創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~グレーテ21

2018年06月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【チヒロ視点】


 真木さんと1階のエレベータホールで別れてから、再び職場の会員制バーに戻ると、環様が僕に向かって手招きしているのが目に入った。慌てて、でも静かに、サッと隣にいく。と、耳元で小さく囁かれた。

「ヒロ君、色気だだ漏れだよー? 何かあったのかなー?」
「え」

 何かって……
 ニコニコしている環様。でも、こういうことは言っちゃダメなので言わない。環様のおかげで真木さんと約束できたけど……

 と、言うのは。
 さっき、環様と一緒に食事をしていた真木さんが、急にお店を出て行ってしまって、

(真木さん、帰っちゃった……)

 仕事中なのに、真木さんのことをずっと目で追ってしまっていたら、いつの間に、環様が僕の隣にいて、

「ヒロ君、これ、さっきの私のツレに渡してきてくれる?」

と、封筒を差し出してきたのだ。

(ツレ……真木さんのことだっ)

 即座に近くにいたフロアマネージャーに目をやると、軽く肯いてくれたので、「かしこまりました」と、受け取って、サッサッサッと店から出て……、それから猛ダッシュした。

(真木さん……真木さんっ)

 曲がってすぐのエレベーター。閉まりかけてるドアの中、真木さんの姿が見えた。

(真木さんっ)

 手を伸ばして、ドアの間に手を挟んで、力任せに横に押すと、ドアが開いてくれた。途端に、ふわっと、胸が締め付けられる匂いがしてきた。真木さんの匂い……

(真木さん……っ)

 衝動的に思いっきり抱きつく。と、真木さんがビックリしたみたいに「なんで」って言いかけた。言いかけたけど、その続きは、ギュウッて抱きしめてくれることに変わった。

「チヒロ君」
「はい」

 見上げると、ふわっとオデコにキスされた。それと同時にドアが閉まった。

「会いたかったよ」

 優しい優しい声。大好きな真木さんの声。

「はい。僕も会いたかったです」
「そう………」

 エレベーターがおりていく感覚と一緒に、唇がおりてくる。

(真木さん……)

 会いたかった。ギュウッてされたかった。こうしてキスして欲しかった……、と、……え?

(何?)

 戸惑って離れそうになったところを、頭の後ろをおさえられて逃げられなくなった。

(?!)

 いつもと全然違う。いつものキスは、軽く触れるとか、啄むとか、そういう優しい優しいものだったのに。

「……んっ」

 強引にこじ開けられて、舌を絡められて、唇を吸われて……

「…………っ」

 こういうキス、他の人とはしたことあるけど、その時はこんな風にならなかった。

 体が熱い。中心が疼いて我慢できなくて、真木さんの太腿にくっつけると、真木さんが腰を抱いてくれて、ますます強く押し付けるようにしてくれて。このままじゃ僕……

 と、思ったら。

「着いたよ」
「え?」

 すっと体を離されて、よろめいてしまった。と、チンッと間が抜けた音がしてドアが開いた。

「あ……」

 エレベーターの中だって忘れてた………

 ドアの前に立っていたカップルと入れ替わりに、真木さんに支えてもらいながらエレベーターから出る。ちゃんと歩けない。腰が砕けるってこういうこと言うんだって初めて知った。

「……真木さん」

 奥の柱の陰に隠れるように立って、あらためて真木さんの名前を呼ぶ。真木さんが頭を撫でてくれる。真木さんが目の前にいる。真木さんの名前を呼べる。それが何より嬉しい……
 
「チヒロ君、それは?」
「あ、そうでした」

 環様から預かった封筒。真木さんに言われるまで手に持っていたことも忘れていた。

「環様に真木さんに渡すよう言われました」
「環さんが?なんだろう?」

 受け取った真木さんが封筒を開けたけれど……中身は空っぽだった。真木さんも眉を寄せている。

「入れ忘れでしょうか? 僕、環様に聞いて……」
「いや、いいよ」

 行きかけたけれど、腕を掴まれ止められた。

「もしかして……チヒロ君、俺のこと何か話した?」
「話してません」

 ぶんぶんと首を振る。

「職場ではプライベートなことは一切話してはいけないと言われています」
「そう……。だからさっきも俺のこと知らないっていったんだ?」
「はい」

 コクリと肯く。本当は真木さん真木さんって何回も話しかけたくなったけれど、ずっと我慢してた。
 真木さんは「そっか」とふっと笑うと、

「それじゃ、しょうがないけど……」
「?」

 言葉を止めた真木さんを見上げる。と、真木さんは、また、ふっと笑った。

「知らないふりをされて、とても悲しかったよ?」
「………」

 きゅっと胸のあたりが締めつけられる。真木さん……

「僕も……知らないふりするの、とてもつらかったです」
「そう」

 真木さんが優しく頬を撫でてくれる。

「真木さん……」
「ん?」

 真木さんの瞳……今までと変わらない。けど………今日はもう4月。恋人の約束は昨日までだ……

「もう4月なので、会えないと思ってました」
「………あー……」

 真木さんは長く「あー」と言ったあと、

「それ………、どうしよっか」
「え?」

 苦笑い、みたいな顔になった真木さん。苦笑いのまま言葉を継いだ。

「恋人、延長する?」
「え?!」

 いいんですか!?

 思わず叫んだら、真木さんは「大きい声、珍しいね」と頭を撫でてくれて、優しく言ってくれた。

「君がいいなら、延長しようかな?」
「はい!もちろんいいというか僕はずっと真木さんと恋人で…………、あ」

 言いかけて思い出した。

 僕は恋人だったのに真木さんとエッチをしたことがない。それは、3月末までの試用期間だからなのかと思っていたけど、先日真木さんに、試用期間ではないと言われた。だったらなんでしなかったのかって考えて………一つの結論にいたったのだ。

 それは、僕が痩せてるからだ、と。

 前に言われたことがある。真木さんはお菓子の家の魔女で、僕を太らせてから食べようと思ってるって。その食べるっていうのはきっとエッチするってことで。だから、さっきのキスの続きをしてもらうには……

「チヒロ君?」
「あの……」

 きょとんとした真木さんの手を掴んで、僕の腰のあたりにあててもらう。

「僕、こないだ体重計に乗ったら少しだけ太ってました」
「………え」
「前に真木さんが僕を太らせてから食べるっていってたから最近頑張ってご飯食べて……わわわ」

 脇腹をくすぐられて身をよじってしまう。

「真木さん、くすぐったいっ」
「うーん………」

 真木さんは人をくすぐっておきながら、ものすごい真面目な顔をして、ポツリといった。

「そこらへんの話も、ちゃんとしよう」
「え……」

 ちゃんと、する?

「今日、いつものホテルにいるから、仕事終わったらおいで?」
「はい。あ、でも」
「何時になってもいいよ? 待ってる」
「………」

 待ってる。待ってるって……。なんて甘い響きだろう。

「行きます。終わったらすぐに行きます」
「うん。待ってるよ」

 そしてチュッと軽いキスをしてくれた。


 真木さん。真木さん。僕の恋人。
 ずっとずっと延長してもらえるにはどうしたらいいのかな………




---


お読みくださりありがとうございました!
環様が封筒を持たせてくれた理由はまた後日………

次回、火曜日に更新予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでお休み中も書き続けることができました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「グレーテ」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする