃避場所だった。

 今でこそ、慶と、心療内科医の戸田先生のおかげで、両親に会っても平常心でいられるようになったけれど、何かの拍子に恐怖心や拒絶感が復活してしまうことがある。

(………まずいな)

 昼間に『二分の一成人式』の話をしたせいだろうか。子供の頃の記憶に脳が支配されはじめている……。

 おれはおそらく、人よりも記憶力がいい。みんなが漠然としか覚えていない昔のことも、かなり詳細に覚えていることがある。それは、嫌な記憶であるほど鮮明だ。思い出してしまうと、感覚までその頃に戻ってしまう。

(慶…………)

 そんなとき、おれはひたすら、慶のことを思い出す。慶の笑顔、慶の温もり、慶の声。嫌な記憶を全部慶で埋めつくす。慶の指、慶の腰、慶の背中、慶の……


「………どうした?」
「!」

 いつの間にお風呂から出ていた慶が、ベッドに腰掛けたおれをフワリと抱きしめてくれた。

(慶の……匂い)

 きゅうううっと胸が締めつけられる。

「慶………」

 おれの様子がおかしいことに気がついてくれてる……。できれば知られたくないのに、慶は昔から、こういうとき必ず気がついて、黙って抱きしめてくれるのだ。

(10歳のおれは、こんな愛、知らなかった)

 おれの全部を包み込んでくれる深い愛……
 慶の細い腰に手を回し、その胸に頬を押しつける。


 慶のおれに対する愛情の根本は『保護欲』なのだと、戸田先生が言っていた。孤独な深淵にいたおれだからこそ、慶の保護欲をかきたてたのだと。あの子供のころの日々も、慶に愛されるためだったのだと思えば、意味のあるものだと思える。


「慶……おれ、今、すごい幸せ」
「………そうか」

 そのまま気持ちの良い手が頭を撫で続けてくれる。慶の手。温かい、手……。

「慶は、10歳の頃、何になりたかった?」
「んー……なんだろうなあ? 4年だともうミニバスのチーム入ってたから、バスケットボール選手とかかなあ?」
「そっかあ……」

 おれは「弁護士」と書かされただろう。父の跡取りになることが母の願いだったから……。

 どんな親であれ、生んでくれたこと、育ててくれたことには感謝しなくてはならない、とよく聞くけれど、あの頃のおれに言わせれば「生んでくれと頼んだ覚えはない」というやつだった。生きている意味も分からなかった。ただ、親の期待に応えて弁護士になることだけが与えられた義務だった。でも……

(今なら、感謝できる)

 おかげで慶に出会えた。今、愛しいこの人と共に生きている。おれの幸せ。おれのすべて。


「七五三があって、次が10歳の半成人式、で、ハタチの成人式」

 慶が「うーん」と言いながら言葉を継いだ。

「そのあとって、還暦のちゃんちゃんこまで何もないんだよなあ」
「ちゃ……っ」

 ちゃんちゃんこ?!

「今時それ着てちゃんとお祝いする人っているのかなあ?」
「え、うちの親やったぞ? 写真館で写真撮った」
「え?!」

 し、知らない……っ
 素早く計算してみて、それがちょうど、おれが慶を置いて日本を離れていた3年間の間の話だと推察され、複雑な気持ちになってくる。あの3年も、今なら必要なことだったのだ、と思えるけれども、それでもやっぱり離れたくはなかった……

「あ、そっか。お前だけ日本にいなかった時か」
「う……」
「今度実家いったとき写真見せてやるよ。笑えるから」
「うん……」

 慶の言葉に再びギューッとくっつく。

 もう、離れない。絶対に離れない。


「おれたちも還暦の時は写真撮ろう?」
「ちゃんちゃんこは着ねえぞ?」
「さすがにそれはねー……。赤のネクタイとかかな」
「まー着ても赤のセーターくらいだな」
「慶は赤も似合うからいいね」

 ちゅっとキスをして、二人でベッドにもぐりこむ。

「ずっと一緒にいようね?」
 こつんとおでこを合わせると、慶は少し笑った。

「なに当たり前のこと今さら言ってんだ?」
「だって……」

「いいからもう寝るぞ? 明日仕事」
「うん……」

 手を繋いで、最後にもう一度唇をあわせる。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 いつもの夜。昨日も同じだった。明日も同じだろう。

 10歳のおれが想像もしなかった、幸せな夜。このままずっと続く幸せな夜。そして、幸せな朝を迎える。

 

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お読みくださりありがとうございました!
って、暗!! でも、一度書いておきたかった浩介さんの現状話でございました。

慶の両親はわりとノリがいいので、二人でお揃いのちゃんちゃんこ着て写真撮りました。
その写真、撮ったばかりのころはリビングに飾っていましたが、もう10年とか前の写真なので、今はしまってあります。だから、浩介は見たことがない、というわけでした。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分頃に更新する予定です(予定……今日は大変失礼いたしました……)。
次回は4月11日火曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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