医療崩壊したイタリアでは、人工呼吸器の必要な患者でも新型コロナウィルスの治療で「トリアージ」が行われ、
「60代以上の患者には挿管しなくなった。若い人や他の病状のない人を選んで挿管する人の選択をしなければならない。人工呼吸器を必要とするすべての人に挿管できなくなった」という。
トリアージとは高齢者は十分生きたので、先に死ねとということらしい。
新型コロナのパンデミックで避けたい未来、医療崩壊のイタリア
北イタリアの病院は戦時下のような状態
米CNNによると、感染者が最も多い北部ロンバルディア州で集中治療態勢の調整に当たっている関係者は、「今や廊下での集中治療態勢整備を強いられている」「病院の区画は全て重症者のために開放した」と語った。
北部のミラノ近郊にある病院の集中治療室(ICU)で治療に当たるダニエル・マッキーニ医師のSNS(交流サイト)の書き込みも話題になっている。「高齢者だけでなく、若い人も気管挿管され、ICUに搬送される」「1日に15~20人が入院し、ICUは崩壊しつつある。戦争のようだ」と、その惨状を語っている。
また、イル・ジョルナーレという現地メディアには、ロンバルディア州の医師の衝撃的な証言が掲載された。それは、「60代以上の患者には挿管しなくなった。若い人や他の病状のない人を選んで挿管する人の選択をしなければならない。人工呼吸器を必要とするすべての人に挿管できなくなった」というものだ。
![](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00122/031200005/p2.jpg?__scale=w:500,h:326&_sh=0270c80260)
イタリアの現場の医師たちは緊急事態にあるため、断片的な情報が多い。そこで、ベルギーで新型コロナ対応の指定病院に勤める医師に現地の情報から分かることを解説してもらった。
「新型コロナの感染者はまずは肺を休めることが大事なので、呼吸困難が見られるようなら気管挿管をして人工呼吸器を付ける。例えば1000床ほどの規模の病院なら、100個弱の人工呼吸器はある。それを超えるほどの重症患者が集まる事態を聞いたことがない。重症の感染者に人工呼吸器をつけられなければ死んでしまう。内容が本当だとすると、北イタリアの一部の医療現場はまさに戦時下のような状態ではないか」
イタリアはこれまで財政緊縮策の一環として医療費削減を進め、医療機関や医療従事者を削減してきたところに、新型コロナの重症者が殺到してしまった。引退した医師を呼び戻すなどの緊急策を講じているが、人員不足は解消されていない。そうした中で、十分な治療ができない重症者が増え、死者が急増している可能性がある。
[FT]新型コロナ 治療の優先順位は
- 2020/3/13 16:48
- 日本経済新聞 電子版
新型コロナウイルス対策は封じ込めから感染拡大のスピードを遅らせることに重点が移りつつある。ウイルスが引き起こす新型肺炎は南極を除く全ての大陸に広がった。欧州で最も感染が深刻なイタリアは全土で移動が制限されている。
![深刻なパンデミックが発生すれば、どういう人の治療を優先するか難しい判断を迫られそうだ=AP](https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXMZO5675573013032020000001-PN1-4.jpg?auto=format%2Ccompress&ch=Width%2CDPR&fit=max&ixlib=java-1.2.0&s=9fb38c2729a4c06fef980ec3cca6e9ca)
深刻なパンデミックが発生すれば、どういう人の治療を優先するか難しい判断を迫られそうだ=AP
現状ではワクチンも治療薬もない新型肺炎は、国民の生命を守ることを最大の使命とする各国政府に非常に大きな難題を突きつけている。医療サービスがパンクしたとき、重要になるのは透明性だ。英国は幸いにも、明確でタイムリーな助言を与えてくれる専門家が公衆衛生政策をけん引している。大混乱が起きている米国とは対照的だ。
