創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~続・2つの円の位置関係1

2019年03月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続・2つの円の位置関係

【西本ななえ視点】


『テツ君と亨吾君は両想い』

 そう確信したのは中学3年のバレンタインの時だった。

 テツ君に中学3年間片想いをしていた身としては、大変複雑ではあったけれど、

『変な女とどうこうなるよりは全然マシ!』

と自分を励まして、卒業式の日に亨吾君の背中を押してあげた。

 その後、高校の時に何度か見かけた二人は、中学の時よりも更にベタベタしていたので、

(やっぱり付き合うことになったんだなあ)

と、嬉しく思っていた。嬉しく思えるまで吹っ切れた自分を自分でほめていたのに……

 なのに。

 中学を卒業した4年後に行われた同窓会で、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けた。

「テツ君の彼女の真奈でーす♥」

 そう言って、テツ君の横でニコニコの笑顔を見せたのは、小柄なテツ君よりも更に小柄で、フワフワの茶色い髪にフリフリのスカートをはいた、人形みたいに可愛らしい女の子だった。


***


「どういうこと!?」

 女子に囲まれていた村上亨吾君が、一瞬一人になった隙に隅っこに連れて行って、にじり寄ってやった。畳の大広間で行われている同窓会は、席の移動は自由となっている。

 中学の時も『それなりに』格好良かった亨吾君は、現在、『ものすごく』格好良くなっていたため、さっきまで女子達が目の色変えて群がっていた……けれども、この手の男はタイプじゃない私にとっては、そんなことはどうでもいい。

「私、あんな女に譲るためにテツ君から身を引いたつもりないんだけど?」
「西本……」

 亨吾君は苦笑すると、小さくたしなめるように言った。

「あんな女、なんて言ったら、哲成に怒られるぞ?」
「哲成?」

 哲成!?

 話の中身よりそちらに引っ掛かった。

「亨吾君、いつの間にテツ君のこと名前呼び? いつから?」
「ああ……」

 引き続き、亨吾君は苦笑している。

「高1の冬くらいからかな……」
「テツ君は? あいかわらず、『キョーゴ』?」
「いや」

 すいっと亨吾君の視線が動いた。その視線の先にはテツ君……

「『キョウ』って……呼ばれてる」
「…………」

 亨吾君の優しい目……

 哲成。キョウ。

 テツ君はご両親にも「テツ」って呼ばれてた。亨吾君は知らないけどおそらく「亨吾」だろう。

 たぶん、他にそう呼ぶ人はいない、二人だけの特別な呼び方。そんな呼び方をするなんて……

「………。やっぱり、二人、付き合ってたんでしょ? 別れちゃったってこと?」

 ストレートに聞くと、亨吾君は静かに首を振った。

「付き合ってない。だから別れてもいない」
「…………なにそれ」

 なにそれ……

「どうして? だって中学の卒業の時……」

と、さらに突っ込んで聞こうとしたところ、

「キョウ! 西本!」

 ピョンピョンッと跳ねるようにテツ君がやって来た。全然変わらない可愛いテツ君。

「オレ、真奈のこと送ってくるから、ちょっと抜けるな」
「ああ、分かった」

 ふっと微笑んだ亨吾君。なんか……切ない表情……

「なに? 彼女もう帰っちゃうの?」

 トゲトゲしさを隠しきれないまま聞いたけれど、鈍感テツ君は全然分かってなくて、ニヘラッと笑った。

「真奈、お嬢様だから、門限8時なんだよ」
「………………ふーん」

 じゃあワザワザ来んなよ。と言いたいところをぐっと押さえる……。
 そんな私の横で、二人は手を軽く打ち合わせた。

「気を付けてな」
「おー」

 テツ君はまたピョンピョン跳ねるように、今度は彼女の元に戻っていく。それを見送っている享吾君の顔……

(なんて顔してんの?)

