うたごえ居酒屋『家路』から一片のハガキが届いた。時ならぬ時期の来状にイヤな予感を抱きながら文面を見ると、不安は的中、それは閉店のお知らせであった。
『ともしび』66年に続き、『家路』も42年の幕を下ろす。その知らせに接し、戦後民主主義の最後の一角が、音を立てて崩れ落ちる響きを聞いた。その音は静かだがいつまでも鳴り響いた。
うたごえ運動はその歴史的使命を終えたのであろう。ただ、『家路』は『ともしび』の分身でありながら、「うたとピアノと友だちと」をテーマに掲げたユニークな居酒屋で、単なる歌声喫茶と性格を異にしていた。だから、あの‘飲み屋激戦区’の新宿で42年もの営業を可能にしたのであろう。もちろん、経営にあたったP子さんの「語りと弾き歌い」という、類いまれな才能がそれを可能にしたのであるが。
『家路』という屋号が示すように、帰路につく多くの働く人たちを、P子さんは語りと弾き歌いで42年間癒し続けた。
戦後ともった巨大な灯が、また一つ消えた。