【哲成視点】
クリスマスの朝。
久しぶりに目覚めが良かった。ぐっすり眠れた感じがする。やっぱりソファでは熟睡できていなかったんだ、と気付かさせられた。
(………今、何時?)
眼鏡をしていないから世界がボヤけているものの、辛うじて壁掛け時計の針の位置は分かる。
(まだ6時半か。あと一時間眠れる………、と)
時計から視線を下ろしたら、床にひかれた二組の布団で、松浦暁生と村上亨吾が並んで寝ている姿が目に入って、笑いそうになってしまった。
(そんなに離れようとしなくてもいいのに)
お互いなるべく近づかないようにと思ったのか、端と端の限界まで寄っているところが可笑しい。暁生にいたっては、背を向けて、足が少し布団から出ているくらい端に寝ている。暁生は180センチ、村上亨吾は175センチあるので、布団の縦もギリギリな感じだ。
(………懐かしいな)
昨年のクリスマスは、暁生の家で暁生と暁生の弟の間で寝たのだ。その前もそうだった。そのずっと前は、母が隣にいた……
(……………)
何となく寂しい気持ちになって、二人の間に潜り込んだ。端と端に寄っているから、間はちょうど一人分空いている。両方から4分の1ずつもらった布団は、はじめは冷たかったけれど、すぐに温かくなってきた。
(………村上、亨吾)
ふ、と、右を見る。
昨晩、無理矢理オレをベッドの中に引き込んだ村上亨吾。確かに寝てしまえば、今まで何を怖れていたのだろう?と不思議に思うくらい、何もなく、ベッドは寝心地が良かった。奴にはそれが分かっていたのだろうか。
初めてみる村上享吾の寝顔。眼鏡がなくてよく見えないから、そっと顔を寄せてみる。と、ふわりと良い匂いがしてきた。
(………同じ匂い)
昨日、うちの風呂に入ったから、うちのシャンプーの匂いがする……
村上享吾はピクリともせずに寝ている。
こいつは寝ているときも澄ました顔してるんだな……
今度は左隣を見る。
(暁生、ちゃんと帰ってきたんだ……)
暁生は昨晩、彼女と過ごすからと言って、出ていってしまったのだ。でも約束通り朝には帰ってきたということだ。
(…………。お風呂どうしただろう?)
パジャマで寝てるけど、うちのに入ったのかな? それとも、その彼女とホテルにでもいったのかな……
先ほど村上亨吾にしたように、暁生に顔を近づけて匂いを嗅ごうとした。
その時。
「!?」
いきなり後ろに引っ張られて、驚いて声をあげそうになってしまった。いつの間に、首の下と腰の上に村上亨吾の腕が回っている。
(………キョーゴ?)
なんだ? 寝ぼけてるのか?
振り返りたいけれど、強い力で羽交い締めにされているので動くことができない。
(まあ………いいけど)
村上亨吾の腕の中はいつも居心地がいい。今も背中から伝わってくる体温が温かくて気持ちいい。ちょっと首のところが苦しいけれど、あと一時間、このまま腕枕されながら寝ればいいか。
そんな呑気なことを思ったのだけれども……
「………っ」
なんだ……?
尻から太股のあたりに当たっている感触に気がついて、固まってしまった。
(…………。朝勃ち?)
村上亨吾には今まで何度か抱き締められたことはあるけれど、こんな固い感触を感じたことは一度もない。昨晩だってかなり密着していたけれどこんなことはなかった。
(うわ……気まずい……)
これ、村上亨吾が起きたら絶対気まずいだろ。かわいそうだろ……。なんとか起きる前に腕から抜け出してやらないと………
(うーん………とりあえず、この肩に回ってきてる腕を持ち上げて……)
と、ゴソゴソと動きながら、村上亨吾の手首を掴もうとした、ら、
「!」
逆に手を掴まれてしまった。肩からは手は外れたけれど、手を繋がれてしまったので、状況は変わらない………
でも、上半身は少し動くようになったので、なんとか少しでも離れてやろうと、モゾモゾしてみる。と、ますます下半身の密着度が……っ
(うわ……っ)
どうしよう。これ、恥ずかしい。絶対恥ずかしいっ。どうしよう……どうしようっ。
と、その時。
「………っ」
繋がれた手が意思を持ってギュッと握られた感じがして、ドキッとする。
(まさか、起きてるのか……?)