 何その、情熱をうちに秘めてますっていう憂い顔……

「…………享吾君。いったい何があったの? この4年で」
「何がって……」

 振り返った享吾君はまた苦笑して、首を振った。

「何も、ない」
「何もないわけないでしょ」
「そう言われても……」
「じゃ、中学卒業してからの二人のこと、全部話して?」
「え」

 戸惑ったように目を泳がせた享吾君。でも逃がさない。

「私、聞く権利あると思わない?」
「…………」
「思うでしょ?」
「…………」
「…………」
「…………」

 享吾君は、大きく息を吐くと、トン、と壁に背中を預けた。すかさず、近くにあったビール瓶を手に取り、空になっていた亨吾君のグラスに注いであげる。

「じゃ、話して?」
「何を?」
「そうだなあ……」

 ふっと先ほどの「キョウ」と呼びかけたテツ君の可愛い顔を思い出して、言ってみる。

「二人が『哲成』『キョウ』って呼び合うようになったキッカケとか」
「ああ………」

 享吾君は、ビールを少し飲むと、思い出すように、目を細めた。

「それは……渋谷に影響されて、だな」
「渋谷君?」

 そういえば、渋谷君も二人と同じ白浜高校に進学していた。学校一のアイドルだった男子。

「どういうこと?」
「渋谷が名前呼びつけされるのすごく嫌がるって話は知ってるか?」
「ああ。有名だったよね」

 中性的で美しい容姿をしていた渋谷君は、名前の『慶』で呼ばれることをすごく嫌っていた。幼稚園の時に「ピンクレディーのケイちゃんの真似をしろ」と揶揄われたのがキッカケだった、という話を聞いたことがある。

「それが?」
「その渋谷が名前呼びつけを唯一許した奴がバスケ部にいて……」

 ポツポツと話し出した享吾君。こぼれだした二人の高校時代の思い出……。

 聞けば聞くほど……なんだか切なくなってしまった。


---

お読みくださりありがとうございました!
そんなわけで、次回金曜日から享吾君の思い出話がはじまります。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます。
こうしてクリックしてくださる方、読みにきてくださる方がいらっしゃる!という喜びを胸に、ここで続けていこうと気持ちを新たにしたところです。
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
↑ブログ村のバナー、ブログ村リニューアルに伴い、変更になりました
BLランキング
ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
「続・2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~一歩後をゆく裏話とおまけ

2019年03月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

短編『一歩後をゆく』は、浩介就職3ヶ月、慶大学4年生、浩介の一人暮らしのアパートでラブラブ半同棲生活送り始めたころのお話です。

本日は、その二人の元を訪れた保険外交員・荻野夏希さん視点をお送りします。
荻野さんは二人の高校の同級生。元バスケ部。慶とは中学も一緒でした。


------

【荻野夏希視点】


 雑談を交えながら保険の契約の説明をしている最中、

「じゃあ、おれの保険金の受取、慶にするって………できる?」

 桜井君の真剣な目にドキッとした。

(え、この二人って、まさかやっぱり、そういう関係……)

って、思ったことは一瞬のうちに奥にしまい込んで、自信たっぷりに、肯いてあげる。

「もちろん。できます」
「そう……」

 桜井君の引き続きの真剣な表情。その桜井君を心配げに見つめる渋谷君の瞳……

(ふーん……)

 渋谷君にそんな顔させられるなんて……やっぱり桜井君は渋谷君の『特別』なんだねえ……


**


 中学の時、バスケ部に入部したのは、渋谷君の影響だった。

「とにかくすんごいカッコイイんだから!」

と、渋谷君と同じ小学校だった子達に誘われて、バスケ部の練習を見にいって、一発で落ちたのだ。

 渋谷君は、とにかく綺麗な顔をしている。そして、その小柄で中性的な容姿に反して、バスケがメチャメチャ上手でカッコイイ。その上、性格は気さくで人懐こい。仕切りも的確。笑顔がカワイイ。

「アイドルみたい」
「そうそう。みんなのアイドル」

 だから抜け駆け禁止だよ。みんなで応援するだけだからね。

 そんなことを言って、密かにファンクラブまで作って、みんなで盛り上がっていた。本人は自分がここまで人気があるということに気がついていなくて、その恋愛に疎くて鈍感なところも可愛くていいって話になっていた。

 渋谷君は頭も良かったので、高校は学区一番の白浜高校に進学した。
 女子で同じ高校に行けたのは私だけだったので、みんなから相当羨ましがられた。でも、クラスは違うし、渋谷君はバスケ部入らないし、で、全然接点持てず……

