創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係31

2019年01月11日 07時42分12秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 クリスマスの朝の起床後、若干、気マズイような顔をした村上哲成だったけれども、すぐにいつもの調子に戻った。おそらく『アレ』は、すべてオレの寝ぼけた末の行動だった、とでも解釈することにしたのだろう。

『アレ』とは……

 膨張した股間を村上の臀部あたりにグリグリと押しつけながら、村上を後ろから抱きしめた……ってことだ。

 …………。

 …………。


(なんであんなことしたんだ……)

 自分でも頭を抱えたくなっている。


 そもそも、眠る前に、思わず村上の額にキスをしてしまったのもオカシイ。

 そして、翌朝、村上の気配がすぐ近くにあることに気が付いて、なぜかすごく幸せな気持ちになったこともオカシイ。

 それから、村上が松浦暁生の寝ている方へ身を寄せようとしているところを目撃して、カッとなって、強引に村上を抱き寄せて……その温もりを感じたら、なぜか勃ちあがってしまったことも、オカシイ。

 それだけでなく、欲望のままに、そのままグリグリとその猛りを村上に押しつけながら「ここにいろ」と引き留めた……なんて

(どういうことだ、オレ……)

 頭を抱えたくなってくる。
 途中で我に返って、抱きしめていた手をどかしてやると、村上は慌てたように部屋から出て行ってしまって……


 それからはまた眠れなかった。悶々としながら布団の中で待機し、約束していた起床時間に、隣の松浦暁生を起こして、一緒にリビングに下りて行くと、村上は朝食の用意をしてくれていた。

「おはよー」
「おお」

 村上のちょっと気マズイ顔をした挨拶に、軽く手を挙げ、得意のポーカーフェイスで答えると、村上は安心したように笑った。

 笑ってくれて、ホッとしたような、ガッカリしたような………

(…………なんなんだ)

 もう、本当に、訳がわからない。



 その朝、松浦暁生とオレが一緒に登校したことは、それなりに話題を呼んだようだった。

「仲直りしたんだ?」
「まあ……うん」

 学級委員で作成した掲示物を教室の壁に張りながら、西本ななえの問いかけに適当にうなずいていると、ふ、と視線を感じた。視線の主は村上だ。

 そういえば、昨晩、

『西本って、キョーゴのことが好きなんだと思うんだけど』

と、言われたんだった。まだ疑っているのだろうか。西本が好きなのは村上本人なのに………

(まあ、そんなことは教えてやらないけど)

 先日、西本が村上の頭を撫でていたことを思い出してモヤモヤしてくる。村上は、恋愛が分からないと言っていた。西本みたいな強引な女子にかかったら『気がついたら付き合うことになってた』なんてことになりかねない。オレが守ってやらないと……

(…………ん?)

 そこまで思って、考えをストップさせる。

 何言ってるんだオレ?
 守るってなんだ? なんでオレが?

と、また頭を抱えたくなっていたところ……

「!」

 いきなり、後ろから腕を掴まれた。振り返って、心臓が止まりそうになる。村上……っ

 でも、そんなオレの様子には気がつかないように、村上は、なぜか口を尖らせて、小さく言った。

「………近い」
「は?」

 近い?

「何……」
「近すぎる」
「?」

 何の話だ?

「だから………」
「……………」
「……………」
「……………」

 無言でそのまま腕を引っ張られ、一歩、二歩、後ろへ下がる。遠ざかる西本。

(近いって………)

 西本のことか? それは………

(オレが西本に近いのが嫌なのか? それとも西本がオレに近いのが嫌………?)

 なんてことを咄嗟に思って固まっていると、西本がムッとして言った。

「ちょっと、テツ君。邪魔しないで。あと2枚張るんだから」
「ん」

 その西本に、村上が手を差し出している。

「オレが張ってやる」
「……………」
「ほら」
「……………」

 西本はしばらく目をパシパシさせていたけれど、

「じゃ、よろしくね」

と、残り二枚のプリントを村上に渡して席に戻っていった。何か言いたげだったのは気のせいではないだろう。視線がまたこちらを向いている。

 残されたオレも、作業をしている村上の横顔をジッと見てしまう。

(村上……何を考えてる?)

