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再録・(BL小説)風のゆくえには~僕の旦那様

2017年07月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

すみません。再録です。
2017年3月21日投稿「現実的な話をします5」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます


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山崎(高校の同級生)と、戸田菜美子先生(慶の同僚で、浩介の主治医)との結婚式に、「カップル」として出席した二人。
その帰宅後の話。慶視点→浩介視点



【慶視点】


 山崎らしく、戸田先生らしく、素敵であたたかな結婚式は終始和やかな雰囲気のままお開きとなった。


「わ……ペアグラスだね」
「おお。綺麗だな」

 引き出物は有名なブランドのシャンパングラスだった。

 なるほど。おれ達をカップルとして招待したい、と言ってくれたのは、引き出物のことがあったからなのかもしれない。

「お前の方のは?」
「えと……あ、お揃いの小皿。かわいい」

 オレの方の引き出物が、他の招待客と同じもので、浩介の方のは、夫婦で列席した人達の奥さんがもらっていたものと同じで少し小さめのものだった。

(うーん………)

 カミングアウトして、早1年半……
 前々から気になっていることがある。

「お前さ……お祝儀袋の名前、おれのこと右に書いてたな」
「うん」

 祝儀袋の用意は任せっきりだったので、受付で浩介がふくさから出した時にはじめて気がついた。連名の場合、右が格上になる。夫婦の場合は夫が右。同格の場合は五十音順だ。

「同じ歳なんだから、お前の方が右じゃねえ? 桜井、渋谷って五十音順……」
「うちはさ」

 浩介は遮って、ニッコリと言った。

「慶が旦那さんなんだから、慶が右で合ってるよ」
「………………」

 やっぱりそのつもりだったからか……
 浩介はいつもそう言うけれど……今日撮った写真を客観的に見ていて、確実に他人はおれを「嫁」と思うだろう、と思ったのだ。おれの方が背が低いし、それに認めたくはないけれど、やはりおれは中性的な顔をしている。

 同性なのだから、どちらが夫とか妻とかないけれど、それでも、こういう感じにどちらがどちらなのかを決めなくてはならないことがあって……

「なあ……お前、それでいいのか? お前だって一人息子なわけだし、その……」
「んん?」

 手際よく、包装紙を畳みながら浩介が首をかしげる。

「慶、前もそんなこと言ってたよね?」
「んー………なんつーか……ほら、見た目もおれの方が……」
「慶の方が旦那さんぽいよね」
「え?」

 おれの方が?

「何言って……」
「みんなそう思ってるよ。だから山崎と戸田先生だって、おれの席の下に奥さん用の引き出物置いたんでしょ?」
「それは………」

「同性なんだから、どっちがどっちってないけど、どっちって言わなくちゃいけないときは、慶が旦那さんってことでいいと思ってるんだけど……なんか不都合ある?」
「……………」