 でも、高校生活が一ヶ月ほど過ぎた時に、転機は訪れた。
 うちのクラスの桜井君という男子のもとに、渋谷君が頻繁に訪ねてくるようになったのだ。なんだか知らないけれど、二人は友達らしい。

(初めてだな……)

 中学時代の渋谷君はみんなに囲まれているという印象があって、特別仲の良い友達はいない感じだった。でも、桜井君とは二人きりで一緒にいることが多い。

 その上……

『えーじゃあ、何にする?』
『その前に、お前、教えろよ』
『ちょ……っとっもうっ慶!』

 誰もいない教室の中から、楽しげな二人の声が聞こえてきて、思わず立ち止ってしまった。

『やめてよっ。書き終わらないでしょっ』
『教えてくれたらやめる』
『もー慶、慶ってばっ』

(え……『慶』って呼んでる……)

 日直の日誌を書いている桜井君のことを、渋谷君が楽しそうに邪魔している……

(うそ……)

 衝撃的すぎる。

 渋谷君が名前の『慶』で呼ばれることを嫌がる、というのは有名な話だった。
 小さい頃、それでトラブルになったことが何度もあるらしいし、中学に入ってからも、しつこく言ってきた男子のことを殴って、歯を折った、という話も聞いたことがある。
 だから、入部早々に、中3の先輩から『仲良くなれるように名前で呼び合うこと』を強制されていた男子バスケ部の中で、唯一名前呼びを免除されていたくらいなのに……

 思わず、「えーーーー、ビックリ」と声を上げてしまうと、渋谷君が眉を寄せて振り返った。

「なにがビックリ?」
「桜井君が渋谷君のことを『慶』っていってることにビックリ!!」

 そう突っ込んで色々言ってやると、渋谷君はアッサリと、何でもないことのように、答えてくれた。

「こいつはいいんだよ。こいつは特別だから」

 そして、ふわりと微笑んだ。

「こいつだけはいいんだよ」

 その笑顔! キュンとなりすぎて倒れそうになったことは、なんとか誤魔化したつもりだ。


***


 桜井君の一人暮らしのアパートは、角部屋で明るくて、掃除も行き届いていて、とても居心地が良かった。それに、なんだかポヤッとしている渋谷君がとにかく可愛いすぎて、目の保養すぎる。こんな渋谷君を堪能できる桜井君がうらやましい。

(歯ブラシ2つだし……)

 お手洗いをお借りしたついでにチェックしてしまった。歯ブラシも2本あるし、渋谷君のマグカップも明らかに『渋谷君用』な感じだし、サイズピッタリの上下トレーナーの部屋着きてるし、一緒に住んでいない、とは言っていたけれど、これは確実に半同棲状態だ。

「じゃ、お客さんと約束があるから~」

と、早々に退散したのは、せっかくの休日をお邪魔するのも悪いかな、と思ったからだ。

「……新婚さんみたいだったなあ」

 本当のところ、二人がどういう関係なのかは、分からない。分からないけど……

『こいつは特別だから。こいつだけはいいんだよ』

 そう言った時の、渋谷君の幸せそうな笑顔が今も変わらず続いているってことが、なんだか嬉しい。

「幸せにしてあげてよ? 桜井君」

 二人のいる部屋の窓に向かって、小さくエールを送ってみた。

 皆様の夢を応援することがワタクシの喜びでございます。




【おまけ・現在の浩介視点】

(2019年3月4日夜)

「ねえ、今更なんだけど、本当に今更なんだけど、聞いてもいい?」

 今、ソファに並んで座って、スマホの画像を慶に見せている。昨日の高校バスケ部同窓会の写真だ。

「なんだ?」
「引かれると思ってずっと聞けなかったんだけど……」
「だから、今更何聞いても引かねえよ」
「……………。んー、じゃあ聞くけど」

 心を決めて言ってみる。

「慶って、上岡のこと『武史』って呼んでるよね? なんで?」
「あー、それは……」

 慶は答えかけたのに、「お~これ誰だっけ」とか言いながら、スマホの画面を大きくしたりして……

「ん? で? なんだっけ?」
「だから!どうして、上岡と仲悪かったのに、名前呼びなの?!」
「あ?ああ……武史?」
「……………」

 さっきも、慶は普通に「武史」と言っていた。というか、高校の時から、ずっと「武史」呼びだ。おれはこの四半世紀ずっとそれにモヤモヤしていたけれど、そんなこと、聞けないでいた。でも、この際だから、聞いてみる!

