創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

月の王子(7/12)

2008年03月06日 09時40分33秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
 翌日、例の手紙を持って階下を訪れた。扉が開いて、無精髭の男が出てきたときに確信した。この手紙を作ったのはコイツだ、と。
「この手紙作ったのあなたですよね?」
 突き出すと、男は明らかに動揺した。
 実は夫には言わなかったのだが、この手紙を始めに手に取ったときに、強烈な煙草の臭いに気が付いたのだ。それはこの男から発せられる臭いとまったく同じだった。
「これ、どういう意味ですか? 私の様子がおかしいって……」
「あの……」
 いいにくそうに男は頭をかいた。
「今みたいなこと続けてたら、体壊しますよ。ご自分が一番よく分かってるでしょ?」
 わけが分からない。体を壊す? もしかして、最近仕事が忙しくて、夫が寝てから明け方まで仕事をしていることを言っているのだろうか? でも、そんなことをこの人に言われる筋合いはない。
「あなたには関係ないでしょう。夫に余計なこと言わないでくださいね」
 夫が家にいるときには仕事をしない、というのが夫との約束なので、深夜仕事をしていることを知られては困るのだ。
「だいたい、何であなたがそんなこと知ってるんですか?」
「それは……見てればわかりますよ」
 言われて、ゾッとした。やっぱりこの人、私のこと見張ってるんだ!
「とにかく、余計なこと言わないでください! いいですね!」
 言い捨てて、階段を駆け上がった。背中に視線を感じる。気味が悪い。慌てて玄関を開けて中に飛び込み、鍵を閉める。
「もう寝よ!」
 思わず大声で言って、ベッドに横になる。仕事が一段落したので、仮眠をとろうと思っていたのだ。すぐに睡魔が襲ってくる。
 目をつむって仰向けになっていると、目の裏に『彼』が快楽に溺れたときの表情が浮かんできた。自然と手が下着の中へと入ってしまう。少しだけ……と自分に言い聞かせて、中指を差し入れる。しばらく入り口近くを優しく撫でていると、くちゃくちゃといやらしい音がし始めた。
 しかし、下着を脱いだのと同時に、インターフォンがなって、あわてて飛び起きた。
「はい?」
 少しだけ玄関を開けると、煙草の臭いがしてきた。まさか……。
「ちょっといいですか?」
 階下の男だった。
「なんですか? ちょ、ちょっと!」
 静止も虚しく、強引に中に入られた。暗くて狭い玄関に2人でいると、息が苦しくなるほど圧迫感がある。
「お願いがあって……」
「はあ?」
 なんで私がコイツのお願いを聞かなくちゃならないんだ? そんな心の声を知ってか知らずか、男は嫌な笑顔で言葉を続けた。
「今、女性の自慰行為のシーンを描いてるんですけどね。なかなか良い物ができなくて。奥さんモデルになってくれませんかねえ?」
「な……っ」
 血の気が引いた。頭の中の危険信号が最大級の音をならしている。
「帰ってください!」
 押し戻そうとした手を掴まれる。
「今も、してたんでしょ?」
 おもむろに中指を舐められた。瞬間、顔が熱くなる。
「ここも、こんなに濡れてる」
 素早く逆の手が陰部に触れてきた。細い指がスルリと抵抗なく中に入ってくる。
「離して!」
 壁に押しつけられながら、首を振る。嫌だ、と思っているはずなのに、愛液が太股に流れ出てくる。頭が朦朧としてくる。
「そろそろ入れても大丈夫だね」
「?!」
 聞き覚えのある声に顔を上げた。いつの間に……『彼』が男の横に立っていた。
「ねえ、もう入れて欲しいでしょ?お姉さん。入れてってお願いしてみて」
 楽しげに彼が言う。男が片手で私を壁に押しつけたまま、ズボンを脱ぎはじめる。
「なんで……」
 驚きで声にならない。
「なんでって、やるの大好きでしょ?色々な人とやってみたいでしょ?色々な人の入れて見たいでしょ?」
「嫌……違う………」
 激しく首を振る。
 違う違う違う。誰とでもしていいわけない。私がしたいのは……私がしたいのは……。
 壁に背をつけたまま、片足を上げさせられる。男が自分のモノをあてがってきた。言いようもない嫌悪感が体中を走り回る。
「やめて!」
 上げさせられた足で力任せに男の腹にケリを入れた。男がうずくまる。そちらには見向きもせず、驚いたような表情で固まっている彼に衝動のまま手を伸ばした。
「なに馬鹿なこといってるのよ!」
 両頬を包み込み、綺麗な瞳を覗きこむ。
「私が……私がしたいのは、君だけだよ」
 彼の瞳が大きく見開かれ、そして……。
「!」
 驚いて目が覚めた。慌てて身を起こす。周りを見渡して、体中の力が抜けた。
「夢………か」
 とんでもない夢だ。汗だくになっていた。
「私がしたいのは……」
 夢の中の私は正直だ。それが本心なのだろう。たぶん……自分でも分かっている。