 口を尖らせたままの村上。何を考えているか分からない。けど………

(何か……かわいい)

 思わず、頬がゆるんでしまう。
 それに気がついたように、村上が、更に口を尖らせて睨んできた。 

「なに見てんだよっ」
「……いや」

 何とかポーカーフェイスを取り戻して、持っていた画ビョウを渡す。と、

「………っ」
「!」

 手が触れて、お互い火がついたみたいに飛び離れた。

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」

 何やってんだオレ達。

 変だ。やっぱり、変だ。

 もう、本当に、訳がわからない。



 でも、なんとなく浮かれているという自覚はあった。こんな風に気持ちが高揚することがあるなんて思いもしなかった。

 だから……

 正月明けに母が行方不明になったのは、オレが浮かれていたから、バチが当たったんだ、と思った。



----


お読みくださりありがとうございました!
寝坊のため20分遅刻m(__)m
本当はもう一つエピソードあったけど、これ以上遅刻は嫌なので次回に持ち越しっ
次回、火曜日もどうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係30

2019年01月08日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係
【哲成視点】


 クリスマスの朝。
 久しぶりに目覚めが良かった。ぐっすり眠れた感じがする。やっぱりソファでは熟睡できていなかったんだ、と気付かさせられた。

(………今、何時?)

 眼鏡をしていないから世界がボヤけているものの、辛うじて壁掛け時計の針の位置は分かる。

(まだ6時半か。あと一時間眠れる………、と)

 時計から視線を下ろしたら、床にひかれた二組の布団で、松浦暁生と村上亨吾が並んで寝ている姿が目に入って、笑いそうになってしまった。

(そんなに離れようとしなくてもいいのに)

 お互いなるべく近づかないようにと思ったのか、端と端の限界まで寄っているところが可笑しい。暁生にいたっては、背を向けて、足が少し布団から出ているくらい端に寝ている。暁生は180センチ、村上亨吾は175センチあるので、布団の縦もギリギリな感じだ。

(………懐かしいな)

 昨年のクリスマスは、暁生の家で暁生と暁生の弟の間で寝たのだ。その前もそうだった。そのずっと前は、母が隣にいた……

(……………)

 何となく寂しい気持ちになって、二人の間に潜り込んだ。端と端に寄っているから、間はちょうど一人分空いている。両方から4分の1ずつもらった布団は、はじめは冷たかったけれど、すぐに温かくなってきた。

(………村上、亨吾)

 ふ、と、右を見る。
 昨晩、無理矢理オレをベッドの中に引き込んだ村上亨吾。確かに寝てしまえば、今まで何を怖れていたのだろう?と不思議に思うくらい、何もなく、ベッドは寝心地が良かった。奴にはそれが分かっていたのだろうか。

 初めてみる村上享吾の寝顔。眼鏡がなくてよく見えないから、そっと顔を寄せてみる。と、ふわりと良い匂いがしてきた。

(………同じ匂い)

 昨日、うちの風呂に入ったから、うちのシャンプーの匂いがする……

 村上享吾はピクリともせずに寝ている。
 こいつは寝ているときも澄ました顔してるんだな……

 今度は左隣を見る。

(暁生、ちゃんと帰ってきたんだ……)

 暁生は昨晩、彼女と過ごすからと言って、出ていってしまったのだ。でも約束通り朝には帰ってきたということだ。

(…………。お風呂どうしただろう?)

 パジャマで寝てるけど、うちのに入ったのかな? それとも、その彼女とホテルにでもいったのかな……

 先ほど村上亨吾にしたように、暁生に顔を近づけて匂いを嗅ごうとした。

 その時。

「!?」

 いきなり後ろに引っ張られて、驚いて声をあげそうになってしまった。いつの間に、首の下と腰の上に村上亨吾の腕が回っている。

(………キョーゴ?)

 なんだ? 寝ぼけてるのか?