「どうして?」
「あー」

 慶は呑気な感じに首を傾げると、

「中1の時に3年の先輩から、チームメイトは名前呼びつけで呼ぶようにって言われたんだよ。おれは断固拒否したから呼ばれてないけど」
「え………そうなんだ」
「あ、これ、亨吾じゃん」

 画面をスライドさせながら、慶が呟いた。

(亨吾?)

 ああ、村上亨吾。……って!

「慶って村上のことも名前呼びだったっけ?」
「あ? そうだけど?」
「……………」

 そういえばそうだった気もする。……けど、会話の中に名前が上ることがないから、忘れてた。そういえば、上岡も村上のこと「亨吾」って呼んでたな。あれ?でも……

「でも、村上は上岡って呼んでる気がする……」
「ああ、亨吾は中2の時に引っ越してきたから、それでかな。おれらは何となく名前呼びが普通になってたから、亨吾のことも亨吾って呼んでたけど」

 なるほど。村上は、名前呼びつけを強制した3年生とは一緒に部活をしていないから……

「へー………今まで知らなかった……」
「話したことなかったっけ?」
「ないよ!初めて知った」

 思わず、慶の腰に手を回してぎゅっと抱きつく。

「こんなに一緒にいるのに、まだ知らないことがあったなんて、ものすごいショック!」
「なんだそりゃ」

 苦笑した慶。

「他は? 高校の時の友達で、名前呼びつけの人いる?」
「そりゃいるだろ」
「誰!?」
「誰って………」

 慶はうーんと唸ってしまった。おれも一緒に唸って考えてみる。

「あ、安倍のことも『ヤス』って呼んでたよね」
「ああ、クラスのみんなそう呼んでたからな」
「ふーん……」

 今頃、ヤスも何やってるんだろうなあ? と慶が呑気に言っている。

 慶と安倍は、大学時代は時々会っていたみたいだけど、安倍が就職してからは、連絡が途絶えているらしい。あんなに仲が良かったのに、不思議な感じだ。

「後は………」

 ふっと頭をよぎった眼鏡の小柄な男子生徒。そうだ。村上亨吾といつも一緒にいた……

「ええと、村上と仲良しだった、村上……」
「おお!テツな!」

 おおっと慶が手を打った。

「懐かしいな。あいつも今頃何やってんだろうな?」
「中学一緒だったんだよね? 家近所じゃないの?」
「全然近所じゃない」

 慶は軽く肩をすくめた。

「うち、学区の端だったから、小学校も中学校も遠かったし、テツ達とは最寄り駅も路線からして違ったから、偶然会うってことも全然なくて」
「ふーん………」

 そんな話も初めて聞いた……

「慶………なんか寂しい……」
「は?」

 眉を寄せた慶の胸のあたりに、グリグリと額を押し付けてやる。

「おれの知らない慶がいることが寂しい」
「……………アホか」

 慶は呆れたように言いながらも、優しく頭を撫でてくれる。その優しさに浸りたい。

「慶、もっと色々教えて?」
「何を?」
「おれの知らないこと。中学の時のこととか」
「んなこと言われても………」

 慶は再び、うーん、と唸ってから……アッサリと言い放った。

「めんどくせー」
「え?」
「おれ、基本的に昔の記憶あやふやだし。んなこと思い出すの面倒くせー」
「えええ!?」

 ひ、ひどい………

「慶ーひどいー」
「ひどくねえよ」
「わっ」

 力任せに体勢を変えられた。慶の綺麗な瞳が目の前に迫ってくる。

「んな昔の話なんかより、おれは未来の話がしたい」
「未来?」
「そう。未来」

 チュッと軽く合わさる唇。

「ゴールデンウィークの話とか」
「うん」
「今度の休みのこととか」
「うん」
「今日、このままここですんのか?とか」
「なにそれ」

 笑ってしまう。

「選択肢色々あるだろ? ちゃんと風呂入ってからするとか、ベッドでするとか」
「お風呂でするとか?」
「でもいいぞ? そうするか?」
「ん……」

 そう言いながらも、キスは続いていく。

 慶と一緒の未来……

 夢にまでみた未来がここにはある。

 

---

お読みくださりありがとうございました!

