昨日の日直の時に、救急隊から新幹線の列車内で心停止して回復した患者さんの搬入依頼が来た。首都圏に向かって新幹線に乗っていた62歳男性が急に嘔吐して、その後に意識消失したそうだ。車内に乗り合わせたある病院の研修医が診察して、心拍がないと判断して心臓マッサージ(胸骨圧迫)を開始したところ、心拍が戻って意識も清明になったという。AEDは使用していない。ひとりで実家に来て、自宅に戻る途中だった。
新幹線は停車駅(もともと停車する)に止まって、降りることを嫌がっていたが、しぶしぶその患者さんは駅員と一緒に降りた。病院に搬送すると言われて、さらにいやがったが、そのまま新幹線に乗せるわけにはいかないと言われ、当院に搬入された。救急隊員も駅で降りた後の患者さんに対応したので、車内での状況は又聞きの又聞きですと言っていた(車掌から駅員へ、さらに救急隊へ)。
救急車から独歩で降りてきて、救急室のストレッチャーに横になったが、普通に診察室でよかった。バイタルは異常がなく、すぐにとった心電図は虚血性変化も不整脈もなかった。Brugadaでもない。救急室に入ってきた時から、新幹線から降ろされたことに憤慨していた。とにかく次の新幹線に乗って帰るという。X線検査や血液検査は拒否した。一晩入院して心電図モニター下で経過観察することを勧めたが、絶対にイヤだという。途中に同じことが起こって、今度はそのまま死亡に至る可能性があるとお話したが、ダメだった。やむなく、帰すしかなかった。(数時間経過してから、自宅か実家の家族に電話して事情を説明すべきだったと気付いた。寺沢先生が若手医師セミナーの講演で言っていたことを思い出した。)
本当に心停止に陥ったのかどうかだが、駆けつけた医師が確認しているので、その点は確かでしょうと救急隊員は言っていた。倒れた後に、車掌さんが駆けつけて、その後車内アナウンスがあって医師が駆けつけたとして、数分経過している。嘔吐した後に反射性に血圧が低下したとすれば、数分で脳血流は回復して意識が戻っていると思われるが、対応した時にも意識消失してして心拍がないと判断されている。心室細動・心室頻拍や洞停止で、心拍が停止していたのだろうか。内科の若い先生に訊いてみたが、本当に心拍停止ですかということだった。
紹介状を持たせて、帰ったら近くの病院を受診するように勧めたが(循環器科での精査)、それもいらないと言われた。きっと受診はしないのだろう。まず無事で着いてほしい。新幹線の切符をもったまま降りたので、その切符で新幹線にまた乗って行ったと思われる。