 ない……ないんだけど……なんだろう。このモヤモヤ。カミングアウトして以来、時々こういう風にモヤモヤすることがある。

 すると浩介が「なんか……」と言いかけて、

「あ、ううん、何でもない」
「なんだよ?」

 ちょっと笑っている浩介。なんだよ。気になるじゃねーかよ。

「何一人で笑ってんだよ」
「ちょっと、思い出しちゃって」
「何を?」
「んー……」
「教えろよっ」
「あはははは、やめてっ」

 脇腹をくすぐってやると、浩介は身をよじってから、きゅっとおれの両手をつかんで、また、ふふふ、と笑った。

「あのね……高校卒業して、初めてして……」
「?」
「それからおれ達、どっちがどっちするって散々悩んだじゃん? って覚えてない?」
「あー……」

 そんなこと、あったなあ……
 はじめは両方しようと頑張ったんだっけなあ……

「それで結局、慶が『受』って決定したけど、おれはずっと、慶ばっかり痛い思いすることに罪悪感があって……」
「でも、それは」
「うん」

 ちゅっと頬にキスをくれた浩介。この上もなく嬉しそうな顔をしている。

「慶、痛いばっかりじゃない、気持ち良いって言ってくれたよね」
「……………」

 う……。恥ずかしい……何の罰ゲームだ。
 思わず浩介の肩に額を押しつけると、ぎゅうっと抱きしめられた。

「ちょっと、似てない?」
「……どこがだ」
「慶はそれでいいって言ってくれてるのに、おれが、でも、でも、って言ってたとこ」
「…………」

 ああ、なるほど……。
 確かに似てる。浩介ばかりを『奥さん』にさせることに罪悪感がある……。

 でも、おれがあの時『それでもいい』って言ったのは、本当に気持ち良いからであって……

「おれも気持ち良いよ?」
「は!?」

 なんの話だ!?
 また、ふふふと笑う浩介。意味がわからん。

「何が気持ち良い……」
「おれは慶のものですって感じが」
「…………え」

 顔を上げると、コツン、とおでこをつけられた。

「おれは慶のもの。慶だけのもの」
「…………」
「おれ、全然抵抗ないし、むしろ嬉しいよ?」
「…………」
「だいたいさ、慶はすっごく男らしいんだから、奥さんなんて似合わないよ? だから、慶が旦那さん」

 浩介はニッコリと笑うと、

「旦那様、お茶になさいますか? それともお風呂? それとも……」
「…………愚問だな」

 キスをする。そのまま、軽いキスを繰り返しながら、ソファに押し倒す。

「当然、お茶より風呂より、お前が先だ」
「ん」

 浩介は知っているだろうか。こうしてお前がおれを認めてくれることが、何より嬉しいってこと。

「あ、でも待って。スーツ、ちゃんとハンガーかけてから」
「あー」
「慶ってば」
「んー」
「もう……」

 カミングアウトする前までは起こりえなかったモヤモヤの数々。浩介を『奥さん』にすることにも、そうしなくてはならない世の中の常識みたいなものにもモヤモヤする。でも、世の中に適応していくには、このモヤモヤはガマンするしかないのだろう。

(それでも……)

 テーブルに置かれたシャンパングラスと小皿を見て思う。
 それでも、周囲に認めてもらえるということは、嬉しい。

「浩介……」
「慶」

 くすぐったそうに笑った浩介の瞳にもう一度口づけた。


-------------------


【浩介視点。その夜の話】



(ああ、やっぱりかっこいいなあ……)

 隣で寝ている慶を起こさないように、コッソリと今日撮ってもらった写真を眺めながら、一人にやにやしてしまう。
 普段は写真に写りたがらない慶も、友達と同僚のおめでたい席では、にこやかにおれの横で笑ってくれている。

(おれの『旦那さん』……)

 ふっと、帰宅後の会話を思いだし、ますますにやにやしてきてしまった。

 慶が『旦那さん』おれが『奥さん』というのは、「おれは慶のものって感じがして嬉しい」と慶には答えたけれど、本当は他にも理由がある。

 慶は、イケメンでスポーツ万能で社交的で友達もたくさんいて、とにかく何もかも完璧な人だけれども、一つだけ、コンプレックスがある。

 それは、背が低めで中性的な顔立ちをしていること。
 子供の頃は、その容姿をからかってきた相手には、それ相応の報復をしていたらしい(慶はこの容姿を裏切って、喧嘩がめちゃめちゃ強いのだ)。

 慶が言葉使いが悪いのも、やたらと体を鍛えるのも、おそらくそのコンプレックスのせいなんだと思う。

 だからこそ、おれは絶対に慶を女扱いしない。
 まあ、本当に男らしい人だから、女扱いをするなんてありえないんだけど(学生時代、ラブホに行くときに女の子のフリをしてくれたことはあるけど、それは慶が自ら買ってでてくれたことだ)、ほんの少しでもそんな素振りをしないように気を付けてきた。

(ほんと綺麗な顔……)

 慶の頬を優しく撫でる。

 男のおれの『旦那』であることで、慶のそのコンプレックスが少しは和らいでるに違いない……と思うのはおれの傲りだろうか。

 おれが「慶は男らしい」「慶が奥さんなんてありえない」とか言うと、慶はくすぐったそうな嬉しそうな顔をしてくれる。おれはその慶を見るだけで、どうしようもなく幸せな気持ちになる。

(おれの存在は、少しでも慶の役に立ててるかな……)

 その形のよい唇を指でそっと辿る。

(そのためなら、おれは何にでもなるよ?)

