僕が君を知ったのは高校1年の初夏
長い髪をしていた
白く透き通るような肌に黒目がちな瞳
長身のようだが僕の方が少し高いようだ
隣にいる女生徒に笑いかけた君
僕の心にその顔が強烈に焼きついた
高校3年になり、僕は君と同じクラスになった。
文化祭をきっかけに話すようになり
僕が「友達になって欲しい」と声を絞り出すと
君は「いいよ」と笑って応えた
高校を卒業して、僕らの淡い恋はあっけなく終わった。
再会したのは2年後の同窓会
僕にも君にも恋人はなく、再び連絡を取り合い、そして付き合うようになった。
僕らは大学を卒業したが、今度は固く結び付いていた。
お互い都内の企業に就職し、やがて同棲を始めた。
20代半ばの頃、僕は少し無理をして、君は白い指に婚約指輪をはめた。
君は涙を一滴、二滴と頬に真っ直ぐ流したね。
しばらくして、君ははにかみながら、自分の腹部に僕の手をくっつけた。
やがて、男の子が生まれた
父親になった実感はなかったが、小さな命を抱いた君が、女神に見えたことを覚えている。
二人とも仕事が忙しく
僕らが息子に充分な愛を注げたかは分からない。
それでも子供の成長は早く、僕らよりも背が高くなり、やがて巣立っていった。
僕と君はまた二人きりになった
僕は白髪が目立つようになり
君も皺やシミを気にして、白かった肌も次第に赤や茶色が混ざった。
僕らは定年を迎え、その後、孫も誕生した。
初孫をあやす君を見て「おばあさんになったんだ」と小声で呟き、しばらくして自分がおじいさんになったことに気付いた。
やがて君は病に侵された
医者にもう長くないことを聞かされると、
僕は病院のトイレにこもり、しばらく泣いた。
僕の目の前に高校生の男女が歩いていた
少女の背中まで届いた長い髪
半世紀も前のことなのに、記憶は鮮明だった。
もう二度と君に逢えない
僕は空を見た
青かった
その青さに涙が溢れた