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BL小説・風のゆくえには~あと2回

2017年08月10日 21時35分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

2017年8月10日

「たまにはちゃんとトレーニングをしろ」

と、慶がうるさく言うので、普段スポーツクラブでは、プールのウォーキングコースとジャグジーとサウナしか利用しないおれが、久しぶりにマシンジムのコーナーに行ったのが間違いだった………

「もう限界、と思ったら、そこからあと2回ってトレーナーさんが言ってたぞ」
「な………にそれっ。限界だから限界なんでしょっ」

 何やら腹筋だか背筋だかを鍛えるマシンをやらされたはいいけれど、慶が面白がって、おれにあーだこーだと言ってくるのが迷惑極まりないっ。

「もう……っ無理………っ」
「なんだよ、だらしねえねなあ」

 全身プルプルになりながらマシンから降りると、慶はケケケと笑いながら、そのマシンに乗り、なんの苦もなく動かしはじめた。

「うわー………信じられない………」
「だから積み重ねだって。おれだって最初はできなかった」
「ふーん………」

 黙々と続ける慶………うっすらと汗をかいていて色っぽい………
 休日前の夜のせいか今日は妙に空いている。周りに人がいないのをいいことに、その姿を堪能していたら、急に思い出した。

『スポーツジムにハマる人って、マゾの人が多いんじゃないかって綾さんに言われた』

 おれの大学時代からの友人・あかねの言葉だ。あかねも慶同様、若い頃からスポーツジムに通っている。

 綾さんというのはあかねの恋人で、小柄で清楚な見た目に反して結構手厳しい人なんだけど、あかねは彼女のそんなところがたまらない、らしい。怒られて喜ぶなんて、あかねは正真正銘のマゾだ………

 でも確かに、わざわざジムに行って、自分の体をとことん追い詰めるなんて、マゾヒストだよなあと思う。あかねも。うちの慶さんも。

 色気だだ漏れの慶さん、自分のノルマの回数が終わると、マシンから下りて、おれを見上げて言った。

「プール、行くか?」
「うん!」

 助かった!と思って勢いよくうなずくと、

「……即答かよ」

 慶は苦笑しておれの腕を軽く叩いてから、上に行く階段に向かっていった。ああ、良かった……もうマシンの階は懲り懲りだ………

「あ!王子!」
「ホントだ!」

 こそこそした女性達の声が上から聞こえてくる。慶はこのスポーツクラブでは陰で「王子」と呼ばれているのだ。でも、本人は全然気がついていない。

「こんばんは~♥」
「こんばんは♥♥」
「こんばんは♥♥」

 スレ違いざまに「♥」つきで挨拶されても、あっさりにっこり「こんばんは」と返事している慶。

「きゃ♥」
「きゃ♥」
「きゃあ♥」

 またしても「♥」つきで笑われても、慶は何も気がつかない。そんなところも「王子」っぽい気がする。

(ほんと、かっこいいよなあ……)

 隣を歩く慶を盗み見て、あらためて惚れ惚れしてしまう。

 慶は外見も王子っぽいし、性格もリーダー気質だし、男らしいし、頼りがいがある。

 でも………。

 ふっと昔の記憶がよみがえる。

『痛く、してほしい』

って、言ってくれたことあったよなあ……。二年くらい前だったか………

 ああ、あれは美味しかった………
 いや、慶がカミングアウト問題で悩んで苦しんでいたことは本当に可哀想で申し訳ないんだけど、でも……

『痛く、してほしい。何も考えられなくなるくらい』

 あの時の慶の色っぽさといったら、さっきの比じゃなかった……。それにそそられて、慶が泣き叫ぶほど責め立てたいと思ってしまったおれは、やっぱりエス気質なんだよなあ……。それで、慶は実はエム気質なんじゃないかなって思うんだよなあ………

 あー……また言ってくれないかなあ……

「お前、何ニヤニヤしてんだよ」
「え!?」

 プールの更衣室の前で、訝しげに言われ、飛び上がってしまう。さすがにこれは言えない!!

