東日本大震災から立ち上がろうとする、岩手県大槌町赤浜の人々を追ったドキュメンタリー映画を観てきた。小西晴子監督作品の『赤浜ロックンロール』という映画だ。
2011年3月11日、最大22メートルの高さで襲った津波は、町の85%を奪い去り、1280余人の死者・不明者を出した。国と県は、その復興策として、高さ14.5メートルの巨大な防潮堤で海岸線を囲う案を提示するが、赤浜の漁師たちは、この案をキッパリと拒絶する。理由は一言、
「海が見えねじゃねえか! バカヤロー」
彼らは続けて言う。
「海が見えねえで、どうやって海から身を守るんだ!」
「人間の作ったものは壊れる。防潮堤には頼らねえ」
「自然と闘えるのは、人間の知識と知恵しかねえ」
14.5メートルといえばビル5階の高さ、それで海岸をふさがれたのでは海は全く見えない。彼らは、そうではなく、毎日海と向き合いながら、経験と知識と人間の叡智をもって海とともに生きる道を選んだのである。
この地は背後に豊かな森をかかえ、そこで育まれる良水が人々の生活を支えるだけでなく、その水は海中に湧き出て、牡蠣、ほや、わかめなど海の幸を育てる。山も森も海も、一体となって豊かな自然を育んでいるのである。その中に生きる人々にとって、その自然を遮る人工物は考えられない異物でしかないのであろう。
舟べりに引き上げられる豊かに生育したわかめを見ながら、漁師はつぶやく、
「良く育った。海はよみがえった。海を汚すのは自然ではなく人間だけだ」
この漁師は津波のことを聞かれて、「おっかなかった」と本当に怖そうに語ったが、それでもなお、「あの津波も、人が汚した海をきれいに洗い流してくれて、再びこんなにきれいな海に育ててくれた」と言っているかに見えた。
海とともに生きるということが、どんなことであるかを教えてくれる映画であった。