立石康則著、小学館文庫刊
本書は、三和銀行が昭和39年(1964年)当時に、香港にアジア初の支店を開業する為に準備室を開設する場面からから始まります。
まだイギリスが香港を統治していた時代で、三和銀行はアメリカやヨーロッパに支店を設けていたものの、勝手が違う香港での行員達の苦闘が丹念に描かれています。
戦略的な意味を踏まえると、香港支店こそが、後に中国本土への足掛かりとして極めて重要であったとのこと。その後の行員達の奮闘と苦難の数々が胸に迫ります。
香港の状況、真の資本主義経済の実相、改革開放政策をとりながらも、がんじがらめで恣意的な規制を敷く共産党政府への対応、反日活動など、その時々の日本国内の環境との大きな隔たりが、明瞭に示されていています。
バブル崩壊まで続いた日本の管理された金融環境と対照的な、完全な自由競争の香港金融界の有り様が、本書で鮮明に伝わっています。
この点は当時の中国共産党と日本の金融政策の類似性が感じられます。
反日運動に関する記述には、日本軍の蛮行の根強い記憶と中国共産党のプロパガンダ、反日教育の徹底が重なり合って生じているとしているものの、その根底にある中国人の感じ方が、実際の取材を基に描かれています。
解説の白石一文さんによれば、著者の信念は「企業や組織とは、法人という名の人間である。人に人格があるように、法人にも人格がある」のだそうです。
本書は、その信念に基づいて、登場する多くの人々から得た証言が豊富で、何故その様に考えたのか、何故その様に行動したのかが具体的に示されています。
会社の方針が示されているのと同様、その方針を実行する為に奮闘する人々一人ひとりの信念と思いを対置して、作品の奥行きを深めています。
良書と思います。
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○立石康則 ○三和銀行
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評価は5です。
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