言わずと知れた原爆文学の傑作です。
原爆ものと言うと気持ちが悪い描写がこれでもかと出てきて、被害者アピールが激しく、気分が悪くなるようなものを想像していたのですが、これは違いました。
主人公が図書館に寄贈するために自分の日記や他の人の手記を清書していく話です。日記や手記の中で原爆投下直後の様子が、客観的に淡々と描かれています。
それは、原爆の悲惨な現場でも日常のように生活があるのです。
見上げるキノコ雲は、むくりこくりの雲と言われるように、どこかしらユーモアや滑稽さも混じっていて、その中で知らず知らずのうちに蝕まれていく人たちを描いています。
家が吹き飛び、多くの人が焼け死んで、重傷を負ってもなお、自分の仕事をたんたんとこなそうとする人々は、カミュの『ペスト』とも似て、極限状態の人の生き方として自然でいて尊いものだと感じました。