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月の王子(6/12)

2008年03月05日 10時20分50秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
 翌日の夕方、郵便受けの中にA4サイズの紙が一枚入っていた。それにはワープロ文字で紙の中央に小さく字が書かれていた。
『奥さんの様子がおかしいです。注意してみてあげてください』
「何だこれ……」
 夫が眉間にシワを寄せる。
「嫌ねえ。変なイタズラ」
 いいながらも少しドキリとする。でも大丈夫、と自分に言い聞かせる。彼とのことがバレるはずはない。
「お前、心当たりないよな?まさか、変なアルバイトとかしてないよな?」
「やだ、してないわよ」
 食卓にデパ地下で購入してきたトンカツを並べながら答える。
夫と私は食事の好みがとても似ている。それはとても重要なことだと思う。結婚を決意した理由の一つでもある。
「なあ、もちろん、まさか、浮気、なんてことはないよな?」
「何それ」
 ぷっと吹き出してみせる。
「だって最近、お前妙にキレイになったし……妙に機嫌もいいし……」
「そう?仕事が順調だからかなあ?」
 不信気にこちらを見ている夫に肩をすくめてみせる。
「だいたい、今、仕事忙しいから、浮気する暇なんて……何?」
 いきなり怖い顔で腕をつかまれた。
「どういう意味だよ?」
「な、何が?」
「浮気する暇があったら浮気するのかよ?」
「そんな……」
 揚げ足取り……と、言い返す前に、冷たいリビングの床に押し倒された。
 失敗した。内心ため息をつく。
 キレイになったのはあなたのおかげで幸せだからよ。浮気なんて、愛するあなたがいるのにするわけないじゃない。
 ……とか答えればよかった。失敗した。
 そう考えているうちに、スカートをはぎ取られた。
「え、今、ここでするの?」
 夫は無言で私の肩を上から押さえたまま、ブラウスのボタンを外してくる。
「ね、電気消させて」
「見られて困る跡でもついてるのか?」
 一瞬答えにつまる。素早く昨日の情事を思い出す。そんなに激しいことはしていないはず。大丈夫だ。
「なんの跡?どういう意味?」
 夫は無言のまま、裸になった私の体を上から下まで目を細めて眺めている。こんなに明るい電気の下だとさすがに恥ずかしい。
「ねえ、やっぱり電気……痛っ」
 いきなり、なんの前戯もなく挿入された。夫が素早くズボンを膝まで下ろし、膝立ちの状態で私の腰を抱え込んだのだ。痛さにあえぎ声の演技さえできない。でも夫は興奮したように激しく腰を振ってくる。
 されるまま揺すぶられていたが、ふと、電話台の下に埃が溜まっていることに気が付いた。明日、台を動かして掃除機をかけようかしら。でも明後日締め切りの仕事があるから、それが終わってからにしようかな。
 そんなことを考えているうちに、夫が勝手に果てた。引き抜かれると、ボタッとリビングの床に白い液体が落ちた。
「……ごめん」
 しゅんとしたように夫が言う。それは何に対する謝罪の言葉なんだろうか? 床を汚したこと? 無理矢理SEXをしたこと?
「大丈夫」
 わからないまま答えた。なぜか夫のことがものすごく可哀想に思えてきた。
 それはそれで、夫を愛している証拠のような気もする。
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月の王子(5/12)