 振り返りたいけれど、強い力で羽交い締めにされているので動くことができない。

(まあ………いいけど)

 村上亨吾の腕の中はいつも居心地がいい。今も背中から伝わってくる体温が温かくて気持ちいい。ちょっと首のところが苦しいけれど、あと一時間、このまま腕枕されながら寝ればいいか。

 そんな呑気なことを思ったのだけれども……

「………っ」

 なんだ……?

 尻から太股のあたりに当たっている感触に気がついて、固まってしまった。

(…………。朝勃ち?)

 村上亨吾には今まで何度か抱き締められたことはあるけれど、こんな固い感触を感じたことは一度もない。昨晩だってかなり密着していたけれどこんなことはなかった。

(うわ……気まずい……)

 これ、村上亨吾が起きたら絶対気まずいだろ。かわいそうだろ……。なんとか起きる前に腕から抜け出してやらないと………

(うーん………とりあえず、この肩に回ってきてる腕を持ち上げて……)

と、ゴソゴソと動きながら、村上亨吾の手首を掴もうとした、ら、

「!」

 逆に手を掴まれてしまった。肩からは手は外れたけれど、手を繋がれてしまったので、状況は変わらない………

 でも、上半身は少し動くようになったので、なんとか少しでも離れてやろうと、モゾモゾしてみる。と、ますます下半身の密着度が……っ

(うわ……っ)

 どうしよう。これ、恥ずかしい。絶対恥ずかしいっ。どうしよう……どうしようっ。

 と、その時。

「………っ」

 繋がれた手が意思を持ってギュッと握られた感じがして、ドキッとする。

(まさか、起きてるのか……?)

 振り返ることもできず固まっていると、再び手がギュッギュッと握られ、腰に回された手にも力が込められた感じがした。

 そして………

「……………村上」
「!」

 耳元に聞こえてきた低い声に、なぜか心臓がドキンと跳ねあがり、カアッと顔に血が集まってきて、戸惑う。

 何………

 ますます体を固めていると、

「…………そっちに行くな」
「え」

 再び腰に回された手に力が込められた。さらに密着してしまい、焦って身じろぎをする。と、

「行くな」
「…………っ」

 再びの低い声に、顔だけでなく、体の中まで熱くなったのが分かった。

「……………」
「……………」

 ドキンドキン、と、心臓の音が伝わってくる。村上亨吾の心臓なのか、オレの心臓なのか分からないけれど、いつもより速いし、鼓動が大きい……

「……………ここに、いろ」
「……………」
「……………」
「……………」

 村上亨吾の息づかいが、耳に響いてくる……

 何とかコクンとうなずくと、繋いでいた手を離され、頭に手が回ってきた。ポンポンと撫でられる。後頭部に村上亨吾の唇が当たっているのが分かる。

(うわ……………)

 なんだこれ………

(これじゃ、まるで………)


 恋人みたいじゃないか。


 ……………。

 ……………。


 何いってんだ、オレ。


(村上亨吾は男だし。そんなこと思うなんて、変だ)

 変だけど………

(そういえば、こないだ西本とそんな話したな………)


『テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?』
『んなことあるわけないだろっ』

『じゃ、享吾君のことは?』
『んなこと考えたこともないっ』


 ……………考えたことない。ない、けど……


 これは、何だ。

 背中から伝わってくる温もりの居心地の良さ。と、同時に、それとは正反対の、全身心臓になったみたいな落ち着かなさ。

 そして………

 村上亨吾の大きな手と息づかいと、押し付けられた固くて熱い滾りにつられるように、オレの……オレのものも兆しそうになることを、必死に堪えている事実を……

 なんて説明すればいいんだ?



----------



それは恋かもしれないよ♥

と、いうことで。
お読みくださりありがとうございました!
次回、金曜日もどうぞよろしくお願いいたします!


ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~新年がくる2

2019年01月04日 07時26分57秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

前回投稿した『~新年がくる』で、慶君が落ち込んだままなのが気になったため、続きを追ってみました。

慶と浩介の高校時代の同級生、溝部視点でお送りします。



---


『風のゆくえには~新年がくる2』


 1月3日。高校時代の同級生・渋谷慶と桜井浩介がうちに遊びにきた。お祝いを持って!

