ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

長い想い

2022-10-11 11:25:01 | 

僕が君を知ったのは高校1年の初夏

長い髪をしていた

白く透き通るような肌に黒目がちな瞳

長身のようだが僕の方が少し高いようだ

隣にいる女生徒に笑いかけた君

僕の心にその顔が強烈に焼きついた

高校3年になり、僕は君と同じクラスになった。

文化祭をきっかけに話すようになり

僕が「友達になって欲しい」と声を絞り出すと

君は「いいよ」と笑って応えた

高校を卒業して、僕らの淡い恋はあっけなく終わった。

 

再会したのは2年後の同窓会

僕にも君にも恋人はなく、再び連絡を取り合い、そして付き合うようになった。

僕らは大学を卒業したが、今度は固く結び付いていた。

お互い都内の企業に就職し、やがて同棲を始めた。

 

20代半ばの頃、僕は少し無理をして、君は白い指に婚約指輪をはめた。

君は涙を一滴、二滴と頬に真っ直ぐ流したね。

 

しばらくして、君ははにかみながら、自分の腹部に僕の手をくっつけた。

やがて、男の子が生まれた

父親になった実感はなかったが、小さな命を抱いた君が、女神に見えたことを覚えている。

 

二人とも仕事が忙しく

僕らが息子に充分な愛を注げたかは分からない。

それでも子供の成長は早く、僕らよりも背が高くなり、やがて巣立っていった。

僕と君はまた二人きりになった

僕は白髪が目立つようになり

君も皺やシミを気にして、白かった肌も次第に赤や茶色が混ざった。

 

僕らは定年を迎え、その後、孫も誕生した。

初孫をあやす君を見て「おばあさんになったんだ」と小声で呟き、しばらくして自分がおじいさんになったことに気付いた。

 

やがて君は病に侵された

医者にもう長くないことを聞かされると、

僕は病院のトイレにこもり、しばらく泣いた。

 

僕の目の前に高校生の男女が歩いていた

少女の背中まで届いた長い髪

半世紀も前のことなのに、記憶は鮮明だった。

もう二度と君に逢えない 

僕は空を見た

青かった

その青さに涙が溢れた

 

 

 

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