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BL小説・風のゆくえには~新年がくる

2019年01月01日 08時27分24秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

あけましておめでとうございます。
今年も週2回(火・金)の更新を予定しています。お付き合いいただけたら嬉しいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年一発目の火曜日は、ちょうど一月一日。
ということで、連載をお休みして、本日は「風のゆくえには」シリーズ本編主人公:慶と浩介の現在のお話を短く書かせていただきます。

現在、慶と浩介は、44歳。わ~~もう44歳なんですね~~。

この二人、高校二年生の12月23日から付き合いはじめました。
それから山あり谷あり(浩介が慶を置いてアフリカに行ってしまったのは2003年のことでした……)ありましたが、現在は日本で一緒に暮らしています。
慶は小児科の医師、浩介はフリースクールの教師です。

そんな二人の現在を、浩介視点でお送りします。



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『風のゆくえには~新年がくる』



 年越し蕎麦のつゆも作った。かき揚げも、本当は揚げたてがいいけれど、慶の帰りが何時になるか分からないから、もう揚げてしまった。蕎麦はさすがに、慶が帰ってきてからゆでるようにして……

「あ、七味」

 七味唐辛子がもうすぐなくなることを忘れていた。今回の分くらいは足りる気はする。でも、なくなるかも、と気にしながら使うのは嫌だな……
 慶に連絡して「帰りに買ってきて」と頼んでもいいけれど、疲れている慶に余計なことはさせたくない。

「買ってこよっと」

 そう判断して、急いで身支度をして家を出た。
 この判断のせいで、慶を苦しめることになるなんて、思いもせずに……


**


 慶はここ数週間、すごく忙しい。
 なんでも、幼稚園生の男の子が、待合室で診察の順番を待っている間に意識を失って倒れ、急遽、慶が同行して救急車で提携先の病院に連れていって……ということがあったそうで。
 慶は、自分の病院での仕事が終わったあとに、その子が入院している病院に毎日行っている。早々に命の危険がある病気ではないけれども、治るには長く時間がかかる病気だそうで、退院後は、慶の病院で診てもらうことを、ご家族が希望しているそうだ。

 慶はここ最近、毎晩、その病気の資料を難しい顔をしながら読んでいる。英語の論文を真剣に読んでいる姿を見ていたら、

(高校生の時は、英語の長文読むの、あんなに嫌がってたのになあ……)

と、懐かしいことを思い出してしまった。人は変われば変わるものだ。そういうオレだって、あの頃はあれだけ人と接することを恐れていたのに、今は対人の職業についている。変われたのは慶のおかげだ。


 2018年12月31日。平成最後の大晦日。

 慶は朝からその男の子が入院している病院に行ってしまったため、おれは大掃除の仕上げをして(といっても、普段からわりとこまめに隅々まで掃除をしているため、年末だからといって、特別大変なことはない)、年越しそばの用意をして、七味唐辛子を買うために家をでた。せっかくスーパーにきたのだから、他に買うものないかなあ……とのんびりとあちこち見て回って、結局、七味唐辛子と慶の好きな小さなシュークリーム12個入りを一袋買って……


「あれ?」
 帰ってきたら、鍵が開いていて驚いた。電気もついている。

「慶?」
 思ったよりも早かったなあ……なんて呑気なことを思いながら、リビングに入っていって……

「……!」

 ハッとして、足を止めた。

「………………慶?」

 ダイニングテーブルとソファの間の、何もないところに、ペタンと慶が座りこんでいる。コートを着たまま、沈みこむように。電気はついているのに、慶の周りだけ暗い……

「慶………?」

 そっと声をかけると、慶はビクッとして……ゆっくりとこちらを見上げた。

「……………………浩介」
「!」

 ハッとするほど、儚げな瞳。

「慶……?」
「……………」

 とりあえず荷物をダイニングテーブルに置いて、慶の前に座って、その頬に触れる。

 と、

「浩介……っ」
「!」

 崩れ落ちるように慶がオレにしがみついてきた。何……?

「慶? どうしたの? 何かあった?」
「……………」
「慶? 大丈……」
「電話」
「え?」

 電話?

「お前、電話でなかった」
「あ」

 電話……忘れてた。カバンの中に入れっぱなしだ。

「ごめんね、電話くれてた? 買い物行ってて気がつかなかった」
「……………」
「七味が切れそうだったから買いに行ってたんだよ。あと、シュークリーム買ったよ? ほら、慶の好きな小さいシュークリーム」
「……………」
「……………」
「……………」

 慶は黙ったままだ。
 なんだろう? 様子がおかしい……

「慶?」
「………………うん」

 おれの腕の中、慶が大きく息を吸って吐いて……を繰り返してる。

 どうしたんだろう。病院で何かあったんだろうか。

「何かあった? まさか例の男の子に何か……」
「……いや、調子良いから、正月は一時退院できことになった」
「そう」

 ホッとする。昔、担当の患者さんが亡くなった時に、こうしてギュッとしてきたことを思い出したからだ。あの慶は本当に辛そうだった……

 でも、今も辛そうだ。どうしたんだろう……

「………慶」
「………うん」
「……………」
「……………」

 とりあえず、コートとジャケットを脱がす。オレもコートを脱いで、あらためてギュッと抱きしめ直すと、慶は大きくため息をついてから、ボソッと言った。

「………大掃除、手伝わなくてごめん」
「……………」
「……………」
「………………………は?」

 大掃除?

