梅雨の晴れ間の帰り道
青空の余白に浮かぶ雲は、すでに立体を示していた
初老の男性が声を掛ける
「お姉さん、何か落としたよ」と
少し前には女性の後ろ姿
男性が何度か呼び掛けると
女性は足を緩め、疑うように振り返った
その顔には少しずつ秋が忍び寄っていた
女性は引き返し、小走りに男性に近づいた
彼女は礼を言って微笑んだ
それは決して愛想笑いではなく
心からのものだと伝わった
落としても音もしない小物を拾ってもらった嬉しさなのか
それとも、別に理由があるのかは知らない
ただ僕は、微笑ましい光景というよりも
どういう訳か、悲しかった
彼女の微笑みが悲しかった