『風のゆくえには~遭逢』の2の裏話というか、補足の話。
浩介と慶、高校一年生で出会う寸前のお話です。
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【浩介視点/高校一年生4月】
中学3年生の夏、偶然バスケットの試合で見かけた『渋谷慶』という光。
オレは、その光に出会うために、都内の私立中学から、地元の県立高校に進むことを決意した。
幸運なことに、オレの住んでいる地区と渋谷慶の通う中学のある地区は、高校の学区が同じなのだ。だから、渋谷慶本人と同じ高校になる可能性は少ないにしても、渋谷慶と同じ中学だった人と同じ高校になれる可能性は大いにある。
実際、白浜高校で同じクラスになった女子で、自己紹介の時に渋谷慶と同じ中学の名前を言っていた人もいた。でも、その人が渋谷慶を知っているかどうか分からないから、聞く事ができなかった。
でも、バスケ部の人なら、絶対に渋谷慶を知っているだろうから、バスケ部に入って、渋谷慶のことを聞いてみよう!と思っていたんだけど……
(誰がどこの中学出身か分からない……)
分からない上に、どう話しかけていいのかも分からない。あちこちで輪ができている部活前の時間も、どこにいたらいいのか分からないし、どうしたらいいのかも分からない。今日で部活に出るのは2回目だけど、全然分からない。
(どうしよう……)
みんなどうしてそんなに楽しそうに話したりできるんだろう。おれだけが浮いてる。平静にしているつもりだけれども、心の中はパニックになっていた。
と、そこへ
「桜井!」
「わっ」
いきなり、背中をバシバシ叩かれた。振り返ると、なんというか……『普通』の男子高校生が立っていた。同じ日に入部した篠原、だ。
「今日もよろしくー。やっぱり今のところ、バスケ初心者、オレと桜井だけみたいだからさー。桜井がいてくれて心強いよ!」
「あ……うん。ありがと……」
篠原は、すごく人懐こい性格らしく、前回もたくさん話しかけてきてくれた。
篠原は中学の時は、女子の手料理が食べたくて料理研究部に入っていたらしい。高校からはバスケ部にしたのは、
『女子バスケ部に可愛い子がたくさんいるから!』
っていう理由だそうだ。今まで見たこともない人種、というか、違う星からやってきた、というか……とにかく不思議な人だ。
「なになに桜井、なにボーッとしてんの?」
「あ……うん。まだみんなの名前分かんないなって思って……」
「そっかそっか!じゃあ教えてあげる!」
さすが、分かるんだ。
(あ、それじゃあ!)
慌てて付け足す。
「あの……あのっ、出身中学も分かる?」
「分かる分かる!」
……………。すごい。
篠原はオレと同じで今日で2回目の部活のはずなのに、現時点での新入部生の名前と出身中学を全員知っていた。
「斉藤は一中で、川島は山中。あそこの二人は緑中って言ってたなあ」
「!」
緑中。渋谷慶の中学だ。
「あそこの二人って……」
ドキドキしながら聞くと、篠原はスイッと体育館の端で準備運動をしている二人を指さした。
「わりとガッシリしてる方が上岡。涼し気な感じの奴が村上」
「…………」
………。
………。
なんか……二人とも話しかけにくい感じの人だ……。
「その横でピョンピョンしてるのが水野。確か、坂中」
「そうなんだ……」
同じ日に入部したのにこの情報量の差はなんだろう。篠原はすごい。篠原だったら、何の躊躇もなく渋谷慶のことをあの二人に聞けるんだろうな……
「すごいね、篠原……」
「オレ、人の名前と顔覚えるの得意なんだよ。でもまだ男バスの先輩たちは分かんない」
篠原は二ッと笑うと、小さく付け足した。
「女バスの先輩は全員覚えたけどね!一年ももちろん全員!」
「そ、そうなんだ……」
なんか……ホントに、篠原は、異星人だ。でも、勝手に喋ってくれるのは楽でいい。
(問題は……)
あの二人。上岡と村上。どちらも話しかけられる雰囲気じゃない。
上岡は、強そうで怖い感じ。一番苦手なタイプだ。
村上は、クールで冷たい感じ。話しかけても無視されそう……
(無理だ……)
どう話しかけていいのか、全然分からない……
そのままその日の部活は終わってしまった。家庭教師が来る日なので、慌てて着替えて体育館の外階段を下りていったところ、
「すみません!すみません!バスケ部の人!?」
いきなり、高めの男の声に呼び止められた。振り返ると、背の低めの眼鏡をかけた男子生徒が手をパタパタしている……
「はい……」
「バスケ部終わったんですか?みんなまだいますか?」
眼鏡の奥の目がクルクルしてる。なんか、犬みたい……
「えと……、はい。みんなまだ着替えてて……」
「あ、そうなんだ。良かった……、って」
「あ」
いつのまに、その男子生徒の後ろに、村上が立っていた。ポンってその男子生徒の頭に手を乗せている。すると、キラキラッと男子生徒の目が輝いた。
「おおっキョーゴ、良かった」
「部活の連中と出かけるんじゃなかったのか?」
「それ中止になったんだよー。だから一緒に帰れる」
「そうか」
ふっと笑った村上。
(笑った……)
ビックリするくらい、柔らかい笑顔。バスケ部にいる時のクールな感じとは全然違う。
ポヤッと見てしまっていたら、ふいっと村上がこちらをみた。
「じゃ、桜井。また」
「え、あ……」
名前、覚えてくれてるんだ……
驚き過ぎて言葉が出なかったオレに、今度は背の低い男子生徒の方が、また両手を振って言った。
「んじゃ、どもです!」
「あ……はい」
かろうじて何とか頭を下げる。おれ、すごく変な奴だ……。と、思ったけれど、二人は大して気にした様子もなく、並んで歩いていってしまった。
(仲良いな……)
思わず、その後ろ姿に見とれてしまう。二人くっついて歩いてて、顔を見合わせて笑ったりして……
(渋谷慶も、今の人くらいの身長だったよな……)
村上とおれは身長同じくらいなので、もしも、おれと渋谷慶が一緒に歩いたら、あんな感じになるんだろうか……
あんな風に、仲良い友達みたいに、歩けたらどんなに……
(渋谷……)
もしもあなたに会えたら……会えたら……
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お読みくださりありがとうございました!
オドオドしてる高一の浩介。頑張れ!もうすぐ渋谷慶に会えるよ!
今後なんですが。
やはり、「2つの円の位置関係」の続編を書こうと思います。私が19歳の時に書いたものをベースに書きます。が。数年前に読み返した際に、
『19歳の私、何があった!?』
と、叫んでしまった内容となっております……。
大学生になった二人の話からはじまります。(だから今回、高校生の二人の姿を書いておきたかったの)
来週火曜日に人物紹介だけでも載せられたら……と思っていますが、間に合うかな💦
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