 はい。そうです。お祝いです。
 奴らと同じく高校時代の同級生・鈴木有希と、鈴木の息子の陽太と、オレが家族になったのは、1年9ヶ月ほど前のこと。

 そして、先月12月1日。無事、我が家に家族が増えたのです!

 この日はちょうど土曜日で、オレがはじめからずっと付き添えたので、鈴木は「陽太の出産の時よりも精神的にすごく楽だった」そうだ。いつもの3倍は「バカ」とか「ウルサイ」とか言われたけど、それで楽になったというのなら、言われた甲斐があったというものだ。

 名前は、鈴木と陽太と3人で考えた。

 オレが、祐太郎(ゆうたろう)
 鈴木が、有希(ゆき)
 息子が、陽太(ようた)

と、偶然、イニシャルが全員「Y」なので、「Y」の名前、というのを条件に考えに考えた結果、

『溝部よつ葉』

と、決めた。女の子らしい可愛い名前だ!

 生まれたては猿みたいだという話をよく聞くけれど、よつ葉はそんなことはなく、生まれた時から抜群に可愛かった。そして今やどんな辛口な奴であろうとも可愛いとしか言えない可愛さだ。


「確かにかわいい」
「鈴木さんに似てるね」
「溝部の要素がないな」
「だね」

 バカップルが揃ってうなずきあってるけれど、今日のオレは怒らない。鈴木に似た方が美人になることはオレが一番よく分かっているからだ。それに……

(こいつら……なんか変だな)

 会った時に感じた違和感は、時間がたつにつれ色濃くなっていく。

(ケンカでもしてんのか?)

 なんか遠慮しあってるというか……とにかくいつもと違う。


 気になることは、確かめないと気がすまない性分のオレ。

 桜井が、陽太の冬休みの宿題を見てくれるために陽太の部屋に行き(桜井は学校の先生なのだ)、鈴木がよつ葉の授乳のために鈴木の部屋にこもった隙に、渋谷にぶっちゃけて聞いてみた。

「お前ら、ケンカでもしてんの?」

 はじめは否定した渋谷だったけれど、オレが「いつものお前らと違うぞ?」としつこく聞いてみたところ、ポツポツと話し出した。

「今、仕事忙し過ぎて、あいつとの時間を取れなくて……」

 渋谷は普段、自分の話をしないので、こんな風に素直に話すのは大変珍しい。たぶん誰かに聞いてもらいたいという気持ちがあるのだろう。

「あいつは大丈夫って言ってくれてるけど、また無理させてるんじゃないかって思って……。かといって、仕事しないわけにはいかないし………」
「……………」

 ……………。アホらしい悩みだな。

 一瞬、「そりゃ、お前の考えすぎだ。いい大人が何いってんだよ」と、一刀両断に言い切りそうになったけれど、ギリギリ踏みとどまった。 

(「また」無理させてる?)

 その言葉に引っ掛かった。

「『また』って、前例があるってことか?」
「ああ……………うん」

 言いにくそうにうなずいた渋谷。

「前の時は、おれ、まったく気がつかなくて……。ある日突然……」
「キレた、とか?」
「まあ…………うん」
「……………」

 何となく、想像できた。桜井は尽くし体質な分、言いたいこともためこんでしまう感じがする………

「でも、今は大丈夫って言ってるんだよな?」
「うん………」
「……………」
「……………」

 だったら悩む必要ないだろ、と笑い飛ばしてやりたい気もするけれど、そんな雰囲気でもなくてオレも黙ってしまう。

(仕事が忙しい時、かあ……)

 自分に置き換えてみる。鈴木も仕事で数日帰ってこない、ということもあった。でも、特に心配にもならなかったのは、ちょくちょく連絡をくれたからだろうか(ただし、内容は陽太のことと家事のことばかりだけど)。