振り返ることもできず固まっていると、再び手がギュッギュッと握られ、腰に回された手にも力が込められた感じがした。
そして………
「……………村上」
「!」
耳元に聞こえてきた低い声に、なぜか心臓がドキンと跳ねあがり、カアッと顔に血が集まってきて、戸惑う。
何………
ますます体を固めていると、
「…………そっちに行くな」
「え」
再び腰に回された手に力が込められた。さらに密着してしまい、焦って身じろぎをする。と、
「行くな」
「…………っ」
再びの低い声に、顔だけでなく、体の中まで熱くなったのが分かった。
「……………」
「……………」
ドキンドキン、と、心臓の音が伝わってくる。村上亨吾の心臓なのか、オレの心臓なのか分からないけれど、いつもより速いし、鼓動が大きい……
「……………ここに、いろ」
「……………」
「……………」
「……………」
村上亨吾の息づかいが、耳に響いてくる……
何とかコクンとうなずくと、繋いでいた手を離され、頭に手が回ってきた。ポンポンと撫でられる。後頭部に村上亨吾の唇が当たっているのが分かる。
(うわ……………)
なんだこれ………
(これじゃ、まるで………)
恋人みたいじゃないか。
……………。
……………。
何いってんだ、オレ。
(村上亨吾は男だし。そんなこと思うなんて、変だ)
変だけど………
(そういえば、こないだ西本とそんな話したな………)
『テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?』
『んなことあるわけないだろっ』
『じゃ、享吾君のことは?』
『んなこと考えたこともないっ』
……………考えたことない。ない、けど……
これは、何だ。
背中から伝わってくる温もりの居心地の良さ。と、同時に、それとは正反対の、全身心臓になったみたいな落ち着かなさ。
そして………
村上亨吾の大きな手と息づかいと、押し付けられた固くて熱い滾りにつられるように、オレの……オレのものも兆しそうになることを、必死に堪えている事実を……
なんて説明すればいいんだ?
----------
それは恋かもしれないよ♥
と、いうことで。
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クリスマスの朝。
久しぶりに目覚めが良かった。ぐっすり眠れた感じがする。やっぱりソファでは熟睡できていなかったんだ、と気付かさせられた。
(………今、何時?)
眼鏡をしていないから世界がボヤけているものの、辛うじて壁掛け時計の針の位置は分かる。
(まだ6時半か。あと一時間眠れる………、と)
時計から視線を下ろしたら、床にひかれた二組の布団で、松浦暁生と村上亨吾が並んで寝ている姿が目に入って、笑いそうになってしまった。
(そんなに離れようとしなくてもいいのに)
お互いなるべく近づかないようにと思ったのか、端と端の限界まで寄っているところが可笑しい。暁生にいたっては、背を向けて、足が少し布団から出ているくらい端に寝ている。暁生は180センチ、村上亨吾は175センチあるので、布団の縦もギリギリな感じだ。
(………懐かしいな)
昨年のクリスマスは、暁生の家で暁生と暁生の弟の間で寝たのだ。その前もそうだった。そのずっと前は、母が隣にいた……
(……………)
何となく寂しい気持ちになって、二人の間に潜り込んだ。端と端に寄っているから、間はちょうど一人分空いている。両方から4分の1ずつもらった布団は、はじめは冷たかったけれど、すぐに温かくなってきた。
(………村上、亨吾)
ふ、と、右を見る。
昨晩、無理矢理オレをベッドの中に引き込んだ村上亨吾。確かに寝てしまえば、今まで何を怖れていたのだろう?と不思議に思うくらい、何もなく、ベッドは寝心地が良かった。奴にはそれが分かっていたのだろうか。
初めてみる村上享吾の寝顔。眼鏡がなくてよく見えないから、そっと顔を寄せてみる。と、ふわりと良い匂いがしてきた。
(………同じ匂い)
昨日、うちの風呂に入ったから、うちのシャンプーの匂いがする……
村上享吾はピクリともせずに寝ている。
こいつは寝ているときも澄ました顔してるんだな……
今度は左隣を見る。
(暁生、ちゃんと帰ってきたんだ……)
暁生は昨晩、彼女と過ごすからと言って、出ていってしまったのだ。でも約束通り朝には帰ってきたということだ。
(…………。お風呂どうしただろう?)
