夕方。二日ぶりにもとちゃんが現れた。もとちゃんの後ろには知らないおじさんがもう一人。もとちゃんはそのおじさんをアニキと呼んでいた。
何してんだ?と聞いてきたから、これから釣りに行くと答えた。すると、これからアニキがいい所に連れて行ってくれるから来いと言う。すごーく嫌だったんだけど、しつこく来いた言うもんだから、仕方なくついて行くことにした。なんだか、タイでぼったくられる時のような雰囲気満載なのだ。
アニキの車、軽のワンボックスカーの後部座席に乗り込むとアニキが一言。
「どこ行くの?」
ん?いいところってどこだ?
とりあえず車は発進する。まずはもとちゃんの家のお墓があるお寺へ。お盆だからね。・・・なんなんだ?このツアー。
浅沼さん家のお墓の前でアニキが立ち止まる。もとちゃんの苗字は浅沼なの?と聞くと「そうだ」と答える。あれ?浅沼だったっけかな?と思っていると、もとちゃんがトコトコと歩き始め、村川家のお墓で手を合わせる。
あぁ、もとちゃんの苗字は村川だったと思い出す。・・・おいコラ、アニキ!さっき軽く嘘をついたろ?
車は再びノロノロと走り始め、細い路地に入る。そこでアニキが一言。「ここはおれの別荘だ」。扉の前に「居酒屋」の看板があった。居酒屋やってんの?と聞くと、やってないと言う。居酒屋の看板があったよ?と聞くと、そんなものはないと言う。・・・確かに看板があった。・・・なんなんだよ・・・このツアー。
その後、何軒かのアニキの別荘を通り過ぎ、たくさんの嘘攻撃を受けながら、車はキャンプ場へと戻ってきた。
もとちゃんが言った。「良かったな、アニキにいいところに連れていってもらえて」。
僕はね、声を大にして言いたかったよ。「どこが?」
誘拐もぼったくられもしなくて良かったのだがね、なんとなく不穏な一言をだね、アニキが最後に言っていたんだね。
「明日もどこかへ連れていってやるよ」。
・・・もういいっつうの。