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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係32

2019年01月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】

 冬休みが始まった。
 塾の冬期講習があったので、31日まで毎日村上享吾に会っていた。
 塾の帰りに少しだけうちに寄って、ピアノを弾くことも今までと変わらない。変わらないけれど………

「村上?」
「……っ」

 ふいに名前を呼ばれたり、ふとした時に手が触れたりすると、ドキッとしたりして、オレはなんだかオカシイ。オカシイけれど……

(なんか……ちょっと、楽しい)

 一緒にいられて楽しいのはもちろんのこと、そうしてドキドキしたりするのが、余計に楽しい。


 元旦から3日間だけ会えなかったけれど、4日には朝から塾で会えて、帰りももちろんうちで遊んだ。

(やっぱり、いいな)

 村上亨吾と一緒にいると、なんだか気持ちがフワフワしてくる。


 いつのころからか、村上亨吾はピアノで簡単な曲を弾く時は、オレに隣に座るように手招きするようになった。

 だからこの日も 4日ぶりに隣にならんでピアノを聴きながら、いつものようにお喋りをしていた。


「暁生が、もううち借りないでよくなったって言ってたんだよ」

 毎年恒例の、暁生の家族とうちの家族で一緒に行く初詣のときに、言われたのだ。

「年明けからは、高校の寮の集会室の大型スクリーンを使わせてもらえるとかで、うちのテレビ使わなくても良くなったんだって」

 勉強会に関してはそれで大丈夫だろうけど、彼女との時間はいいのかな? と思ったけれど、余計なことは言わなかった。正直、オレとしては、使わなくて良いならそれに越したことはない。

「………そうか。良かったな」
「うん。まあ、ベッドに寝られなくなった件は、キョーゴのおかげで治っ……、あ」

 自分でいいかけて、「あ」と口を閉じた。

(そうだよ。あの朝、キョーゴの……)

 布団の中で感じた熱くて固い感触を思い出して慌ててしまう。
 でも、そんなオレのワタワタには気がついた様子もなく、村上享吾はキレイなメロディを奏で続けているので、ちょっとホッとする。

 あの件に関しては、今まで一度も言及したことはない。というか出来るわけがない。オレもつられて勃ちそうになったなんて、知られるわけにはいかないだろ。

(キョーゴ、完全に寝ぼけてたしな。覚えてないんだろうな)

 村上享吾にとっては記憶にないことだけれども、オレにとっては、忘れられるわけがない経験で……

(あれ以来、オカシイし……)

 今までは普通にくっついていられたのに、今はこうして並んでいるとドキドキしてくる。でも、それでも、くっついていたくて……

「………村上」
「……っ」

 ふいに、ピアノを弾くのをやめた村上享吾にドキッとする。

「何……」
「…………」
「…………」
「…………」

 黙っているので、オレの様子が変なことに気づいたのかと、違った意味でもドキドキしていたのだけれども………

「オレの今年の初夢に、お前出てきた」
「初夢?」

 全然違う話でホッとする。でも、「どんな夢?」と聞いたオレに、村上享吾は無表情のまま、あっさりと、言った。

「あの時みたいに、ベッドで一緒に寝てる夢」
「!」

 ギクッとしつつも何とか留まった。

(ベッドで寝た時は、何もないから大丈夫。問題は翌朝、布団で寝た時のことだから。大丈夫大丈夫……)

 冷静に自分を落ちつかせる。と、村上享吾は、肩をすくめていった。

「オレは寝たかったのに、お前が延々としりとりを続けようとするから、なんとか『ん』のつく言葉を捻りだそうと悩んでるところで目が覚めた」
「………。へ?」

 しりとり? んがつく言葉?

 思わず吹き出してしまう。

「なんだそれーおもしれー」
「おもしろくない。今年も、お前に振り回されるっていう暗示かと思って、正月早々、戦々恐々とした」
「なんでだよっ」

 腿をバシッとたたいてやる。と、奴はちょっと笑ってから、言葉を継いだ。

「…………でも。今年も一緒にいられるっていう暗示か、とも思って……、嬉しかった」
「…………」
「…………」
「…………キョーゴ」

 キュウウッと胸が痛くなる。なんでだろう。なんでこんなに胸が痛くなるんだろう。

 再びはじまる綺麗な旋律……。こうしてずっとずっと聴いていたい。

 コツンと村上享吾の肩に頭をのせると、コツンと頭に頭が落ちてきた。こんな時間が今年も続くんだ。




【享吾視点】


 浮かれていた。完全に浮かれていた。

 定期テストで初めて本気を出せたことにも、志望高校を学区トップの高校にできたことにも、険悪だった松浦暁生とほんの少し分かり合えたことにも、浮かれていた。
 そして何より、村上哲成と、今までと違う、フワフワとした関係となったことに、浮かれていた。

 一緒にいると嬉しい。楽しい。愛しい……。村上が、時々、手が触れたりすると、恥ずかしそうに笑ったりするのも、いい。

 こういう状態を「恋」というのではないか、とも思う。でも、オレ達は同性なので、それはない、と思う。おそらく疑似恋愛的なものなのだろう。あの時、勃ってしまったのも、そういうことだと思う。

 でも。

 どう考えても「恋」の対象ではないけれど、村上はオレにとって特別な存在である、ということは確実だ。



 正月明けに久しぶりに会えて、やっぱりフワフワと幸せな気持ちになって……。塾の帰り、いつものように村上の家に寄ったのだけれども、気がついたら夕飯の時間をとっくに過ぎていたので、慌てて帰ることにした。村上と一緒にいると楽しくて時間もすぐに過ぎてしまう。

「また明日」
「おお」

 玄関先でも思わず、ギュッと抱きしめると、村上は照れたように笑った。

(やっぱり、いいな)

 村上の笑顔はいい。その顔に満足してから帰路についた。


 手元に残る村上の温もりに、幸せな気持ちが押し寄せてくる。
 村上は幸せをくれる。オレの中の本気を引き出してくれる。見守ってくれる。一緒にいようとしてくれている。村上がいてくれれば、オレは何でもできる気がする。


 そんなフワフワした気持ちのまま自宅玄関を開けた途端、

「享吾! ちょっと留守番頼む!」
「え」

 父が飛び出して行った。ものすごく慌てたように……

「留守番?」

ってどういうことだろう? 母と兄はいないってことか?

 頭の中をハテナでいっぱいにしながらリビングに入っていき……愕然とした。

「………泥棒?」

 いつもはきれいに片づけられているリビングに、物が散乱している。棚の上に並んでいたはずの本や書類がまき散らされているようだ。
 そんな中、ソファーに沈み込むように兄が座っていて………

「……兄さん?」

 そっと声をかけると、兄はふいっとオレに目を向けた。そして、

「おかえり、享吾。遅かったな」

と、寂しそうに、笑った。
 




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