「2つの円の位置関係」の亨吾と哲成の高校時代を追っていたら、浩介と慶のことも書きたくなりまして………
おまけの方が長くなるのはいつものことですね💦

荻野さんが思い出してるのは、「遭逢」14での出来事でした。片想い中の慶君、かわいい。

次回、金曜日……更新できるかな。
どうぞよろしくお願いいたします!

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます。励ましていただいてます!!今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

↑ブログ村のバナー、ブログ村リニューアルに伴い、変更になりました

ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~遭逢裏話

2019年03月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

『風のゆくえには~遭逢』の2の裏話というか、補足の話。
浩介と慶、高校一年生で出会う寸前のお話です。

---

【浩介視点/高校一年生4月】


 中学3年生の夏、偶然バスケットの試合で見かけた『渋谷慶』という光。
 オレは、その光に出会うために、都内の私立中学から、地元の県立高校に進むことを決意した。

 幸運なことに、オレの住んでいる地区と渋谷慶の通う中学のある地区は、高校の学区が同じなのだ。だから、渋谷慶本人と同じ高校になる可能性は少ないにしても、渋谷慶と同じ中学だった人と同じ高校になれる可能性は大いにある。

 実際、白浜高校で同じクラスになった女子で、自己紹介の時に渋谷慶と同じ中学の名前を言っていた人もいた。でも、その人が渋谷慶を知っているかどうか分からないから、聞く事ができなかった。

 でも、バスケ部の人なら、絶対に渋谷慶を知っているだろうから、バスケ部に入って、渋谷慶のことを聞いてみよう!と思っていたんだけど……

(誰がどこの中学出身か分からない……)

 分からない上に、どう話しかけていいのかも分からない。あちこちで輪ができている部活前の時間も、どこにいたらいいのか分からないし、どうしたらいいのかも分からない。今日で部活に出るのは2回目だけど、全然分からない。

(どうしよう……)

 みんなどうしてそんなに楽しそうに話したりできるんだろう。おれだけが浮いてる。平静にしているつもりだけれども、心の中はパニックになっていた。

 と、そこへ

「桜井!」
「わっ」

 いきなり、背中をバシバシ叩かれた。振り返ると、なんというか……『普通』の男子高校生が立っていた。同じ日に入部した篠原、だ。

「今日もよろしくー。やっぱり今のところ、バスケ初心者、オレと桜井だけみたいだからさー。桜井がいてくれて心強いよ!」
「あ……うん。ありがと……」

 篠原は、すごく人懐こい性格らしく、前回もたくさん話しかけてきてくれた。
 篠原は中学の時は、女子の手料理が食べたくて料理研究部に入っていたらしい。高校からはバスケ部にしたのは、

『女子バスケ部に可愛い子がたくさんいるから!』

っていう理由だそうだ。今まで見たこともない人種、というか、違う星からやってきた、というか……とにかく不思議な人だ。

「なになに桜井、なにボーッとしてんの?」
「あ……うん。まだみんなの名前分かんないなって思って……」
「そっかそっか!じゃあ教えてあげる!」

 さすが、分かるんだ。

(あ、それじゃあ!)

