火曜日に、5日前から急に歩行できなくなったという62歳男性が救急搬入された。それまでは普通に歩行できて、車も運転していたという。家の中を這って移動していたそうだ。
両下肢の筋委縮があり、下肢の挙上はできるが、確かに同年齢と比べれば筋力は低下している。左右差はなかった。振戦というか、細かな震えがある。つかまって立とうとすると、両下肢がぶるぶる・がくがくと震えてしまう。両上肢も下肢より軽度だが、同様の症状があった。
意識は清明だった。普通に会話ができる。両親が亡くなった後一人暮らしをしていた。特に病気はなく、通院はしていない。もと教員だったが、早期退職していた。
後で健康保険に入っていないことが判明した。救急隊の記録では、自宅アパートの室内は物があふれていた。栄養失調をきたすような食事摂取だったらしい。飲酒はビールと焼酎で、日本酒換算2~3合/日の話だったが、実際はもっと多いらしい。2~3日は飲んでいないという。
搬入時に体温が37.2℃だったので、発熱外来扱いになった。コロナの検査は陰性で、血液検査で炎症反応は陰性だった。感染症ではないようだ。甲状腺かとも思ったが、ホルモンは正常だった。
頭部MRIは年齢の割に全体に萎縮しているように見える。発症が急なような病歴だが、四肢の筋力低下・筋萎縮を見ると、もっと長い経過ではないか。
翌日の水曜日が神経内科の新患日だった。担当の先生(外部からバイトで来ているベテラン医)に診てもらった。「下肢体幹優位の失調と不随意運動(振戦ないしミオクローヌス)を認めて、脊髄後索障害を示すと考えます」という。
診断はビタミンB12欠乏性の急性連合性脊髄変性症が疑われるとされた。ビタミンB12注(1000mg静注または筋注)で経過をみるようにと指示された。
搬入時にビタミンB12 は外注検査に出していて。2日後の今日は結果が出ていた。正常域の下限値だった。ビタミンB12は正常域でも下限値に近い時は欠乏症をきたす。投与継続とした。また葉酸は正常域以下で、こちらも補充する。