 大好きな大好きな慶。慶と一緒にいられることが、慶が笑っていてくれることが、おれの幸せ。そのためなら、おれが何者であろうと関係ない。

 それから……もう一つ理由がある。
 それは、『男避け』。

 慶はやはり見た目は小柄で綺麗な顔立ちをしているので、抱かれる側と思われてしまって……(昔、慶に迫って、のされた奴もいたな……)

 以前、同級生達がふざけて「渋谷だったら抱けた」と言ったことに頭にきて、「おれが奥さんだよ」と言ったのだけれども、それ以来、みんな慶を『旦那』と見てくれるようになった。万々歳だ。

(本当は、この男らしい人が、おれの腕の中ではあんなに乱れてあんなに色っぽくなっちゃうんだけどね……)

 今日の帰宅早々の事を思い出して、さらにニヤニヤが止まらない。ツーッとその滑らかな頬を手の甲で撫でていたら、

「…………眠れないのか?」
「あ…………」

 目は閉じたまま、慶がボソッといった。慌てて手を離す。

「ごめん、起こした?」
「そりゃ、これだけ撫でまわされたら起きるだろ」
「…………ごめん」
「ん」

 すいっと温かい腕が伸びてきて、頭を抱き寄せてくれた。腕枕だ。

「いいから寝ろ。明日仕事だぞ」
「うん……」

 額にキスをくれて、無意識のように頭を撫でてくれる。

(ああ……幸せ)

 すぐに聞こえてきた慶の寝息に引き込まれ、おれも幸せな眠りに落ちた。大好きな慶の腕の中で。


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お読みくださりありがとうございました!
一度書いておきたかった、どうして浩介が『奥さん』にこだわるのか、のお話でした。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~何の日?

2017年07月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

すみません。再録です。
2017年3月17日投稿「現実的な話をします4」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



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☆慶視点。11月3日まで2週間弱のある夜のこと……



 おれがベッドに入ると、浩介は読んでいた本を脇に置いて、ニッコニコで言ってきた。

「問題です!11月3日は何の日でしょう?!」
「…………」

 おれの彼氏は世に言う『アニバーサリー男』。記念日が大好きだ。
 でも、本人の中ではだいぶ押さえているそうで、なるべく言わないことにしているらしい。(うるさく言うのは、付き合った記念日の12月23日だけだ)。
 でも、時々こうして言ってくるので、その度におれはウンウン唸ることになる。

(これ、毎年言ってくれたら覚えられるのに、時々しか言わないから覚えられないんだよなあ……)

 とも思うけど、毎年言われるのも面倒くさいから、まあいっか……なんて思っていたら、

「今、面倒くさいって思ったでしょ!」
「え」

 ズバリ言われて「いやいやいや」と慌てて手をふる。

「そんなことはないぞ。えーっと、11月3日な……、ああ簡単じゃん」

 これはさすがに覚えてたぞ! 去年言われたばかりで、去年したばかりだからな。

「初めてキスした日。それから、結婚式の写真を撮った日、だろ?」
「それから?」
「え?」

 にっこりと先を促されて、ウッと詰まってしまう。それからってまだ何かあんのかよ……

「それからって……」
「ヒントは、慶がおれに初めてあることを言ってくれた日です」
「あること?」

 おれ、何か言ったか?