パジャマで寝てるけど、うちのに入ったのかな? それとも、その彼女とホテルにでもいったのかな……
先ほど村上亨吾にしたように、暁生に顔を近づけて匂いを嗅ごうとした。
その時。
「!?」
いきなり後ろに引っ張られて、驚いて声をあげそうになってしまった。いつの間に、首の下と腰の上に村上亨吾の腕が回っている。
(………キョーゴ?)
なんだ? 寝ぼけてるのか?
振り返りたいけれど、強い力で羽交い締めにされているので動くことができない。
(まあ………いいけど)
村上亨吾の腕の中はいつも居心地がいい。今も背中から伝わってくる体温が温かくて気持ちいい。ちょっと首のところが苦しいけれど、あと一時間、このまま腕枕されながら寝ればいいか。
そんな呑気なことを思ったのだけれども……
「………っ」
なんだ……?
尻から太股のあたりに当たっている感触に気がついて、固まってしまった。
(…………。朝勃ち?)
村上亨吾には今まで何度か抱き締められたことはあるけれど、こんな固い感触を感じたことは一度もない。昨晩だってかなり密着していたけれどこんなことはなかった。
(うわ……気まずい……)
これ、村上亨吾が起きたら絶対気まずいだろ。かわいそうだろ……。なんとか起きる前に腕から抜け出してやらないと………
(うーん………とりあえず、この肩に回ってきてる腕を持ち上げて……)
と、ゴソゴソと動きながら、村上亨吾の手首を掴もうとした、ら、
「!」
逆に手を掴まれてしまった。肩からは手は外れたけれど、手を繋がれてしまったので、状況は変わらない………
でも、上半身は少し動くようになったので、なんとか少しでも離れてやろうと、モゾモゾしてみる。と、ますます下半身の密着度が……っ
(うわ……っ)
どうしよう。これ、恥ずかしい。絶対恥ずかしいっ。どうしよう……どうしようっ。
と、その時。
「………っ」
繋がれた手が意思を持ってギュッと握られた感じがして、ドキッとする。
(まさか、起きてるのか……?)
振り返ることもできず固まっていると、再び手がギュッギュッと握られ、腰に回された手にも力が込められた感じがした。
そして………
「……………村上」
「!」
耳元に聞こえてきた低い声に、なぜか心臓がドキンと跳ねあがり、カアッと顔に血が集まってきて、戸惑う。
何………
ますます体を固めていると、
「…………そっちに行くな」
「え」
再び腰に回された手に力が込められた。さらに密着してしまい、焦って身じろぎをする。と、
「行くな」
「…………っ」
再びの低い声に、顔だけでなく、体の中まで熱くなったのが分かった。
「……………」
「……………」
ドキンドキン、と、心臓の音が伝わってくる。村上亨吾の心臓なのか、オレの心臓なのか分からないけれど、いつもより速いし、鼓動が大きい……
「……………ここに、いろ」
「……………」
「……………」
「……………」
村上亨吾の息づかいが、耳に響いてくる……
何とかコクンとうなずくと、繋いでいた手を離され、頭に手が回ってきた。ポンポンと撫でられる。後頭部に村上亨吾の唇が当たっているのが分かる。
(うわ……………)
なんだこれ………
(これじゃ、まるで………)
恋人みたいじゃないか。
……………。
……………。
何いってんだ、オレ。
(村上亨吾は男だし。そんなこと思うなんて、変だ)
変だけど………
(そういえば、こないだ西本とそんな話したな………)
『テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?』
『んなことあるわけないだろっ』
『じゃ、享吾君のことは?』
『んなこと考えたこともないっ』
……………考えたことない。ない、けど……
これは、何だ。
背中から伝わってくる温もりの居心地の良さ。と、同時に、それとは正反対の、全身心臓になったみたいな落ち着かなさ。
そして………
村上亨吾の大きな手と息づかいと、押し付けられた固くて熱い滾りにつられるように、オレの……オレのものも兆しそうになることを、必死に堪えている事実を……
なんて説明すればいいんだ?
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