「お前、その仕事忙しい時って、桜井に連絡入れてる?」
「いや……しようかな、と思うんだけど、なかなか時間が取れなくて」
「でも、便所くらい行くだろ? って、超人渋谷は便所も行かねえのか?」
「なんだそりゃ」

 渋谷はようやく表情を崩して、首を振った。

「行くけど、すぐ戻らないととかで、電話かけたりメール打ったりする余裕は……」
「あ、そうか」

 その言葉で思い出した。渋谷はなぜか、かたくなにラインをやらないのだ。だからグループラインでやり取りするときは、桜井が2人分引き受けている。

 そうだ。ラインだライン。

「お前、ラインやれ」
「え」

 キョトンとした渋谷。

「ラインだったら簡単に連絡できるようになるから」
「…………」

 渋谷は目をパチパチさせたままだ。こいつホント美形だよな……と感心してしまう。あ、いや、感心してる場合じゃなかった。

「とにかくラインだライン」
「えー……メールと同じようなもんだろ」

「いや、全然違う。もっと簡単。ラインだったら、10秒あればスタンプ一個送れる。さすがに10秒くらい時間あるだろ」
「…………」

「他とやるのが嫌だったら、設定する時点でアドレス帳と同期させないようにすればいいだけの話だから」
「…………」

「とにかく、やってみろ。たぶんそれでお前の悩みは半減される」
「…………」

 渋谷は、ボソッと「意味わかんねえ」と言いつつも、コクリと肯いた。

「……やってみる」
「おお。そうしろそうしろ」

 そんなことを言っている間に、鈴木とよつ葉が戻ってきて、桜井と陽太も戻ってきたので、その話はそこで終わった。


 でも、その日の夜……
 渋谷から友達申請がきた。『ありがとう』というメッセージ付きで。


 これで悩みが解決できるかどうかは知らないけれど、たぶんすこしはマシになるんじゃないだろうか。

 桜井が渋谷に、自分が言ってもらいたいラブラブな言葉のスタンプをプレゼントしてる姿が目に浮かぶようだ……。今度二人に確認してみよう。



----

お読みくださりありがとうございました!
5分遅刻失礼しましたっ。オチも何もない小話でm(__)m

次回火曜日もどうぞよろしくお願いいいたします。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでどうにか今日も更新できましたっ。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~新年がくる

2019年01月01日 08時27分24秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

あけましておめでとうございます。
今年も週2回(火・金)の更新を予定しています。お付き合いいただけたら嬉しいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年一発目の火曜日は、ちょうど一月一日。
ということで、連載をお休みして、本日は「風のゆくえには」シリーズ本編主人公:慶と浩介の現在のお話を短く書かせていただきます。

現在、慶と浩介は、44歳。わ~~もう44歳なんですね~~。

この二人、高校二年生の12月23日から付き合いはじめました。
それから山あり谷あり(浩介が慶を置いてアフリカに行ってしまったのは2003年のことでした……)ありましたが、現在は日本で一緒に暮らしています。
慶は小児科の医師、浩介はフリースクールの教師です。

そんな二人の現在を、浩介視点でお送りします。



----


『風のゆくえには~新年がくる』



 年越し蕎麦のつゆも作った。かき揚げも、本当は揚げたてがいいけれど、慶の帰りが何時になるか分からないから、もう揚げてしまった。蕎麦はさすがに、慶が帰ってきてからゆでるようにして……

「あ、七味」

 七味唐辛子がもうすぐなくなることを忘れていた。今回の分くらいは足りる気はする。でも、なくなるかも、と気にしながら使うのは嫌だな……
 慶に連絡して「帰りに買ってきて」と頼んでもいいけれど、疲れている慶に余計なことはさせたくない。

「買ってこよっと」

 そう判断して、急いで身支度をして家を出た。
 この判断のせいで、慶を苦しめることになるなんて、思いもせずに……


**


 慶はここ数週間、すごく忙しい。
 なんでも、幼稚園生の男の子が、待合室で診察の順番を待っている間に意識を失って倒れ、急遽、慶が同行して救急車で提携先の病院に連れていって……ということがあったそうで。
 慶は、自分の病院での仕事が終わったあとに、その子が入院している病院に毎日行っている。早々に命の危険がある病気ではないけれども、治るには長く時間がかかる病気だそうで、退院後は、慶の病院で診てもらうことを、ご家族が希望しているそうだ。