「何の話?」

 い、意味が分からない………

「慶?」
「おれ……また同じ間違いしてるよな」
「間違い?」
「うん……」
「……………」

 慶の湖みたいな綺麗な瞳にジッと見つめられて、今さらながらドキッとしてしまう。そんなおれには気がつかないように、慶は真面目な顔で言葉を継いだ。

「大掃除もお前に任せっきりで」
「そんなの……」

 何を言い出すのかと思ったら……

「大掃除なんか、たいしたことしてないから全然大丈夫だよ?」
「…………でも」

 慶はまた、大きくため息をついた。

「今日……あっちの病院の看護師に言われてさ。こんなに毎日帰りが遅くて、奥さんに怒られませんかって」
「……………」
「それで……気がついて」
「?」

 気がついて?

「それで、電話かけたけど、お前、出なくて」
「……………」
「それで、急いで帰ってきたけど、お前、いなくて」

 慶の手がスイッと伸びてきた。

「おれはまた間違ったんだって……思って」
「? だからその間違いって何?」

 意味が分からないんだけど……

 言うと、慶は少し迷ってから、ぽつんと言った。

「お前がケニアに行くことにしたときのおれって、こんな感じだっただろ?」
「………!」

 それは………っ

「仕事で頭いっぱいで、お前に甘えっぱなしで」
「……………」
「そんなんだから、お前、また、いなくなったんだって、思って……」
「慶…………」

 ああ…………
 七味なんか買いに行くんじゃなかった。
 もしくは、鳴らされた電話に気がついていれば…………

「慶……」

 なんて言えばいいのか分からない。分からないから、とにかくギュッと抱きしめる。
 なんて言えばいいのか分からない。でも、言わなくては伝わらない。

「慶……違うよ」
「…………」
「全然、違う」

 以前、慶が言っていた。あの頃のことを思い出すと、深い穴に落ちていく感じがする、と。きっと今もそうなんだろう。縋るように抱きついてくる慶の背中を、強く抱きすくめる。穴に落ちていかないように。

「あの頃のおれとは違うから。だから大丈夫だから」
「…………」
「あの頃のおれは……慶に会えなくて辛くて辛くて。でも、辛いっていえなくて、ずっと我慢してた」
「…………」

 ゆっくりと慶がおれの胸から顔を離した。ちょっと眉が寄っている。

「それは……今は会えなくても辛くないってことか?」

 それはそれで微妙だな……。

 正直な慶の言葉に吹き出してしまう。慶は今でもこんなにおれの愛を欲しがってくれてる。それが嬉しい。

「そんなことないよ。会えなかったら辛いよ? でも、あの頃と違って、一緒に住んでるから」
「…………」
「会えない時も、一緒にいる感じがするんだよ。そう思えるようになったんだよ」
「…………」

 たぶんそう思えるのは、一緒に住んでるからだけじゃなくて、慶が本当におれを愛してくれてるって、ようやく心の底から分かったからでもあるんだろう。慶の心はいつでもおれと一緒にある。それが信じられる。

「だから、大丈夫だよ?」
「でも……」
「大丈夫じゃなくなったら、ちゃんと言うから」

 あの頃は、慶に嫌われたくなくて、会えなくて辛いってことも言えずにいた。でも、今は……

(……やっぱり、言えないかな)

 やっぱり言えない気もする。でも……それでも、大丈夫。だってこうして、慶はおれのことに気が付いてくれた。慶もあの頃とは違う。


「お蕎麦、食べよ?」
「…………」
「かき揚げも作ったよ?」
「…………」

 オデコをコツンと合わせると、慶は小さくうなずいた。

「シュークリームも食べる」
「うん。食後に食べようね?」

 チュッと軽いキスをする。

「毎年思うけど、お前のかき揚げ、店で食べるのより断然うまいよな」
「そう?」
「来年も食べたい」
「…………うん」

 来年も、食べる。再来年も、その次も。ずっと。


 そして、新年がやってくる。慶と共に生きる新年が。

「今年もよろしくね?」

 あの頃は得られなかった穏やかな日々がここにはある。




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お読みくださりありがとうございました!
新年早々一時間の遅刻……
だってなんか二人ともマッタリしてて話がすすまないんだもんー
一度書いておきたかった、慶君のトラウマ話でした。実は、慶はまだ引きずってるんですよね~~~
オチも何もないお話お読みくださり、新年早々ありがとうございました。
こんな調子の当ブログですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします!


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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
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