北イタリアでは集中治療用ベッドがあっという間に埋まりつつある。医療提供に制限がかけられるかもしれない。そうなれば、不足する集中治療用ベッドや人工呼吸器を誰にあてがうのか、という難しい決断をする根拠を国民に知らせなければならないと倫理学者は指摘する。
「需要が急増し供給が限られていたら、資源をどう配分したらいいのか」。英ナフィールド生命倫理協議会のヒュー・ウィットル会長はこう問いかける。同協議会は以前、パンデミック(世界的な大流行)対策の議論を主導した。「指針を構築するときの原則が透明度の高いものであり、広く明確に公開されることと、政府が今後起こりそうな事に対して準備を整えておくことが重要だ」と同氏は言う。
■米では国民を5層に分類
実は、病院で治療待ちの列の先頭が誰になるかはすでに決まっているという驚くべき考え方は既に成文化されている。例えば米疾病対策センター(CDC)では国民を5層に分け、インフルエンザのパンデミックが発生した際に備蓄に限りのあるワクチンを接種できる人に優先順位をつけている。最も優先される第1層は、海外で任務に当たる兵士や病院など医療現場の最前線で働く人たち、救急隊や警察、ワクチン製造業者、薬剤師、妊婦、生後35か月以下の乳幼児などだ。第2層は葬儀場の職員や、電気・ガス・水道などのエネルギーインフラに関わる人たちで、第3層には銀行員や運送業者などが含まれる。
優先度の高い職業に就いていない65歳未満の健康な成人は、最も低位の第5層に分類される。興味深いことに、優先順位はどんな疾病かによって変わる。65歳以上は重症度が低い疾病なら第2層に入るが、重症度が極めて高いときは第4層に落ちる。
実際に病気になると、この区分はまた見直される。働いている人がエピデミック(地域的な流行)の第1波が押し寄せる前に回復し、仕事に復帰するのは難しいだろうから、職業上の優先度より治療の必要性が考慮される。ただしその場合でも、医療従事者は他の人より先に治療を受けられるようにしている。
■深刻なパンデミック時にはどうするか
パンデミック時の道徳規範に関し、様々な論文を発表しているカナダのウェスタン大学の生命倫理学者マックスウェル・スミス氏は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時に「救命治療をまず誰に施すべきか」という問題がクローズアップされたと考えている。正当性のある治療の順位付けは、あらゆる人が参加可能で、信頼できる公正な方法で行われるべきだという。「国民が怒ったり抗議したりしないようにするには、このことを前もって決めておく必要がある」とスミス氏は語る。「人工呼吸器を奪い合うようになるまで手をこまねいていると、我々は理にかなった意思決定プロセスを経ることができなくなる公算が大きい」
深刻なパンデミックが起これば、最も多くの命を救うという広範で実利的な目的の達成には、難しい判断が必要になる。これまでのように最も重症な患者を最優先すれば、人工呼吸器は助かる見込みの低い人に割り当てられることになる。病気になった人から治療していくやり方も選択肢になりそうにない。限られた資源を効率的に使うこと自体が倫理上の大原則である以上、回復する見込みが最も高い人にこそ資源が振り向けられる可能性があるからだ。他に若年層優先という考え方(フェア・イニング論)もある。しかし新型肺炎はインフルエンザと違い、赤ちゃんや幼い子供は比較的軽症で済む。
スミス氏は、治療の必要性が同じくらい高い患者が大幅に増えて医療体制がとても追い付かなくなれば、くじで決めることも選択肢の一つだと話す。スイスの製薬大手ノバルティスは薬価が約210万ドル(約2億2000万円)の遺伝子難病治療薬「ゾルゲンスマ」について、人道的理由から承認前に投与する最初の患者を抽選で選んだ。たとえ非常時であったとしても、この方法はくじに外れた人には残酷だ。
今は手洗いと自主的な自宅待機で医療体制への負荷を減らし、ワクチンが開発されるまで時間稼ぎをするのがより賢明だといえる。そうすることで、最終的にはより多くの人が新型肺炎に勝つ機会を持てるからだ。
By Anjana Ahuja