「あることって……」
「………覚えてないの?」
「…………」

 全然わかんねえ……

 うーん……と唸っていたら、浩介は「まあ、覚えてないよね。覚えてないと思ったよ」とブツブツいってから、「じゃあ、おやすみ」と、電気を消した。

 ……………。

 気になるじゃねーかよーーー!!!

「……浩介」
「…………」

 無視すんなっ!

「答え教えろよっ」

 ガシガシと足を蹴ってやると、浩介はようやくこちらに体をむけた。そして、ふわっと包み込むように抱きしめてくれて……

「……愛してるよ」
「………っ」

 耳元で低い声でささやかれて、心臓がドクンと跳ね上がる。

(うわ……っ)

と、思ったのと同時に、思い出した。それだ……

「浩介……」
「………」

 コツン、とおでこを合わせてやる。

「愛してるよ?」
「………うん」

 プッと二人で吹き出してしまう。

 そうだった。11月3日は、初キス記念日で、結婚写真記念日で、それから「初めて愛してると言った記念日」。


「愛してるよ……」
「ん」

 溢れる愛しい気持ちを伝えながら、そっと唇を合わせる。

 11月3日まであと2週間弱。忘れないようにしないとだ………



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再録・(BL小説)風のゆくえには~一緒の空間

2017年07月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

すみません。再録です。
2017年3月14日投稿「現実的な話をします3」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます


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☆高校の同級生・溝部が、鈴木さんの息子陽太君と楽しそうにゲームをしていたことがちょっと羨ましい浩介。
その他の友人たちカップルの様子も見ていて、思うことがあったようです。



【浩介視点】


 溝部と陽太君がゲームをしているのを見て、やっぱりちょっと羨ましいな、と思う。

 と、いうのが、おれと慶には共通の趣味が一つもないからだ。

 高校時代は「バスケ」という共通点があった。でも、正直、おれはバスケがすごく好きだったわけではなくて……自分の中にあった「高校3年間バスケ部」という目標を達成したら、もうバスケへの情熱は冷めてしまった。以前勤めていた高校ではバスケ部の顧問をしていたけれど、それはプレーヤーとしてではなく、監督としてだったので、それはそれで面白くはあったけれど……

(おれといて楽しいのかなあ?)

 そんなことを時々考える。
 山崎と戸田菜美子先生は、映画の好みが合うそうで、よく一緒に映画を観に行ったり、ビデオを借りてみているらしい。
 鈴木さんの親友の小松さんとその旦那さんは旅行が趣味で、月に一度は小旅行、年に一度は海外旅行、と決めているそうだ。

 おれと慶は、映画の好みも違うし(慶はアクション物が好きだけれど、おれはヒューマンドラマが好き)、旅行も、慶は食べる系、おれは歴史系。唯一、温泉でのんびり、は二人とも好きかな……

 こうして家にいても、おれは本を読んでいることが多いけれど、慶はテレビを見ていたり、仕事をしていたり、筋トレをしていたり……

「何? どうかしたのか?」
「あ、ううん……」

 ソファーに座って本を開きながら、慶が柔軟をしているのをぼんやり眺めていたら、終わったらしい慶に声をかけられ我に返った。

「あいかわらず体柔らかいなあと思って……」
「そりゃ毎日の積み重ねだ。お前も毎日やればこんくらいになるぞ」
「あ、耳が痛い」

 大袈裟に眉を寄せると、慶はクスクス笑いながら、テレビをつけて、おれの横に座った。いつも見ているニュース番組のスポーツコーナーの時間だ。でも、

「もし寝たら起こしてくれ」
 そう宣言すると、体をずらして、おれの膝にとん、と頭を預けてきて……

(膝枕、だ)
 今さらながらキュンとなる。読んでいた本を閉じて、ゆっくり慶の頭を撫でる。

「寝たら起こしてって、寝る気満々じゃん」
「いや、寝ない。寝ないぞ」

 言いながらも目がつむりそう……。愛しい気持ちでいっぱいになりながら頭を撫で続けていると、

「あー……」
 CMを見ながら、慶がボソッとつぶやいた。

「お前がいるっていいなあ……」
「……え?」

 聞き返すと、慶はおれの膝を撫でながら、しみじみ、というように言った。

「こういうの、至福の時っていうんだろうなあ」
「慶……」
「あ、はじまった」

 パチッと目を開けた慶。興味のあるニュースらしく、真剣に見ている。

(………至福の時、だって)