2008年03月04日 11時06分41秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
「気味が悪いのよ。下の階の人」
 いつもの情事の合間に話してみると、彼は「何が?」というように首をかしげた。
「私が川べり歩いて帰ってくると、必ずベランダからこっちをみてるの。逆に、こっちがお布団干したりしてると、川べりのベンチに座ってこっちを見上げてるし。毎日家にいるみたいだけど、何やってる人なのかしら」
 すると彼は、ああ、と肯いた。
「あの人、漫画家らしいよ。引っ越してきた時に管理人さんにそう言ってたのきいた」
「え、そうなの?」
 では、家にずっといてもおかしくない。こちらをぼんやりみているのも、何かアイデアを考えていたのかも知れない。そう思ったら、自分が見られている錯覚に陥っていたことが恥ずかしくなってきた。
 そう言うと、彼はいやいや、と首を振った。
「分かんないよ~。狙われてるのかもしれないじゃん。今も、下からボク達の声を盗み聞いてたりしてね」
「まさかあ」
 このあたりは、すぐ近くを大きな道路が通っているので、ひっきりなしに車の音が鳴り響いている。よほど大きな声で話さない限り、下までは聞こえないはずだ。
「今の姿、盗撮とかされてたらヤバイよね~。清楚な奥様が、隣の家の大学生の上に馬乗りになってるんだもん」
「洋服来たままだから、何してるかなんて分からない……、ちょ、まだ休憩させてっ。動かさないでっ」
 しばらく挿入したまま話をしていたのに、まったく衰えていないのは若さなんだろうか。
「全然萎えてないんだ?」
「うん。だって下から見るお姉さん、すっげー色っぽいんだもん。興奮しっぱなし」
「本当に?」
 何だか嬉しくて、顔がにやけてしまう。すると彼がポンと手を打った。
「ねえ、お姉さんが気持ちいいように動いてみてよ」
「ええ?!気持ちいいようにって……」
「お薦めは、前をこすりつける感じ」
「前をこすりつける?」
 よく分からないけれど、言われるまま体重を前よりに動かしてみた。
「あ…………」
 頭のてっぺんに電流が走る。
「あ、ボクもそれキモチイイ」
「本当に?」
 一回、二回、三回、と上下左右に揺らしてみる。その都度、心臓がギュッとなる場所に当たる。
「すっげー……いい感じ……」
 彼が目を細めて、ロングスカートをたぐり上げ、太股のあたりをまさぐってきた。敏感に反応して震えがくる。
「うわ、引き締まった。あいかわらず感度いいね、お姉さん……」
「ん……」
 軽口に返せる余裕がなくなってきた。絶頂に近づいてきているのが分かる。
「イキそう……」
 自分が主導権を握って絶頂を迎えるのは初めてだ。彼のモノが熱く大きく感じられる。彼の綺麗な顔が、苦痛と快楽にゆがめられるのを見ると、ますます奮い立たされて、腰の動きが激しくなってしまう。
 このまま、続けたい。今なら、イケる。イカせられる。
「…………くうっ」
 思わず大きく息を吐き出した。同時に彼も「ああ」と小さく声を漏らした。
「イった……」
 心臓の動きが服の上からでも分かるくらい早くて強い。息が整うのを待ってからゆっくり引き抜くと、ドロリ、と繋がっていた部分から液体が流れ出た。
「中に出しちゃった」
 彼が小さく舌をだす。
「大丈夫。どうせできないから」
 軽く首を振ってみせる。
 結婚して約一年、避妊せずに週に一度はSEXをしているのだが、子供ができたことはない。私が出来にくい体質なのかもしれない。極度の生理不順なのだ。子供好きな夫は、今すぐにでも子供が欲しいらしく、二人で検査に行きたいようなのだが、お互い仕事が忙しいため、結局そのままになっている。
「あ~気持ちよかった。旦那さんもやってもらえばいいのに」
 真剣に言われて、笑ってしまった。
「夫が相手じゃ無理だよ。君が相手だから何も考えずにできたけど……」
 言いかけて、気がついた。彼と一緒にいる時の自分は最も解放されている。
 彼の腕の中はこの上もなく居心地が良い。
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月の王子(4/12)

