【亨吾視点】
「もう終電間にあわないから、今日は泊まる」
あっさりと哲成に言われ、内心かなり動揺したけれど、得意のポーカーフェイスで「分かった」とうなずいた。
この半年、哲成は時々うちに遊びには来ていたものの、泊まりはしなかった。しかも、森元真奈と付き合い出してからは、スキンシップも控えているので、哲成に対する免疫がかなり落ちている。一緒のベッドで寝て、理性を保てるかどうか……
そんなこと知るわけがない哲成は、ご機嫌で自分で買ってきた品物をテーブルに並べはじめた。
「これはどっちも食べたかったから、半分こな。包丁包丁~」
「…………」
チーズケーキとエクレアだ。おいしそうだな。
いつもと変わらない哲成。こいつは何も思ってないんだな……
いつもと変わらない哲成。こいつは何も思ってないんだな……
哲成が勝手に包丁を持ってきて半分に切っている様子をフクザツな気持ちで眺めていたら、
「どうかしたのか?」
キョトンと哲成に聞かれた。
(どうかしたって……)
それはこっちのセリフだ。
ずっと泊まらなかったのに、何で今日は泊まるんだ?
…………なんてことを言って、帰られるのも嫌だから「別に」とだけいって、皿とフォークと、カップも用意する。
「コーヒー? 紅茶? アップルティー?」
「アップルティー!」
ニカッとした哲成にキュッとなる。まるで森元真奈と付き合う前に戻ったみたいだ。抱きしめたり手を繋いだりキスをしていたりした……幸せだったあの頃に。
(…………いや、でも……)
今だって幸せだ。こうして一緒にケーキを食べて笑い合って。哲成と一緒にいられることがオレの幸せなんだから、だから……だからそれ以上は望まない。
**
**
「……オレな」
ケーキを食べ終わったところで、哲成があらたまったように言った。
「西本ななえに聞かれた」
「…………」
西本……何を言ったんだ。
「何を?」
「うん……」
哲成は言いにくそうに下を向くと、ポツリと言った。
「恋愛とか……分かるようになったのかって」
「…………」
「真奈のこと、本当に好きなのかって」
「…………」
それは……オレが一番聞きたかったことだ。
哲成は中学の頃から「恋愛が分からない」と言っていて、中学卒業の時に告白したオレに対しても、「分からない」と答えていた。
でも、森元真奈と付き合うことにしたってことは、森元のことが好きになった、ということなのか……と
「で?」
口の中が乾く。アップルティーを飲み干して、先を促した。
「お前は何て?」
西本……何を言ったんだ。
「何を?」
「うん……」
哲成は言いにくそうに下を向くと、ポツリと言った。
「恋愛とか……分かるようになったのかって」
「…………」
「真奈のこと、本当に好きなのかって」
「…………」
それは……オレが一番聞きたかったことだ。
哲成は中学の頃から「恋愛が分からない」と言っていて、中学卒業の時に告白したオレに対しても、「分からない」と答えていた。
でも、森元真奈と付き合うことにしたってことは、森元のことが好きになった、ということなのか……と
「で?」
口の中が乾く。アップルティーを飲み干して、先を促した。
「お前は何て?」
「うん」
すいっとこちらを見上げた哲成は、真剣な顔でハッキリと、言った。
「そんなのは分かってるって。もう中学生じゃないんだからって、答えた」
「…………っ」
グッと胸が痛くなる。想像以上の痛さだ。哲成を直視できず、視線をそらした。
(好きだよ)
想いが溢れてくる。
(オレは、お前のことが好きだよ)
言いたくても言えない言葉の数々。
(でも………)
変なことを口走る前に、慌てて立ち上がった。
「お茶入れ直すけど、何がいい?」
「あー……うん」
返答はないけれど、さっさと食器を持ってシンクへ持って行く。冷静になるために、皿を洗いはじめる。
(『そんなのは分かってる』か……。オレもそんなこと、分かってたのにな)
いざ、突きつけられると、冷静でいられないものなんだな……
しばらくすると、哲成の気配が近づいてきた。
「…………キョウ」
「…………キョウ」
「…………なんだ」
後ろから聞こえてきた哲成の声にも、振り向かない。振り向けない。冷静を装って、そのまま皿を洗い続ける。
「なあ…………キョウ」
「だから、なんだ」
「あの……」
「!」
「!」
心臓が止まるかと思った。
いきなりぎゅっと抱きつかれたのだ。
いきなりぎゅっと抱きつかれたのだ。
「哲…?」
「今だけ」
哲成の震えるような声。
哲成の震えるような声。
「今だけ、本当のこと言わせて」
「え」
「で、朝には忘れてくれ」
「何を……」
振り向いた途端に、ふわりと優しい感触が唇に触れた。
「哲成……?」
「好きだよ」
哲成のクルクルした瞳がこちらを真っ直ぐに見つめている。
哲成のクルクルした瞳がこちらを真っ直ぐに見つめている。
「オレ、キョウのことが、好き」
出しっぱなしの水の音に混じって、透き通る声が聞こえてくる。
「ずっと、ずっと言いたかった」
「哲……」
「哲……」
「好きだよ」
「…………」
それは…………
「…………」
それは…………
「でも…………」
哲成の手が伸びてきて水道を止めた。途端に部屋がシーンとなる。
静まり返った部屋の中で、哲成がはっきりとした声で、言い切った。
「最初で最後。一生一緒にいるために、もう言わない」
その瞳は今まで見たことのないほどの綺麗な綺麗な光を放っていた。
------------
お読みくださりありがとうございました!
お読みくださりありがとうございました!
次回は哲成過去話を……