「いやいやいやいや、何も……」
「変な奴」

 慶は肩をすくめただけで言及しないでくれたので助かった……

 ロッカールームもタイミングよく人が全然いない。更衣ブースに程近いロッカーに揃って荷物を入れる。

「お前も歩いてばっかじゃなくて、たまには泳げよ。全然泳げないわけじゃないんだから」
「えー……」

 おれの運動不足を気にしてくれてるのは有り難いけど、でも……

「25メートル泳ぎきれない……」
「途中で立てばいいだろ」
「えーやだよー」
「じゃ、泳ぎきれ」

 水着の入った袋だけ持って、慶がピッと指さしてくる。

「お前、前に泳いだ時、立っちゃったの、残り数メートルのところだったぞ?」
「えー……」
「さっきも言っただろ。もう限界って思ったところからあと2回って。もう限界って思ったところからあと数メートルなんだから、頑張れよ」
「えー……」
「結局、気合いだ。気合い。気合いがたんねーんだよ、お前」
「…………」

 散々な言われようだ……気合いの問題なわけがない……

(あ、でも)

 ふっと思い出した。

『もう無理………っ』
『待て……っあとちょっと……っ』

 脳内によみがえる、先週末の夜のやり取り……

 そうだ。そうだ。そうだよ……

「でもさ……慶」

 更衣コーナーに入りかけた慶の耳元に顔を寄せ、ささやく。

「おれ、いつもは、あと2回、どころじゃなく、頑張ってるでしょ?」
「は?何の話だ?」

 眉を寄せた慶に、小さく続ける。

「だってさ、してる最中に、おれが『もう無理』って言うと、慶いつも、ちょっと待て、とか、まだ、とか、あと少し、とかいうじゃん?」
「………………」
「だから、おれ、本当にもう限界だけど、ちゃんと2回以上の上下運動の刺激にも耐えて、慶がイクまで…………………、痛っ!!」

 頭突きされたっ

「あほかっ!」
「わっ」

 そして、バサッと目の前でカーテンを閉じられた。

(………あーーかわいーー)

 真っ赤な慶、ホントかわいい。
 困らせて喜ぶところは、おれ、やっぱりエス気質。でも………

「………お前もさっさと着替えろ」

 あっという間に着替えて出てきた慶に、ギロッと睨まれて嬉しくなるところは、エム気質だ。あかねのこと言えないな……

 急いで着替えて出てくると、腕組みをした慶に再び睨まれた。

「お前……おれが言ったら耐えられるっていうんなら、今日はクロール25、泳ぎきれよ?」
「えっ!?」

 いきなりの命令にのけぞってしまう。こういうところ、慶はエスっぽい。

「それで、最低でも300は泳げ」
「えええっ」

 さ、300!?

「そんなことしたら、今晩使い物にならなくなりますが……って、痛っ」

 再びの頭突きっっ容赦ないーー!

「慶~~っ」
「ほら行くぞ!」

 スタスタと先を歩く王子の後ろ姿を追いかける。あいかわらずの完璧な肢体。こんな人がおれのものだということが、叫びだしたいくらい嬉しい。

「おれは今日4キロ泳ぐからな」
「うわ~~いつもながらありえな~い」
「ありえなくない。普通だ普通」

 プールのコースは、速い人用と、ゆっくりの人用と、ウォーキング用とに分かれている。今日は空いているので、各コース数人しかいない。これならおれが途中で立っても、迷惑はかからなそうで安心する。

「お前が300泳いだら一回ジャグジー集合な?」
「ううう……泳げるかなあ」
「ゆっくりなら大丈夫だろ。まあ、無理はするなよ?」
「うん……」

 じゃ、と手を挙げた慶。やっぱりかっこいい。おれだけの慶。

「慶、夜のための体力、残しておいてよ?」

 ダメ押しで、もう一回ふざけて言うと、慶はムッとした顔をして……

「……………お前もな」
「え」

 ボソッと言った言葉に、今さらながらドキッとする。

「慶、それは……」
「さっさと行け」

 ムッとしたままの慶……相当照れてる……かわいい。

 あと2回。あと数メートル。あとちょっと。あと少し。
 あなたに言われたら何でも出来る気がするよ。

 慶の完璧なフォームを横に、おれもゆっくりと泳ぎだした。

 

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お読みくださりありがとうございました!
サイト開設が11年前、2006年8月10日21時35分だったということに先日気が付いたため、せっかくなので同日同時刻に更新してみました。
記念なはずなのに、いつものようにオチも何もない小話(^^;失礼しました~っ。
いつか書きたかったスポーツジムでの二人。
今さっきこんなこと↑が繰り広げられておりました。平日営業時間23時までなので、今頃泳いだりジャグジー入ったり~。そして二人とも明日休みなので今夜は……♥

ちなみに、『痛くしてほしい』と慶が言ったのはこちら → 短編『嫉妬と苦痛と快楽と』
2年ほど前の話です。弱気慶君、カワイイ♥

ではでは。これからちょうど一か月お休みをいただきまして。9月10日に戻ってまいります。
でも考えてみたら、私、9月8~10日いないんでした………予約投稿のセットしておきますー。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!どれだけ励まされたことか……
再開後もどうかどうぞよろしくお願いいたします!!

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今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら

コメント (2)
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