 慶はここ最近、毎晩、その病気の資料を難しい顔をしながら読んでいる。英語の論文を真剣に読んでいる姿を見ていたら、

(高校生の時は、英語の長文読むの、あんなに嫌がってたのになあ……)

と、懐かしいことを思い出してしまった。人は変われば変わるものだ。そういうオレだって、あの頃はあれだけ人と接することを恐れていたのに、今は対人の職業についている。変われたのは慶のおかげだ。


 2018年12月31日。平成最後の大晦日。

 慶は朝からその男の子が入院している病院に行ってしまったため、おれは大掃除の仕上げをして(といっても、普段からわりとこまめに隅々まで掃除をしているため、年末だからといって、特別大変なことはない)、年越しそばの用意をして、七味唐辛子を買うために家をでた。せっかくスーパーにきたのだから、他に買うものないかなあ……とのんびりとあちこち見て回って、結局、七味唐辛子と慶の好きな小さなシュークリーム12個入りを一袋買って……


「あれ?」
 帰ってきたら、鍵が開いていて驚いた。電気もついている。

「慶?」
 思ったよりも早かったなあ……なんて呑気なことを思いながら、リビングに入っていって……

「……!」

 ハッとして、足を止めた。

「………………慶?」

 ダイニングテーブルとソファの間の、何もないところに、ペタンと慶が座りこんでいる。コートを着たまま、沈みこむように。電気はついているのに、慶の周りだけ暗い……

「慶………?」

 そっと声をかけると、慶はビクッとして……ゆっくりとこちらを見上げた。

「……………………浩介」
「!」

 ハッとするほど、儚げな瞳。

「慶……?」
「……………」

 とりあえず荷物をダイニングテーブルに置いて、慶の前に座って、その頬に触れる。

 と、

「浩介……っ」
「!」

 崩れ落ちるように慶がオレにしがみついてきた。何……?

「慶? どうしたの? 何かあった?」
「……………」
「慶? 大丈……」
「電話」
「え?」

 電話?

「お前、電話でなかった」
「あ」

 電話……忘れてた。カバンの中に入れっぱなしだ。

「ごめんね、電話くれてた? 買い物行ってて気がつかなかった」
「……………」
「七味が切れそうだったから買いに行ってたんだよ。あと、シュークリーム買ったよ? ほら、慶の好きな小さいシュークリーム」
「……………」
「……………」
「……………」

 慶は黙ったままだ。
 なんだろう? 様子がおかしい……

「慶?」
「………………うん」

 おれの腕の中、慶が大きく息を吸って吐いて……を繰り返してる。

 どうしたんだろう。病院で何かあったんだろうか。

「何かあった? まさか例の男の子に何か……」
「……いや、調子良いから、正月は一時退院できことになった」
「そう」

 ホッとする。昔、担当の患者さんが亡くなった時に、こうしてギュッとしてきたことを思い出したからだ。あの慶は本当に辛そうだった……

 でも、今も辛そうだ。どうしたんだろう……

「………慶」
「………うん」
「……………」
「……………」

 とりあえず、コートとジャケットを脱がす。オレもコートを脱いで、あらためてギュッと抱きしめ直すと、慶は大きくため息をついてから、ボソッと言った。

「………大掃除、手伝わなくてごめん」
「……………」
「……………」
「………………………は?」

 大掃除?

「何の話?」

 い、意味が分からない………

「慶?」
「おれ……また同じ間違いしてるよな」
「間違い?」
「うん……」
「……………」

 慶の湖みたいな綺麗な瞳にジッと見つめられて、今さらながらドキッとしてしまう。そんなおれには気がつかないように、慶は真面目な顔で言葉を継いだ。

「大掃除もお前に任せっきりで」
「そんなの……」

 何を言い出すのかと思ったら……

「大掃除なんか、たいしたことしてないから全然大丈夫だよ?」
「…………でも」

 慶はまた、大きくため息をついた。

「今日……あっちの病院の看護師に言われてさ。こんなに毎日帰りが遅くて、奥さんに怒られませんかって」
「……………」
「それで……気がついて」
「?」

 気がついて?