 お前がいるっていいなあって……
 慶は、おれが「いる」だけでいいんだ……

 おれも慶がこうしていてくれるだけで、それだけで、幸せ。

 閉じていた本を左手で開いて、読書を再開する。右手で慶の頭を撫でながら。

 二人、違うことをしていても、同じ空間にいられるだけで、それだけで幸せだ。




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お読みくださりありがとうございました!
趣味の違う2人、でも一緒にいられるだけで幸せ^^

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再録・(BL小説)風のゆくえには~王子の探知機

2017年07月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

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2017年3月10日投稿「現実的な話をします2」の「おまけ」のみ。
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☆「高校同級生・溝部実家でのバーベキュー大会で、溝部君、片思い中の鈴木さんの息子と仲良くなりました」の後のお話。浩介視点




 バーベキューから帰ってきてから、腹ごなしのために二人でスポーツクラブに行った。

 4キロ泳ぐ慶には付き合っていられないので、おれはいつものように一人でユルユルと水中ウォーキングをして、マッサージプール、サウナ、ジャグジー……と転々としていたんだけど……ジャグジーの中で、はしゃいだ女性たちの声が聞こえてきた。

「みてみて! 今日、王子いる~ラッキー!」
「あ~今日もかっこいい~~」
「やった!こっちくるよ!」

 ………。

 日に日に渋谷慶王子ファン増えてるような……

「こんばんは~♥」
「こんばんは~~♥」

 その30代くらいの女性たちに♥つきで挨拶された慶。水泳帽を脱ぎながら、「こんばんは」とにっこり返していて……

(あーもー、どんだけかっこいいんだ……)

 毎日見ているおれでさえ赤面してしまうイケメンっぷりに、女性二人もきゃあ♥と声をあげてしまっていて……

(いや、気持ちはわかる。わかるよ! この顔!この体!抱かれたい!とか思うでしょ~?)

 ふっと笑ってしまう。

(まあ、残念ながら、この人、おれだけのものだけどね。しかもおれが抱いてるんだけどね……)

 ふっふっふっ……と笑いを押さえきれず、ジャグジーの水の中に口元まで沈んでいたところ、

「お前、何やってんの?」
「…………」

 ご本人様が、一人分のスペースを空けておれの横に座った。さっきの女性二人も、少し離れたところにいるため、念のため「友達」の距離を保っているのだろう。

「何ニヤニヤしてんだよ?」
「えーっと……」

 本当のことを言ったら恐ろしいことが起こるので、無難な返事をしておく。

「いやー、今日、溝部、頑張ってたなーと思って」
「だなー。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』ってのミエミエだったけどな」
「まあねえ。雨のおかげで陽太君もはじめからこられて良かったよね」
「すっかり仲良くなってたよな」

 溝部があんなに用意周到な奴だとはちょっと意外だった。前もって小松さんから陽太君の情報を聞き出していて、今日はグローブと携帯ゲーム機まで用意していて……。まあ、溝部は元々、本当に野球もゲームも好きなので、苦はなかったようだけど……

「いやー、でも鈴木的にはどうだったんだろうなあ?」
「来たときと何も変わらず帰っていったよね……」
「なあ……」

 うーん……と二人で唸ってしまう。

「大変だよなあ。これから恋愛って……」
「だよねえ……」

 以前にもしたことのある会話だ。この歳になってからはじめる恋愛は大変だって。

「おれ、ほんとに無理って思った」

 慶はしみじみ、といった感じに呟いた。

「高校時代、頑張っておいて良かった」
「!」

 ちょん、と腿のあたりにくすぐったい感触。慶の足の指……。パッと横を見ると、慶が照れたようにうつむいていて………

(うわ、かわいい……っ)