 慌てて付け足す。

「あの……あのっ、出身中学も分かる?」
「分かる分かる!」

 ……………。すごい。

 篠原はオレと同じで今日で2回目の部活のはずなのに、現時点での新入部生の名前と出身中学を全員知っていた。

「斉藤は一中で、川島は山中。あそこの二人は緑中って言ってたなあ」
「!」

 緑中。渋谷慶の中学だ。

「あそこの二人って……」

 ドキドキしながら聞くと、篠原はスイッと体育館の端で準備運動をしている二人を指さした。

「わりとガッシリしてる方が上岡。涼し気な感じの奴が村上」
「…………」

 ………。

 ………。

 なんか……二人とも話しかけにくい感じの人だ……。

「その横でピョンピョンしてるのが水野。確か、坂中」
「そうなんだ……」

 同じ日に入部したのにこの情報量の差はなんだろう。篠原はすごい。篠原だったら、何の躊躇もなく渋谷慶のことをあの二人に聞けるんだろうな……

「すごいね、篠原……」
「オレ、人の名前と顔覚えるの得意なんだよ。でもまだ男バスの先輩たちは分かんない」

 篠原は二ッと笑うと、小さく付け足した。

「女バスの先輩は全員覚えたけどね!一年ももちろん全員!」
「そ、そうなんだ……」

 なんか……ホントに、篠原は、異星人だ。でも、勝手に喋ってくれるのは楽でいい。

(問題は……)

 あの二人。上岡と村上。どちらも話しかけられる雰囲気じゃない。

 上岡は、強そうで怖い感じ。一番苦手なタイプだ。
 村上は、クールで冷たい感じ。話しかけても無視されそう……

(無理だ……)

 どう話しかけていいのか、全然分からない……


 そのままその日の部活は終わってしまった。家庭教師が来る日なので、慌てて着替えて体育館の外階段を下りていったところ、

「すみません!すみません!バスケ部の人!?」

 いきなり、高めの男の声に呼び止められた。振り返ると、背の低めの眼鏡をかけた男子生徒が手をパタパタしている……

「はい……」
「バスケ部終わったんですか?みんなまだいますか?」

 眼鏡の奥の目がクルクルしてる。なんか、犬みたい……

「えと……、はい。みんなまだ着替えてて……」
「あ、そうなんだ。良かった……、って」
「あ」

 いつのまに、その男子生徒の後ろに、村上が立っていた。ポンってその男子生徒の頭に手を乗せている。すると、キラキラッと男子生徒の目が輝いた。

「おおっキョーゴ、良かった」
「部活の連中と出かけるんじゃなかったのか?」
「それ中止になったんだよー。だから一緒に帰れる」
「そうか」

 ふっと笑った村上。

(笑った……)

 ビックリするくらい、柔らかい笑顔。バスケ部にいる時のクールな感じとは全然違う。
 ポヤッと見てしまっていたら、ふいっと村上がこちらをみた。

「じゃ、桜井。また」
「え、あ……」

 名前、覚えてくれてるんだ……

 驚き過ぎて言葉が出なかったオレに、今度は背の低い男子生徒の方が、また両手を振って言った。

「んじゃ、どもです!」
「あ……はい」

 かろうじて何とか頭を下げる。おれ、すごく変な奴だ……。と、思ったけれど、二人は大して気にした様子もなく、並んで歩いていってしまった。

(仲良いな……)

 思わず、その後ろ姿に見とれてしまう。二人くっついて歩いてて、顔を見合わせて笑ったりして……

(渋谷慶も、今の人くらいの身長だったよな……)

 村上とおれは身長同じくらいなので、もしも、おれと渋谷慶が一緒に歩いたら、あんな感じになるんだろうか……

 あんな風に、仲良い友達みたいに、歩けたらどんなに……

(渋谷……)

 もしもあなたに会えたら……会えたら……





---

お読みくださりありがとうございました!
オドオドしてる高一の浩介。頑張れ!もうすぐ渋谷慶に会えるよ!

今後なんですが。
やはり、「2つの円の位置関係」の続編を書こうと思います。私が19歳の時に書いたものをベースに書きます。が。数年前に読み返した際に、
『19歳の私、何があった!?』
と、叫んでしまった内容となっております……。
大学生になった二人の話からはじまります。(だから今回、高校生の二人の姿を書いておきたかったの)
来週火曜日に人物紹介だけでも載せられたら……と思っていますが、間に合うかな💦

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます。
書くのやめようかなーと心が挫けそうになったとき、どんなに励ましていただいていることか……本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
↑ブログ村のバナー、ブログ村リニューアルに伴い、変更になりました
BLランキング

ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする