読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

住まい方の実践 ある建築家の仕事と暮らし

2020年08月02日 09時24分34秒 | ■読む

渡辺武信著、中公新書刊
本書の出版は1997年で、著者が60歳直前の著作のようです。内容は、連載エッセイを配した第1章と2章、ご自分の家を写真付きで案内し、工夫や意図を述べた第3章、住むということの意味と有り様を述べた第4章から構成されています。

本書で新鮮な考え方に触れました。それは家が「何かをする」為の機能だけで無く、「とくにこれといったことを何もしない」つまり「ただ居る」場所が必要であり大切なのだということです。不意を突かれました。私は「何となくだらだらと過ごす」ことが不得意で、罪悪感を抱きがちですが、リタイアした後に痛感したのは、何もしないで居ることの贅沢さでした。常に追いかけられているかのように何かをして時間を埋めることで充実感を味わってきた社会人の生活は、無為に過ごした青春期の反動であったようです。

学生時代に、一人で旅した記憶の断片は、今でも鮮烈に記憶に留まっています。孤独を恐れながら、孤独に惹かれた思春期は、暗く長いトンネルのようで、その先にあった厳しい社会人生活と大きな対比を成していました。今になって、空っぽな自分の内面に悩まされた時代が、その後の人生の基盤となったことが分かります。

リタイア後の生活は、制約の少ない、それ故により自制を要する日々ですが、本書の「ただ居る」場所と時間をゆっくりと味わいたいと思います。

本書は、簡潔で的確ながら含みのある文章が印象的ですが、著者は詩人でもあるそうで、言葉に対する感覚が鋭敏な方故と納得しました。自省を伴いつつ、質(たち)の良い人は良いなぁ、と改めて感じました。

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渡辺武信
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評価は4です。

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