野地秩嘉著、日経BP刊
本書は、トヨタの強さの核心である「トヨタ生産方式」の発想と開発の苦闘を軸に、創業者とその一族、そして現場への普及に努めたキーパーソンたちを交えて、トヨタの誕生から現代までの足跡を辿る物語です。
優れた事例や理論を応用して課題を解決することも大変ですが、見たことも聞いたこともない、理念ありきの理論を生産の現場で実現した人々の、過酷で直向きな姿が感動的に描かれています。
生産技術の画期となったフォードの大量生産システムは、大量生産を実現した偉大な手法として知られていますが大きな欠陥があります。
「トヨタ生産方式」は、その欠陥を含まない、創造的な働き方の実現を目指す方法と理解しました。
理系を専攻していたので、名高い「カンバン方式」や「QCサークル」を知っていましたが、本書によって、人が自律的な存在として物を作り出す過程に関与する意義を理解できた様に思います。
小説「トヨトミの野望」の終盤で、アメリカ議会の公聴会で豊田章男社長が証言した際の場面が、本書ではルポとして紹介されていますが、「トヨタ生産方式」故に、アメリカの工場の現場労働者達が、トヨタの一員として会社を代表する氏を応援したい一心で出席し見守ったそうです。
サラリーマンに限らず、人が自分の職責を全力で果たす姿は尊く感動を帯び起こします。
特に「トヨタ生産方式」は、現状を否定することが出発点なので、「慣性」が大きな割合を占める日常の仕事では、素直に受け入れることは困難です。
それを乗り越えて、人々に自ら考えてもらうことが如何に大変かが、私の拙い経験からも十分に理解できるので、登場するサラリーマン諸氏の苦闘に大きな感動を覚えました。
あとがきによれば、著者は、膨大な時間と手間を費やして本書を上梓したようです。
著者の「スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ」も読みましたが、同じ語り口ながら、本書は愛ではなく、敬意が感じられました。
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○野地秩嘉 ○トヨタ ○トヨタ生産方式
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評価は5です。
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