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再録・(BL小説)風のゆくえには~バレンタインの夜に

2017年08月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

すみません。再録です。
2017年4月21日投稿「現実的な話をします12」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



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桜井浩介&渋谷慶カップルの、高校の同級生である溝部視点です。
溝部はこの時、同級生の鈴木さんに猛烈アタック中です。


【溝部視点】


 バレンタインの夜……
 鈴木は仕事だというので、昨年同様、渋谷と桜井のマンションに遊びにいったのだけれども……

「いらっしゃーい」
「……お?」

 盛大に嫌な顔をした昨年とは違い、ニコニコの桜井が出迎えてくれた。

「もうすぐご飯できるからちょっと待ってねー」
「おおお?」

 なんだなんだ?

「なんだよ、去年と全然違うじゃねえかよ。去年はいつ帰るんだ、とか言ってたのに」
「まーねー」

 笑顔でテーブルセッティングをしている桜井……ちゃんと3人分だ……

「あ、分かった。倦怠期だな? 二人きりじゃなくてもって……」
「ぶぶー。違いまーす」

 桜井は、あはは、と軽く笑うと、

「今年は、溝部がくるかもしれないからって、昼過ぎからさっきまで思う存分ずーっとイチャイチャしてたんでーす」
「………。なんだよそれ」

 さすがバカップル……

「昼過ぎからって、お前ら、仕事は?」
「慶は定休日。おれは早退~~」
「は? 早退? バレンタインだから?」
「そうそう」
「…………」

 ホントにバカだ。さすがのオレも仕事は休まねえぞ……

「……で? 渋谷は?」
「今、ワイン買いにいってくれてる。やっぱり魚料理には白だって言ってさ」
「ふーん……」

 キッチンに戻り作業をしている桜井の後ろの冷蔵庫を勝手に開けて、水を取りだす。もう、何度も来ているので、勝手知ったるなんとやら、というやつだ。

「あいかわらずのバカップルっぷりだな、お前ら」
「えーそうかなー」

 えへへへへ、と嬉しそうに笑う桜井。別に褒めてねえぞ……

「高2の冬から付き合ってんだよな? 危機とかなかったのか?」
「危機?」
「浮気とか」
「あはははは。まさかあ。ありえなーい。絶対ありえなーい」
「…………」

 軽ーく受け流す桜井……何かムカつく……

「一回も? 何も? 浮気じゃないにしても、破局の危機は?」
「うーん……あったといえばあったときもあったけど……」
「え? 何何何?」

 食いついてやると、桜井は少しだけ首を振り、ポツリといった。

「まあ……全部おれのせい。ほら、おれ、ちょっと変だから」
「…………」

 普通だったら「何言ってんだよ」と言うところだけれども、桜井は心療内科に通院していたと聞いている。おそらくそこらへんの話なのだろう。だから迂闊なことは言えない……

「でも、慶はそんなおれのこともずっと見捨てないでくれたんだよね……」
「………ふーん」

 四半世紀を一緒に過ごすってどんな感じなんだろう。四半世紀もずっと思いあって過ごすって……

「……うらやましい」
「え?」
「え? あ。いや」

 思わず本音がこぼれてしまった。いや正直、めちゃめちゃ羨ましい……。なんなんだこいつら……

「確か、お前らって、渋谷が桜井に一年以上片想いしてた……とか言ってたよな?」
「うん。そうらしいんだよねー。全然気が付かなかったんだけど」
「まあなあ……」

 手早くレタスを洗っている桜井の横顔を見ていたら昔のことを少し思い出してきた。
 二人セットみたいにいつも一緒に行動していた渋谷と桜井。でも桜井はバスケ部で……

「あ」
 急に頭をよぎった光景。高2のとき……

「お前、女バスの先輩と付き合ってなかったっけ? 一緒に帰ったりしてたよな?」
「は?! つ、付き合ってないよっ」

 分かりやすく動揺した桜井。ふーん……付き合ってないまでも、何かしらはあったっぽい……

「その話、慶の前でしないでよ?!」
「…………」
「絶対絶対しないでよ?!」

 すごい動揺っぷりだ。へえ……面白いこと思い出したなオレ。

「ホントにホントにしないでよ!」
「………」
「ねー溝部っ」
「わあったわあった。しねえよ」

 両手をあげてみせると、桜井は「あー、もう、変なこと思い出して……」とブツブツブツブツいいながら、作業に戻った。

「なんでそんな動揺してんだよ? やっぱ付き合ってたのか?」
「だから付き合ってないって」
「だったらなんで……」
「慶ってすごい嫉妬深いんだよ」

 桜井、口がへの字になっている。

「その先輩のこともいまだに大っ嫌いで、彼女の話題が出るだけで途端に機嫌が悪くなるから恐いんだよ」
「へえ……」

「先輩、すごく良い人なのにさ……」
「…………」

 良い人でも、渋谷にとっては、桜井と何かしらあったらしいその先輩は、どうやっても悪い人、なんだろう。気持ちは分かる……

「そうやってお前が『良い人』とか思ってるから、余計ムカつくんだろうな」
「う………そっか……」

 桜井は心臓のあたりを押さえると、コクコク肯いた。

「気を付けます。ありがとう……。さすが恋愛経験豊富な人は違うね……」
「え、あ、まあ……」

 言うほど豊富ではないけれど、こいつらよりは経験値が高いのは確かだ。ちょっといい気分になって言葉を継ぐ。

「まあ、その嫉妬も、愛されてる証拠っつーことだけどな」
「え? あ、まあ……、うん……」

 えへへ、と笑う桜井。………。やっぱり微妙にムカつく。

「さー、じゃあ、口止め料は何にしようかなあ」
「え?! 口止め料?!」
「お。渋谷帰ってきた」

 ガチャガチャと玄関が開く音がする。

「えええ、ちょっと、溝部っ」
「じゃー、その魚、この一番デカイやつオレな?」
「えー……」

 慶にあげようと思ってたのにー……とブツブツいいながらも、桜井が肯いたところで、

「ただいまー」
 渋谷が入ってきた。あいかわらずのキラキラ王子。

「お帰りなさーい! ありがとう! ご飯もう出来るよっ」
 すっ飛んでいって出迎える桜井。

 ああ、いいなあ……と思う。

 四半世紀たっても一緒にいて。色々あったらしいけど一緒にいて。
 そして、まだまだ嫉妬したりされたりするくらい想い合っていて。
 そして、こうして「ただいま」「おかえり」と言い合えて。

(オレも………)
 同じ教室にいた、オレと鈴木にも、そんな日が来てくれないだろうか……



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お読みくださりありがとうございました!

ちなみに
昨年のバレンタインはこちら → 『~26回目のバレンタイン1/3・2/3・3/3』
今年のバレンタインはこちら → 『秘密のショコラ前編後編おまけ』

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