2008年03月03日 11時10分50秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
 それ以来、毎週土曜日、夫とのSEXが終わった後、彼はベランダにやってきた。
 彼は、平日は朝早くから学校があり、夜はバイトをしているそうで、唯一翌日朝寝をできる土曜日だけ夜更かししているらしい。
 彼の来訪を拒むことはできなかった。気が付いたら、彼が来ることを期待していた。そして、本人曰く「前に付き合っていた30歳年上のSEX上手な奥様から伝授された」という様々なテクニックに毎回翻弄された。綺麗で涼しげな顔とは裏腹に、彼のSEXは情熱的で激しく、何度も何度も何度も絶頂にいかされた。
 自分がこんなにまで性の虜になるとは思いもしなかった。彼との情事が待ち遠しくて、彼の指や彼の唇を思い出しては、自慰行為にふけることも多かった。
 でも、平日の昼間に彼に会う気にはなれなかった。それを求めたら彼はもうこなくなってしまう気がしたからだ。彼と会うのは月光の下がふさわしい。
 不思議と夫に対する罪悪感はなかった。彼との情事が夢の中の出来事のようなせいかもしれない。それに罪悪感が頭をよぎっても、私を満足させることのできない夫に責任がある、という気持ちが勝った。
 彼と密会するようになってから、女性ホルモンが活性化したのか、肌が綺麗になった。それに少し痩せた。夫には「最近キレイになった」と喜ばれている。

 土曜の昼過ぎ、玄関のインターホンが鳴った。開けると、見知らぬ男が立っていた。背はとても高く、非常に痩せている。汚らしい無精髭をはやしたあまり印象の良くない男。おまけにすごく煙草臭い。
 男は暗い声で言ってきた。
「先週、下の階に引っ越してきたものです」
 そのセリフに、奥の部屋にいた夫も慌てて出てきて挨拶をした。
 おざなりに夫に挨拶を返した後、男は言った。
「携帯を床に直接置いてませんか?」
 毎朝七時に携帯のバイブ音が響いてくる。自分は明け方まで仕事をして、七時くらいに寝るので、そのバイブ音がちょうど気になってしょうがない、と言う。
 確かに、私がアラーム機能を七時にセットして携帯をベッド下に置いている。階下まで伝って響くなんて思いもしなかった。
「すみません。これから気をつけます」
 頭を下げると、男はボソボソと「お願いします」と言いながら、ふと、私達の後方に目をやって、驚いたように声を上げた。
「お宅……」
「はい?」
 聞き返したのだが、男は慌てたように挨拶もそこそこに出ていってしまった。
 なんだったのだろう?
 男の視線の先を推測してみる。廊下の先にはリビングがある。そこに飾ってある絵のことだろうか?それともカーテン?ベランダにおいてある観葉植物のこと?
「気味の悪い奴だったな」
 夫が眉を寄せて言う。
「これから何もないといいんだけど。変なことがあったらすぐに教えろよ」
 夫の魅力はこういうところだと思う。優しいだけでなく、とても頼りになる。
「ありがとう」
 にこりと笑いかけると、夫は口をへの字にしたままつぶやいた。
「まあ、何かあったら引っ越ししてもいいしな」
「え!だ、大丈夫よ!」
 思わず叫んでしまった。
「ちょっと暗いだけで、普通の人っぽかったじゃないの。引っ越しなんてしなくて大丈夫」
 笑顔で返しておきながらも、用心しないと、と心の中で思った。
 引っ越しなんてされたら彼に会えなくなってしまう。もし、何かあっても、夫にバレないようにしなくては・・・・・・。
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