 抱きしめたい……っっ
 と、思ったら、バサッと慶が立ち上がった。

「じゃ、おれ、もうちょっと泳いでくる」
「う、うん……」

 か、顔のニヤケがおさまらない……
 慶の完璧な後ろ姿を見送りながら、再度ブクブクと水中に沈む……

「あ、王子行っちゃった」
「あの人、王子の知り合いなのかな?」
「ちょっと話しかけてみる?」

 こそこそと話している女性二人の声が聞こえてきて、

(……面倒だな)
 話しかけられる前にジャグジーを出た。

 まあ、おれに何を聞いたところで、残念ながら、王子とその先には進めないけどね。
 だって、王子はおれしかみてないから。おれだけの王子だから。

「…………あ」
 水中ウォーキングのレーンに入ろうとしたところ、コースの折り返しにいた慶が即座におれに気がついて、ニッと口の端をあげた。

 ほら、やっぱりおれしか見てない。

 慶は昔からそうだ。おれがどこにいても、すぐに探しだしてくれる。

 綺麗なフォームで泳ぐ慶を横目で見ながら、ゆっくりと水中を歩く。
 この人はおれのもの。おれだけのもの。そんな幸せな気持ちに包まれながら。


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お読みくださりありがとうございました!
慶にはレーダーついてます。浩介探知機。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~観賞物の実用品

2017年07月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

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☆「高校同級生達との家飲み」後のお話。慶視点。



 ふっと目を覚ますと、じーっとこちらを見ながら何か飲んでいる浩介の姿が目に入った。

「………あれ? みんなは?」
「もう帰ったよ?」
「あー、また寝ちゃったのか、おれ……」

 最近、どうも酔いが回るのが早い。家なので安心感があるせいかもしれないけど……

「お水飲む?」
「いや、いい。……お前何飲んでんの?」
「これ。昨日実家から貰ってきたやつ」

 ウイスキーの瓶がテーブルに置いてある。昨日浩介の実家に行ったときに、お中元のお裾分け、といってお母さんがくれたのだ。

「慶もいる?」
「…………」

 軽く首を振ると、そう?といって、浩介は再びグラスに口をつけた。おれは寝そべったままなので、浩介が斜めに見える。斜めの浩介は、まだ目を細めておれを見ている。

「何?」
「ん?」
「何見てんだよ?」
「えー?」

 嬉しそうに笑った浩介。

「ほんと、綺麗な顔してるなあと思って観賞してたの」
「観賞?」
「そう。昔、美術部の浜野さんが『渋谷慶は観賞物』って言ってたんだけど、なんかそれ思い出しちゃった」
「……は?」
「いや~も~この顔を独占して観賞しながら飲むお酒は最高です」
「…………。なんだそりゃ」

 変な奴。あいかわらず変な奴だ。
 浩介はニコニコという。

「見てていい?」
「……やだ」
「えー」

 なんでーケチー、と、間延びして言う浩介にちょいちょいと手招きをする。

「なにー?……わっ」
 近づいてきた浩介の腕を掴んで引き寄せる。

「おれは観賞物じゃねーよ」

 そして、噛みつくみたいなキスをしてやる。

「おれは実用品だ」
「ん」

 もう一度キスをする。
 見てるだけ、なんて許さない。ちゃんと触れて、ちゃんと包み込んで、一緒にいるって感じさせろ。

「慶」
「…………浩介」

 愛しそうにおれの名を呼んでくれる浩介を、ぎゅうっと抱きしめた。



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お読みくださりありがとうございました!
『ウイスキーをチビチビ飲みながら、慶の寝顔を眺めてニヤニヤしてる浩介の図』が書きたくて書きました。
『渋谷慶は観賞物』と浜野さんが言った話は、『巡合2-2』。まだ浩介が慶を親友としか思ってない時代。青春の高校二年の文化祭♪

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