【西本ななえ視点】
『テツ君と亨吾君は両想い』
そう確信したのは中学3年のバレンタインの時だった。
テツ君に中学3年間片想いをしていた身としては、大変複雑ではあったけれど、
『変な女とどうこうなるよりは全然マシ!』
と自分を励まして、卒業式の日に亨吾君の背中を押してあげた。
その後、高校の時に何度か見かけた二人は、中学の時よりも更にベタベタしていたので、
(やっぱり付き合うことになったんだなあ)
と、嬉しく思っていた。嬉しく思えるまで吹っ切れた自分を自分でほめていたのに……
なのに。
中学を卒業した4年後に行われた同窓会で、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けた。
「テツ君の彼女の真奈でーす♥」
そう言って、テツ君の横でニコニコの笑顔を見せたのは、小柄なテツ君よりも更に小柄で、フワフワの茶色い髪にフリフリのスカートをはいた、人形みたいに可愛らしい女の子だった。
***
「どういうこと!?」
女子に囲まれていた村上亨吾君が、一瞬一人になった隙に隅っこに連れて行って、にじり寄ってやった。畳の大広間で行われている同窓会は、席の移動は自由となっている。
中学の時も『それなりに』格好良かった亨吾君は、現在、『ものすごく』格好良くなっていたため、さっきまで女子達が目の色変えて群がっていた……けれども、この手の男はタイプじゃない私にとっては、そんなことはどうでもいい。
「私、あんな女に譲るためにテツ君から身を引いたつもりないんだけど?」
「西本……」
亨吾君は苦笑すると、小さくたしなめるように言った。
「あんな女、なんて言ったら、哲成に怒られるぞ?」
「哲成?」
哲成!?
話の中身よりそちらに引っ掛かった。
「亨吾君、いつの間にテツ君のこと名前呼び? いつから?」
「ああ……」
引き続き、亨吾君は苦笑している。
「高1の冬くらいからかな……」
「テツ君は? あいかわらず、『キョーゴ』?」
「いや」
すいっと亨吾君の視線が動いた。その視線の先にはテツ君……
「『キョウ』って……呼ばれてる」
「…………」
亨吾君の優しい目……
哲成。キョウ。
テツ君はご両親にも「テツ」って呼ばれてた。亨吾君は知らないけどおそらく「亨吾」だろう。
たぶん、他にそう呼ぶ人はいない、二人だけの特別な呼び方。そんな呼び方をするなんて……
「………。やっぱり、二人、付き合ってたんでしょ? 別れちゃったってこと?」
ストレートに聞くと、亨吾君は静かに首を振った。
「付き合ってない。だから別れてもいない」
「…………なにそれ」
なにそれ……
「どうして? だって中学の卒業の時……」
と、さらに突っ込んで聞こうとしたところ、
「キョウ! 西本!」
ピョンピョンッと跳ねるようにテツ君がやって来た。全然変わらない可愛いテツ君。
「オレ、真奈のこと送ってくるから、ちょっと抜けるな」
「ああ、分かった」
ふっと微笑んだ亨吾君。なんか……切ない表情……
「なに? 彼女もう帰っちゃうの?」
トゲトゲしさを隠しきれないまま聞いたけれど、鈍感テツ君は全然分かってなくて、ニヘラッと笑った。
「真奈、お嬢様だから、門限8時なんだよ」
「………………ふーん」
じゃあワザワザ来んなよ。と言いたいところをぐっと押さえる……。
そんな私の横で、二人は手を軽く打ち合わせた。
「気を付けてな」
「おー」
テツ君はまたピョンピョン跳ねるように、今度は彼女の元に戻っていく。それを見送っている享吾君の顔……
(なんて顔してんの?)
何その、情熱をうちに秘めてますっていう憂い顔……
「…………享吾君。いったい何があったの? この4年で」
「何がって……」
振り返った享吾君はまた苦笑して、首を振った。
「何も、ない」
「何もないわけないでしょ」
「そう言われても……」
「じゃ、中学卒業してからの二人のこと、全部話して?」
「え」
戸惑ったように目を泳がせた享吾君。でも逃がさない。
「私、聞く権利あると思わない?」
「…………」
「思うでしょ?」
「…………」
「…………」
「…………」
享吾君は、大きく息を吐くと、トン、と壁に背中を預けた。すかさず、近くにあったビール瓶を手に取り、空になっていた亨吾君のグラスに注いであげる。
「じゃ、話して?」
「何を?」
「そうだなあ……」
ふっと先ほどの「キョウ」と呼びかけたテツ君の可愛い顔を思い出して、言ってみる。
「二人が『哲成』『キョウ』って呼び合うようになったキッカケとか」
「ああ………」
享吾君は、ビールを少し飲むと、思い出すように、目を細めた。
「それは……渋谷に影響されて、だな」
「渋谷君?」
そういえば、渋谷君も二人と同じ白浜高校に進学していた。学校一のアイドルだった男子。
「どういうこと?」
「渋谷が名前呼びつけされるのすごく嫌がるって話は知ってるか?」
「ああ。有名だったよね」
中性的で美しい容姿をしていた渋谷君は、名前の『慶』で呼ばれることをすごく嫌っていた。幼稚園の時に「ピンクレディーのケイちゃんの真似をしろ」と揶揄われたのがキッカケだった、という話を聞いたことがある。
「それが?」
「その渋谷が名前呼びつけを唯一許した奴がバスケ部にいて……」
ポツポツと話し出した享吾君。こぼれだした二人の高校時代の思い出……。
聞けば聞くほど……なんだか切なくなってしまった。
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お読みくださりありがとうございました!
そんなわけで、次回金曜日から享吾君の思い出話がはじまります。
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