アメリカが沖縄に攻めてくる。
中学三年生14歳、比嘉真一にガリ版づりの召集令状が届けられた。
同級生たちと、祖国日本を守るために死ねると意気盛んに米軍を迎え撃つ決意を胸に参陣する。
30年以上前に書かれた小説なのだけど、反戦なんて生やさしい言葉では、はかれない迫力で迫ってきます。
厨二病と言うネットスラングがあるように、空想と現実が混じり合ったような年頃である少年の心がうまく書かれています。
少年比嘉真一は、爆雷を担いで斬り込みを行う兵士や先輩たちにあこがれ、自分もかっこよく死ぬのだと心を決めます。
しかし、与えられた任務は負傷者の運搬や穴掘りや辛く地味な任務ばかり。
シラミに集られ、ウジが沸いた負傷兵を運搬し、外へ出るのは夜間のみ、日中は穴ぐら住まいと良いところがありません。
海上を埋め尽くすアメリカ軍の船をみようと、土を掘り返す砲弾の嵐を体験しようと、日本軍の反撃を信じて任務を遂行していくのです。
圧倒的物量を持つ米軍も、日本軍の捨て身の抵抗にあいながら、なかなか前進できずにいますが、それでもジリジリと勢力範囲を拡大していきます。
沖縄の住民も軍人も徐々に後退し、島の端の方へ追いつめらていくのです。
容赦ないアメリカ軍の砲撃と空襲により、大地は掘り返され、死体の山の中を人々は安全な場所を求めて逃げていきます。
この小説のすごいところは、悲惨な状況を、当たり前のように淡々と書き連ねていくので、異常な状況が日常の状況のように感じられてくるところです。
死体の山は腐り死臭を放ちウジが沸くのですが、日中には敵機の目から逃れるため人はその山に潜り夜になると這い出てくる生活を強いられます。
その中で、死体に無頓着になり、ウジ虫にも興味をしめしません。
生と死が混同し、生きていても死んでいても同じという状況で、少年の目を通して見た戦場をが描かれています。
比嘉真一さんは、実在の人物で、吉村明が返還前の沖縄に渡り取材した一人です。
その体験談と、他の多くの人たちの証言を元に書かれた小説ですので、現場の庶民から見た沖縄戦を疑似体験できる作品となっています。
反戦小説のような大げさな修飾がなく淡々とした筆運びが、真実に近い空気を感じさせてくれるのでしょう。