「それで、電話かけたけど、お前、出なくて」
「……………」
「それで、急いで帰ってきたけど、お前、いなくて」

 慶の手がスイッと伸びてきた。

「おれはまた間違ったんだって……思って」
「? だからその間違いって何?」

 意味が分からないんだけど……

 言うと、慶は少し迷ってから、ぽつんと言った。

「お前がケニアに行くことにしたときのおれって、こんな感じだっただろ?」
「………!」

 それは………っ

「仕事で頭いっぱいで、お前に甘えっぱなしで」
「……………」
「そんなんだから、お前、また、いなくなったんだって、思って……」
「慶…………」

 ああ…………
 七味なんか買いに行くんじゃなかった。
 もしくは、鳴らされた電話に気がついていれば…………

「慶……」

 なんて言えばいいのか分からない。分からないから、とにかくギュッと抱きしめる。
 なんて言えばいいのか分からない。でも、言わなくては伝わらない。

「慶……違うよ」
「…………」
「全然、違う」

 以前、慶が言っていた。あの頃のことを思い出すと、深い穴に落ちていく感じがする、と。きっと今もそうなんだろう。縋るように抱きついてくる慶の背中を、強く抱きすくめる。穴に落ちていかないように。

「あの頃のおれとは違うから。だから大丈夫だから」
「…………」
「あの頃のおれは……慶に会えなくて辛くて辛くて。でも、辛いっていえなくて、ずっと我慢してた」
「…………」

 ゆっくりと慶がおれの胸から顔を離した。ちょっと眉が寄っている。

「それは……今は会えなくても辛くないってことか?」

 それはそれで微妙だな……。

 正直な慶の言葉に吹き出してしまう。慶は今でもこんなにおれの愛を欲しがってくれてる。それが嬉しい。

「そんなことないよ。会えなかったら辛いよ? でも、あの頃と違って、一緒に住んでるから」
「…………」
「会えない時も、一緒にいる感じがするんだよ。そう思えるようになったんだよ」
「…………」

 たぶんそう思えるのは、一緒に住んでるからだけじゃなくて、慶が本当におれを愛してくれてるって、ようやく心の底から分かったからでもあるんだろう。慶の心はいつでもおれと一緒にある。それが信じられる。

「だから、大丈夫だよ?」
「でも……」
「大丈夫じゃなくなったら、ちゃんと言うから」

 あの頃は、慶に嫌われたくなくて、会えなくて辛いってことも言えずにいた。でも、今は……

(……やっぱり、言えないかな)

 やっぱり言えない気もする。でも……それでも、大丈夫。だってこうして、慶はおれのことに気が付いてくれた。慶もあの頃とは違う。


「お蕎麦、食べよ?」
「…………」
「かき揚げも作ったよ?」
「…………」

 オデコをコツンと合わせると、慶は小さくうなずいた。

「シュークリームも食べる」
「うん。食後に食べようね?」

 チュッと軽いキスをする。

「毎年思うけど、お前のかき揚げ、店で食べるのより断然うまいよな」
「そう?」
「来年も食べたい」
「…………うん」

 来年も、食べる。再来年も、その次も。ずっと。


 そして、新年がやってくる。慶と共に生きる新年が。

「今年もよろしくね?」

 あの頃は得られなかった穏やかな日々がここにはある。




----


お読みくださりありがとうございました!
新年早々一時間の遅刻……
だってなんか二人ともマッタリしてて話がすすまないんだもんー
一度書いておきたかった、慶君のトラウマ話でした。実は、慶はまだ引きずってるんですよね~~~
オチも何もないお話お読みくださり、新年早々ありがとうございました。
こんな調子の当ブログですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします!


ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
皆様のおかげで書き続けてこられました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする