伏木享著、新潮新書刊
「味」は不思議だ。数十年前に企画した講座で「味の秘密」と銘打って4回の講演会と1回の視察を行ったが、結局良く分からなかった。それぞれの講演と視察は面白かったが、総体的な「味の秘密」はちっとも解き明かされなかった。それ以来、「味の秘密」が私の好奇心が目指す場所の一つになった。
本書は、「コク」というキーワードを使って、味わう過程に生じる神経反応や知覚を解き明かすと共に、それらが生命の営みのために必要な栄養の摂取という本質的な場所から発していることを明らかにしている。
例えば、ネズミなどの動物も「コク」を認識し執着することが実験で証明されているとのことだ。しかし、著者の論はそこに留まらない。「コク」の構成要素そのものの周辺にある「コクを強める作用」を示し、更には、コクの本体に到達する以前に、その到達した際に感じる陶酔に思いを致し精神的な高みに達する、いわば味わいの達人の境地に読者を誘う。フグの刺身を初めて食した30代に、ちっとも美味しいと感じなかったことを思い出した。
平易な解説で科学的な解説も存分に味わえたが、著者の多方面に亘る教養と物事の本質を追究する姿勢を感じた。そして最終章の、近未来の「コク」に関する予想記事が、著者の少し目線をずらしながらも本質を射貫く視線を、巧みなユーモアで包んでいて秀逸だった。良書と思います。
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○伏木亨
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評価は5です。
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