すみません。再録です。
2017年3月10日投稿「現実的な話をします2」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます
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☆「高校同級生・溝部実家でのバーベキュー大会で、溝部君、片思い中の鈴木さんの息子と仲良くなりました」の後のお話。浩介視点
バーベキューから帰ってきてから、腹ごなしのために二人でスポーツクラブに行った。
4キロ泳ぐ慶には付き合っていられないので、おれはいつものように一人でユルユルと水中ウォーキングをして、マッサージプール、サウナ、ジャグジー……と転々としていたんだけど……ジャグジーの中で、はしゃいだ女性たちの声が聞こえてきた。
「みてみて! 今日、王子いる~ラッキー!」
「あ~今日もかっこいい~~」
「やった!こっちくるよ!」
………。
日に日に渋谷慶王子ファン増えてるような……
「こんばんは~♥」
「こんばんは~~♥」
その30代くらいの女性たちに♥つきで挨拶された慶。水泳帽を脱ぎながら、「こんばんは」とにっこり返していて……
(あーもー、どんだけかっこいいんだ……)
毎日見ているおれでさえ赤面してしまうイケメンっぷりに、女性二人もきゃあ♥と声をあげてしまっていて……
(いや、気持ちはわかる。わかるよ! この顔!この体!抱かれたい!とか思うでしょ~?)
ふっと笑ってしまう。
(まあ、残念ながら、この人、おれだけのものだけどね。しかもおれが抱いてるんだけどね……)
ふっふっふっ……と笑いを押さえきれず、ジャグジーの水の中に口元まで沈んでいたところ、
「お前、何やってんの?」
「…………」
ご本人様が、一人分のスペースを空けておれの横に座った。さっきの女性二人も、少し離れたところにいるため、念のため「友達」の距離を保っているのだろう。
「何ニヤニヤしてんだよ?」
「えーっと……」
本当のことを言ったら恐ろしいことが起こるので、無難な返事をしておく。
「いやー、今日、溝部、頑張ってたなーと思って」
「だなー。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』ってのミエミエだったけどな」
「まあねえ。雨のおかげで陽太君もはじめからこられて良かったよね」
「すっかり仲良くなってたよな」
溝部があんなに用意周到な奴だとはちょっと意外だった。前もって小松さんから陽太君の情報を聞き出していて、今日はグローブと携帯ゲーム機まで用意していて……。まあ、溝部は元々、本当に野球もゲームも好きなので、苦はなかったようだけど……
「いやー、でも鈴木的にはどうだったんだろうなあ?」
「来たときと何も変わらず帰っていったよね……」
「なあ……」
うーん……と二人で唸ってしまう。
「大変だよなあ。これから恋愛って……」
「だよねえ……」
以前にもしたことのある会話だ。この歳になってからはじめる恋愛は大変だって。
「おれ、ほんとに無理って思った」
慶はしみじみ、といった感じに呟いた。
「高校時代、頑張っておいて良かった」
「!」
ちょん、と腿のあたりにくすぐったい感触。慶の足の指……。パッと横を見ると、慶が照れたようにうつむいていて………
(うわ、かわいい……っ)
抱きしめたい……っっ
と、思ったら、バサッと慶が立ち上がった。
「じゃ、おれ、もうちょっと泳いでくる」
「う、うん……」
か、顔のニヤケがおさまらない……
慶の完璧な後ろ姿を見送りながら、再度ブクブクと水中に沈む……
「あ、王子行っちゃった」
「あの人、王子の知り合いなのかな?」
「ちょっと話しかけてみる?」
こそこそと話している女性二人の声が聞こえてきて、
(……面倒だな)
話しかけられる前にジャグジーを出た。
まあ、おれに何を聞いたところで、残念ながら、王子とその先には進めないけどね。
だって、王子はおれしかみてないから。おれだけの王子だから。
「…………あ」
水中ウォーキングのレーンに入ろうとしたところ、コースの折り返しにいた慶が即座におれに気がついて、ニッと口の端をあげた。
ほら、やっぱりおれしか見てない。
慶は昔からそうだ。おれがどこにいても、すぐに探しだしてくれる。
綺麗なフォームで泳ぐ慶を横目で見ながら、ゆっくりと水中を歩く。
この人はおれのもの。おれだけのもの。そんな幸せな気持ちに包まれながら。
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お読みくださりありがとうございました!
慶にはレーダーついてます。浩介探知機。
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